第60話 オルトロスの脅威
アルアビスの冒険者ギルドに着くと、建物の中にはアルアビスの冒険者たちがほぼ揃っており、アティムの冒険者たちも徐々に到着してきていた。
トキオたちは、入り口に近い場所で立って待っていたが、数分程度で50歳半ばの細身で長身のアルアビスのギルド支部長が出て来て説明を始めた。
「皆もすでに聞いていると思うが、ここから南西にあるアタマックの森に魔獣のオルトロスが出現した。すでに王国軍が出動しているが、我々、冒険者にも出動要請があった。
魔獣ということでアティムのギルドにも応援を頼んだ。快く応じてくれて感謝する。
今のところ確認されているのは1体だけなので、応援を頼んだのはアティムだけだ。
今までに入った報告によると、恐ろしいほどの敏捷性ですでに兵士が10人ほどやられたらしい」
ここで、場内からどよめきが起こった。
「すでにオルトロスの習性について聞いている者は、すまないが先に森に移動してくれ。まだの者には、今から私が説明する」
それを聞いたテリットとパーシーのパーティーメンバーは、ルニエに先導されて再び馬車に乗り込んだが、アティムのギルド支部長は、ここの支部長と話がしたいということで残った。
乗り込み始めたところで、アルアビスの支部長が説明を始めた。
「上級魔法使いに確認したところによると、オルトロスを攻撃しようとすると、その敵意を感じ取って・・・」
アルアビスの街を出る頃には、すっかり日が暮れて、辺りはかなり暗くなっていた。
「人を集めたのはいいが、拳銃も通じないとなるとどうやって仕留めるんだ?」
しばらく行ったところでテリットがルニエに聞いた。
「どうだろうな。考えられるのは周りを大きく取り囲んでおいて、その囲みを徐々に狭めていって一斉に攻撃する方法かな」
「それで仕留められるかな。すべて避けられるんじゃないか?あまり囲みを狭くすると、今度は囲んでいる者たちが危ないだろうし」
「うーむ、確かにそうだな。それじゃあ、着いたらすでに作戦が決められているとは思うが、みんなも良い方法がないか考えておいてくれないか」
「そうだな。わかった」
「ちょっと気になってることがあるんだけど」
トキオが言った。
「なんだ?」
ルニエが聞き返した。
「目撃されたのは1体らしいけど、そいつはどこから現れたのかな。もし、森の奥のどこかに潜んでいたんだとしたら、他に何体かいてもおかしくないんじゃないかな」
「ああ、その可能性は最初の段階で検討されて、数名の兵士が森の奥へ確認に行ってるらしい。俺たちが着く頃には戻ってるんじゃないかな」
「そうか。当然、検討されてるよね。ならいいんだ」
トキオは、そうは言ったものの、何か引っかかるものを感じていた。
しかし、オルトロスを仕留める方法を考えるために、その感覚は一旦忘れることにした。
30分ほどで森に着いた。
その間、誰も口を開かなかったところをみると、良い案が浮かんだ者はいないようだった。
馬車を降りると、森の入口に案内役の兵士が待っており、トキオたちは、すでに着いていたアルアビスの冒険者たちと一緒に森の奥へ入った。
「状況はどうですか?」
歩きながら、ルニエがその兵士に聞いた。
「あまり良くないな。今までに見たこともないような素早さで、動き始めたら狙いがつけられず、どの武器で攻撃してもまるで当たらないんだ」
兵士は、少し眉間に皺を寄せて答えた。
「ライフル銃は試してみました?」
トキオが聞いた。
「ああ、30マインほど離れた場所からライフル銃で狙ってみたが、それすらも避けられた」
「そうなんですか」
トキオは、そうであろうと予想していたが、他の者たちは息を飲んだ。
「その魔獣の弱点属性はなんですか?」
「火と光だな」
「なるほど・・・」
「それは、ちょっと好材料だな。火魔法を使える魔法使いはうちの街にも何人かいるし、トキオの光魔法もあるからな」
テリットがトキオを見ながら言った。
「なに?お前が光魔法を使えるというアティムの冒険者か!?」
その兵士は驚いた顔でトキオを見た。
「あ、はい」
「じゃあ、銃を考案したのもお前か?」
「いえ、考案したのは俺じゃないです。俺は、この世界に広めただけで」
「この世界?」
「あ・・・えーと、この近辺にって意味です」
トキオは思わず口から出た言葉に慌てたが、テリットが助け舟を出した。
「トキオのいた村では、よその土地のことを『この世界』って言うらしいですよ」
「ふーん・・・変わった村だな」
「ええ、まあ、かなり東の方の辺境なんで」
「お!お前も東の辺境の出身なのか。俺もだ。なんて村だ?」
「え、あー、トーキョー村です」
「トーキョー村?聞いたことないな。どのへんだよ?俺はアティランだ」
トキオが返答に困っていると、前方から甲高いながらも空気を震わすような大きな咆哮と、何かがぶつかり合うような音が聞こえて来た。
「何かあったな!?急ごう!」
兵士は、そう言って駆けだして行った。
他の冒険者たちも、その後を走って追って行ったが、しばらくするとトキオの耳元で声がした。
「あんた、やっぱりなんか隠してるわね」
振り返ると右後ろにクロアがいた。
「別に隠してないって」
「いいや、絶対ウソよ。今の態度で確信したわ」
「なんでそこんとこにこだわるかなあ。もしかして、クロアの方が隠し事してるからじゃないの?」
トキオは、支部長に聞いた、クロアは前の街以前の経歴が不明だという話を思い出して、そう聞いてみた。
「な、なに言ってんのよ!私は別に、か、隠し事なんかないわよ!」
そう言いながらも、クロアは目をそらした。
「おや、図星かい」
「そ、そんなわけないじゃない」
そう言うと、クロアは走るスピードを緩めてトキオから離れて行った。
(ホントに隠し事があるみたいだな。まあ、俺にはどうでもいいけど)
トキオは、苦笑した。
前方が明るくなってきたところで兵士は走るスピードを緩めた。
そこは、この森の中ではかなり木々がまばらになっている場所で、いくつも篝火がたかれその中央を明るく照らしていた。
照らされた先には、木でできた高さ5メートルほどの箱型の櫓がいくつもあり、それに向こう側から何かがぶつかっているようで、かなり大きな音とともに激しく揺れていた。
「あれは?」
テリットが聞いた。
「魔獣の動きを止めようと、城攻め用の櫓をいくつも持ち出して来てそれで取り囲んでいるんだ。その囲みを徐々に狭めて動きを封じたうえで、木の上からライフル銃と矢で仕留めようと考えたんだが・・・」
そこで兵士は一旦、言葉を切った。
「ここから見ている感じでは、内側から魔獣が激しく櫓に体当たりをして、櫓の前進を阻んでいるようだな」
確かに、トキオの目にも櫓の囲みの内側から大きなものが激しくぶつかっているように見えた。
ドォン!
そこで銃声がした。木の上からライフル銃で狙っている兵士の一人が発砲したようだった。
ドドドドン!
その音が合図かのように、立て続けに銃の発射音が轟いた。
そのせいか、櫓の動きが少しの間止まった。
「ダメです!まったく当たりません!」
しかし、木の上の兵士からはそんな言葉が聞こえて来た。
そして、次の瞬間、こちら側の櫓が大きく内側から押されたかと思うと、二つの頭を持った巨大な四足の生き物が木の上でライフル銃を構えている兵士の一人に目がけて飛び上がった。
「ぐあっ!」
その兵士は、その生き物の前足で弾き飛ばされたのか、一声上げて木の下へ落下して行った。
「あれがオルトロスか!」
「そうだ」
テリットの言葉に兵士が答えた。
「あんな高さを飛び上がれるとは!」
オルトロスは櫓の外側に飛び降りると、櫓を押さえていた兵士たちに襲い掛かった。
「まずい!」
そう叫ぶと、テリットを先頭にアティムの冒険者たちはオルトロスの方へ走りだそうとした。
「止まれ!」
しかし、兵士がそう叫んだため、皆、足を止めた。
「策もなく突っ込んでも死人が増えるだけだ!いつも討伐している魔物と同じだと思うな!」
トキオのそばで、誰かが小声でブツブツ言う声が聞こえたのでそっちを見ると、クロアが手を開いて胸の前で合わせて詠唱していた。
そして、両肘を腰の後ろに引いて魔法を放とうとした瞬間、オルトロスがこちらを向いた。
「ファイダー!」
クロアがそう唱え、両手を前に突き出して火球を放った。
その火球は、直径が5メートルほどもある今まで見たこともない巨大なものだった。
火球はオルトロスを直撃するかと思われたが、直前で横っ跳びして軽々と躱された。
火球はその後方にあった櫓のいくつかに命中し、櫓は炎に包まれた。
「ウソでしょ!」
クロアが驚きの声を上げた。
「今、火球を放つ直前にこっちを見たな」
「ああ、あれが、危険を事前に察知する能力ってやつか!」
テリットとパーシーがそう言うのと同時に、オルトロスがこっちに目がけて突進して来た。
「まずい!」
兵士がそう叫んだ瞬間、トキオは皆の前に飛び出した。
「リフレック!」
トキオは、両手を前に突き出すと反射魔法を自分の前方3メートルほどのところに展開した。
オルトロスは、そのまま反射魔法の壁に頭から突っ込んだ。
ズーン!
大きな音ともに、オルトロスは後方に弾き飛ばされると後ろ向きに1回転して腹這いになった。
自分の突進力が仇になったようで、両の頭から血を流していた。
「今の魔法はなんだ?光魔法か?」
「はい、光系の反射魔法です」
兵士の問いかけにトキオは答えた。
「オルトロスはなぜ避けなかった?」
「攻撃する意思がなかったからじゃないですか?俺は、みんなを守ろうと思って魔法を使いましたから」
「なるほど!では、それを使えば・・・」
「・・・いや、もうダメみたいです」
オルトロスは両の頭を振りながら立ち上がったが、こちらをチラリと見ると、方向を変え、また、櫓を押さえている兵士の方へ跳びかかって行った。
兵士たちは櫓を盾にして必死で防戦していた。
「向こうから攻撃してくれないと・・・いや、使えるかもしれない!」
トキオはそう言うと、冒険者たちの方を向いた。
「すまない、火魔法が使える冒険者はちょっと来てくれ」
トキオがそう声をかけるとは、クロアとアルアビスの冒険者二人が前に出て来た。




