第59話 新たなる魔獣
アルアビス南西の森。
「おお、やった!」
頭の左半分を破壊されたグリベラーは、ゆっくりと後方へ倒れていった。
「その拳銃っていう新しい武器、スゴい威力だな!」
「ああ、俺も実戦では初めて使ったけど、こんなに簡単にグリベラーを討伐できるとは、正直、驚きだ」
「これからも、この調子でいけそうだな」
「今みたいに、誰かが注意を引き付けて動きを止めてくれれば当てられるな。もっと訓練しないと動いている魔物に当てるのは難しいけどな」
そう言って、拳銃を持った冒険者はもう一人の冒険者に向かって満足そうな顔をした。
「また、アティムのトキオが考案したんだって?」
「ああ、そうらしい。アイツには、ドロップアイテムやステータス画面から始まって、柔道、強化魔法と世話になりっぱなしだな」
「ついでに、腕相撲とダーツもだな」
「そうだった」
そう言って、二人は笑った。
「よし!金貨は確保したぞ」
倒れたグリレベラーの脇にしゃがみ込んでいた別の冒険者が言った。
「おお!グリベラーが簡単に倒せるとなると、これから一気に収入が増えるな」
「ああ。これで、家族にももっといい暮らしがさせられるよ」
「数か月前までの貧乏生活がウソみたいだよな」
「ホントだな」
そう言って、3人は顔を見合わせて微笑んだが、その時、しゃがんでいる男のかなり後方で獣の唸り声がした。
「気を付けろ!まだいるぞ!」
その言葉で、しゃがんでいた男は急いで残りの二人のところに駆け寄ると、剣を抜いて唸り声のした方に身構えた。
拳銃を持った男は、その拳銃を唸り声の方に向け、残りの一人は手に持った槍を構えた。
唸り声は徐々に近づいてきたが、三人はほぼ同時にいつもと違う違和感を持った。
「この唸り声・・・1体じゃないぞ!」
「それと、この地響きのような足音はなんだ!?」
確かに、唸り声が近づくにつれて地面が震えるような大きな足音が聞こえて来た。
ほどなく、30メートルほど先にある藪の向こう側から、2組の赤い目が睨んでいるのが見えた。
「2体だ!気を付けろ!」
拳銃を持った男がそう言った途端、2つの黒っぽいい毛におおわれた頭が、藪の上に出て来た。
「グリベラーか!?・・・いや、違う!」
その頭は、藪を押しつぶすように前進してくると、その体の半分を藪のこちら側にさらした。
それは、頭を黒い毛におおわれた、4つ足でありながら2足歩行しているグリベラーほどの高さで2つの首を持った魔物だった。
頭はグリベラーに似ていたが、体の毛は薄く、まったく違う姿をしていた。
「なんだコイツは!」
「デカいぞ!」
槍と拳銃を持った男は、そう言うと魔物に向けて身構えた。
「こ、こいつは、オルトロスだ!魔獣だぞ!」
「なにっ!」
剣を持った男の言葉に、他の二人は驚愕の表情を浮かべた。
「おい、ここは一旦逃げて応援を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「オルトロスは驚くほど敏捷な魔獣だって話だから、ここまで近づかれたら無理だ」
「じゃあ、どうするんだ!」
「よし、俺が拳銃で頭を狙うから、お前たちは左右から注意を引き付けてくれ」
「大丈夫かよ!」
「でも、もうそれしかないな」
剣の男と槍の男は、オルトロスを刺激しないように左右にゆっくりと移動した。
そして、それぞれの首を牽制できる位置に着くと、槍の男が目で剣の男に合図を送った。
「いやぁ!」
二人は、ほぼ同時に、大きな声を上げながらオルトロスに向かって大きく踏み込み、手に持った武器を、それぞれ、目の前にある頭の方へ突き出した。
オルトロスのそれぞれの頭が、口を開き目の前に来た武器を威嚇するように前に突き出された瞬間、
(よし、ここだ!)
と、拳銃の男は引き金を引いた。
バン!
しかし、弾が確実に右の頭の側頭部をとらえたと思った瞬間、その弾は頭の上を通過していた。
「バカ!なに外してるんだ!」
「・・・すまん、もう一度だ」
再び槍の男と剣の男はオルトロスに向かい合うと、槍の男の合図でもう一度武器を突き出しながら踏み込んだ。
「だぁ!」
(よし!)
拳銃の男は、今度は左の頭を狙ったが、今度も、確実に当たったと思った瞬間に弾が頭の上を通過した。
「なにやってる!」
「確実に当たったはずなのに!」
拳銃の男は困惑して、一瞬棒立ちになった。
すると、突然、オルトロスが拳銃の男目がけて突進して来た。
「うわぁ!」
拳銃の男はパニックになりながら、残りの3発を続けて発射したが、至近距離だったにもかかわらず、それもすべて当たらなかった。
次の瞬間、拳銃の男は、オルトロスの二つの頭に両肩を噛みつかれていた。
「ぐああ!」
(外したんじゃない。避けられたんだ!)
悲鳴を上げながら、拳銃の男はそう考えていた。
「俺はもうダメだ・・・時間を稼ぐから、お前たちは街へ知らせてくれ」
「しかし・・・」
「早くしろ!3人ともやられるぞ!」
「・・・分かった」
槍の男と剣の男は、拳銃の男をかみ砕いているオルトロスの方を見たまましばらく後ずさり、それから一目散に街の方へ駆けて行った。
拳銃の男は、最後の力を振り絞ってぶら下がるように両足でオルトロスの右の首を下から挟み込んで締め上げたが、それもすぐに力のないものになった。
「おい!追って来るかもしれないから分かれるぞ!」
「わかった!」
逃げた二人は、そう言うと左右に分かれて森の外を目指した。
そして、その姿を、少し離れた場所からハードオークと数体のオークが見つめていた。
テリットたち4人が討伐から戻って飲食コーナーで休んでいた時、外にすごい勢いで馬車がやって来て止まった音がした。
それから、アルアビスのルニエが飛び込んできて、険しい表情で事務所の方へ駆け込んで行った。
するとすぐに、支部長が血相を変えて事務所の方から飛び出して来た。後ろにはルニエもいた。
「みんな大変だ!また魔獣が出た!今度はオルトロスだ!」
「なに!?」
支部長の言葉で、皆、色めき立った。
「どこにだ!」
テリットが聞いた。
「アルアビス南西の森だ。すでにアルアビスの王国軍が出動したらしいが、うちの冒険者にも応援要請があった。ここの王国軍にもアルアビスの王国軍から出動要請が出たらしい」
「わかった!とりあえず、アルアビスに行けばいいか!」
「ああ、すまないが頼む!」
そう答えたのはルニエだった。
その場にいた冒険者たちが装備を整え始めるとすぐ、ミレリアと若いギルドの職員が外へ飛び出して行った。
馬車の調達に行ったようだった。
すぐに馬車が続けてやって来たので、準備が整った者から乗れる限りの人数で乗り込んでアルアビスへ向かって行った。
テリットとパ―シーのパーティーが2台目の馬車に乗り込もうしていたらルニエから声をかけられた。
「お前たちは俺の馬車に乗ってくれ。状況を説明しておきたい」
「わかった」
テリットたちが乗り込むと、最後に支部長も乗り込んで来た。
「うちの3人のパーティーが森で別の依頼による討伐をしていたら突然現れた」
馬車が街の外に出るとルニエは状況説明を始めた。
「槍と剣で牽制しながら拳銃で攻撃したんだが、すべて当たらなかったらしい。ただ、そこから逃げてきた者の話だと、外したというより避けられたという感じだったそうだ」
「避けられた?拳銃の弾をか!?」
「ああ、そうだ。それで、魔獣の知識がある王国直属の上級魔法使いに聞きに行ったところ、オルトロスは危険を事前に察知して回避する能力があることがわかった」
「なに!・・・それは、撃たれる前に避けてるってことか?」
「どうもそうらしい。それも、驚異的な敏捷性があるからできることだそうだが」
「それほどの敏捷性があって、拳銃の弾も避けるような奴から良く逃げて帰って来られたな」
「拳銃を持っていた者が犠牲になって二人を逃がしたってことだ。ただ、戻って来たのは一人だったから、もう一人も後から追いつかれてやられたようだ」
「・・・そうか」
そこで少し沈黙があった。
「だから、矢や拳銃で攻撃してもダメだし、剣や槍も、敏捷性があって下手に近寄れないから難しいらしい」
「それじゃ、魔法による攻撃しかないわね」
そう言ったのはクロアだった。
「ああ、今頃、うちの支部長と、王国軍の師団長、上級魔法使いが、その線で攻撃方法を検討してると思う」
「でも、魔法でも避けられちゃうんじゃないの?」
アウレラが言った。
「そんなの、体全体を包み込むような魔法で攻撃すればいいじゃない」
「それって、かなり近寄らないと難しいだろ?危なくないか?」
クロアの意見にトキオが答えた。
「そうかしら?私なら大丈夫だと思うけど」
「いやあ、やるとしても、オルトロスが瞬時にどのくらいの距離を移動できるか、まず軽く試してみてからの方がいいだろ」
「まあ、そうね。私も魔獣は初めてだから、まず、軽く攻撃してからにするわ」
クロアにしては控えめなことを言ったが、それだけ初めて対峙する魔獣に不安があるのだろうとトキオは思った。
「まあ、とにかく、魔獣は王国軍の管轄だから、攻撃方法は軍の指示に従うしかない。現地に着いたら、リーダーを集めて説明があると思うから、話はそれからだな」
クロアは少し不服そうだったが、それを聞いて黙った。
さすがのクロアも王国軍に逆らう気はないらしかった。
「ところで、オルトロスってどんな見た目なんだ。それが分からないと現場で困るな」
「ああ、すまない。グリベラーに似た頭を二つ持つ4つ足の魔物で、大蛇のような尻尾を持っている。4つ足なのに体の高さはグリベラーぐらいあって、牙が鋭く顎の力が強いので、噛みつかれたらまず助からない。それと、足の力と尻尾の力も強いから、それで攻撃されると良くて重症だそうだ」
「・・・そうか、厄介だな」
「とにかく、そいつに出くわしても単独での攻撃は控えてくれ。まず、助からないからな」
「わかった」
皆は自分なりの対策を考え始めたのか、それっきり、アルアビスの街に着くまで誰も口を開かなかった。




