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サスは、ウィリのミネラ侯爵家で下働きとして働くことになった。元からの聡明さも相まって、3年もすると仕事のできる優秀な使用人に成長した。その後、サスからサンギス・グラキエスと名を変えた。人となりをミネラ侯爵に認めてもらえたことによる推薦と、多少の心付けとで。グラキエスとは、ミネラ侯爵家の遠い遠い親戚の男爵家に由来する。振って湧いた養子の話に、領地もなく、跡取りもない老夫婦は、男爵家の名を残せると喜んだらしい。ウィリからの心付けの影響も小さくはないだろうが。そういう経緯で、サスは男爵となり、目下、ミネラ侯爵家執事見習いとして修練中なのだそうだ。
ミネラ侯爵家は、2代ほど前に発見された大きな鉱山を所有している。その財力はこの国の国家予算の半分程度に及ぶともにも囁かれている。そんな侯爵家で働けるサスは、幸せ者である。
そんなサスに感慨深い目を向けながら、ルシアスは口を切る。
「サス、君に頼み事をしたい。少し特殊な仕事だ。」
「なんなりとお申し付けください。誠心誠意、お仕えさせていただく所存です。」
出会った頃のぼんやりした言葉使いや所作は微塵もない。素晴らしい成長だ。
ルシアスは頷くと、言葉を続けた。
「私の身代わりになってほしいのだ。」
「身代わりですか?」
「そうだ。私は近日中にウーベル地方に視察に行く予定になっている。国からの視察の為、それなりの規模で向かう事となる。もちろん、行く先々に先触れを出しながら行く事になるだろう。」
サスが、心得たとばかりに話を引き継ぐ。
「先触れにより、見えていたものも見えなくなってしまうのを防ぐために、殿下が別に行動される為の身代わりが必要ということでしょうか?」
ルシアスは笑みを浮かべて頷く。
「そうだ。隠されてしまうと、物事の核心が見えなくなってしまうからな。だから別行動が必要だ。幸いな事に、今まで私は何の公務もしたことがない。だから、ほとんどのものが私の容姿を知らないのだ。君は、背格好が私に近いから、つばの大きな帽子を目深に被れば大抵のものにはわかるまい。ウーベル地方のスピカという都市まで、馬車で移動するだけだ。」
サスもロイも自分の目標に向かって努力していた時に、自分は本当に何もしてこなかった事を、我ながら残念に思う。
「承知いたしました。出立に合わせて準備いたします。ルシアス殿下の御威光を損なわぬよう、誠心誠意努めさせていだきます。」
立派な青年に育ったと、ルシアスは思った。これで何度目だろうか。
「では、これから私と共に参ろう。細かい事を打ち合わせたい。」
これで準備は整った。
ルシアスの旅が始まる。




