第61話 魔人出現
「どうやるんだ?」
アルアビスの冒険者の一人が言った。
「今から、あんたたちに手伝ってもらってオルトロスを攻撃する。ええっと・・・」
「あんたトキオだろ?俺は、フルコでこいつはローベルトだ」
その冒険者はそう名乗った。
「いい考えでも浮かんだの?つまんないこと言ったら承知しないわよ」
クロアが言った。
「ああ、多分大丈夫だ」
トキオは真顔で答えた。
「何かいい作戦を思い付いたのか?」
他のアティムの冒険者たちも寄って来た。
「これならいけると思う。まずは・・・」
トキオは、皆に自分が考えた作戦を説明した。
「なるほどな。いけそうだな」
テリットが言った。
「悪くないわね」
クロアも納得したようだった。
「それじゃ、みんな配置に・・・」
「ぐあっ!」
「ぎゃあ!」
トキオがそう指示を出そうとした瞬間、右手のかなり離れた方から複数の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ!?」
テリットが最初に反応した。
「オークだ!」
悲鳴がした方向から大きな声が聞こえた。
すると、今度は左の遠方から悲鳴が上がり、さらには、後方からも悲鳴が聞こえてきた。
それからすぐ、後方から誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。
「オークだ!完全に囲まれてる!」
そう言いながら走って来たのはマルケルだった。
「なんだって!」
皆が驚きの声を上げた。
マルケルはトキオたちのところまでたどり着くと言った。
「俺たちが最後のパーティーで、森に入ってこっちに向かっていたら、いきなり後方からオークが襲ってきた。かなり広範囲に森に侵入してきたようだったから相当な数だ。森の外で待機していた兵士がいたはずだが、どうもやられたらしい。今は俺たちと一緒にいた兵士たちと俺んとこのメンバーとアルアビスの冒険者が応戦してる。俺はお前たちに知らせようととりあえずここへ走って来た。応援に戻るから手の空いてる者は一緒に来てくれ!」
「わかったが、こっちも今からオルトロスを攻撃しようとしてたところだったんだ」
「大丈夫。ここは、魔法使いだけでなんとかするよ。テリットたちは応援に行って」
トキオが言った。
「ここにいる兵士も対応するから、この場は大丈夫だ」
一緒にいた兵士が言った。
「・・・そうか、わかった。・・・みんな、行くぞ!」
テリットのその声で、テリットとパーシーのパーティーメンバーは、トキオとクロアを除いてマルケルについて走って行った。
「こっちも仕事をしよう」
トキオはそう言って、クロアとアルアビスの魔法使い二人を連れてオルトロスの方へ近寄って行った。
トキオと一緒にいた兵士は、木の上にいるライフル銃と弓を持った兵士に声をかけると、指示があったらオルトロスを狙うよう手で合図した。
「じゃあ、やるよ」
トキオは、オルトロスとの距離が30メートルほどになったところで立ち止まると、右手を開いて前に構えた。
クロアはトキオの左に立ち、フルコがトキオの右に、ローベルトがさらにその右に立った。
トキオは、まず、トキオたちから見て左を向いて兵士たちが押さえている櫓を攻撃しているオルトロスの向こう側に、横幅10メートルほどの防御魔法を展開し、続いて、その右端に直角になるように同じ奥行きの防御魔法を展開した。
「今だ!」
そのトキオの声で、クロアがオルトロスの体の左側に火炎魔法を放ち、フルコ、ローベルトも、右へ避けていくオルトロスに向かって同じように次々と火炎魔法を放った。
ローベルトの火炎魔法をオルトロスが右へ避けた直後に、今度はトキオがオルトロスの左と上に防御魔法を展開し、オルトロスを囲い込んだ。
続けてクロアがオルトロスの前足目掛けて火炎魔法を放つと、オルトロスはそれを避けようと後方に下がったので、トキオはオルトロスの目の前に反射魔法を放ちオルトロスを防御魔法と反射魔法の壁に完全に閉じ込めた形にした。
「行くよ!」
そのトキオの声で、4人は自分たちが使える最大の攻撃魔法を放つ態勢に入った。
それを感じたオルトロスは、避けるため横に動こうとしたが、防御魔法に挟まれて動けず、最後にはこちらに突進して来ようとしたが、反射魔法に弾かれて後方の防御魔法に叩き付けられた。
トキオは、自分の気を溜めながら皆の様子を観察し、一番時間のかかるクロアの準備が整ったところで言った。
「せーーーの、はっ!」
3人の火球と、トキオの閃光魔法がオルトロス目掛けて飛ぶと同時に、トキオはオルトロス前面の反射魔法を解除した。
ドーーーーン!
4つの攻撃魔法は、見事にオルトロスを直撃し、オルトロスは相当なダメージを負ったうえに全身を炎に包まれて苦しみながらその場に倒れ込んだ。
トキオは、すべての防御魔法を解除すると、
「撃って!」
と、叫んだ。
その声と同時に、木の上で待機していた兵士たちが一斉にライフル銃と矢をオルトロスに向けて放った。
「グアァァ!」
オルトロスは苦しそうに呻くと、ぐったりと地面に突っ伏した。
そこで、手に偃月刀(注)のようなものを持った体の大きな兵士二人がオルトロスの両側から走り寄ると、動かなくなったオルトロスの二つの首に大きく振りかぶってそれを叩き付け、見事に切り落とした。
「やった!」
トキオのその声で、その場は大歓声に包まれた。
トキオは、思わず隣にいたクロアに抱き着いた。
クロアも嬉しそうな顔で抱き着き返して来たが、すぐに真顔になると、トキオを突き飛ばすように離れた。
「なにやってんのよあんた!」
クロアはそう言ったが、顔は赤くなっていた。
「ええ~?魔獣が倒せて嬉しかったんだからいいだろ?クロアは嬉しくなかったのか?」
「まあ、まあまあね。私にとってはこのぐらい当たり前だから」
クロアは口でそう言ったが、顔はなんとなく嬉しそうだった。
その時、突然、動かなくなったオルトロス前につむじ風が起こった。
「なんだ?」
皆が注視していると、その真ん中の地面から人型の何かがせり上がって来た。
「何か出て来るぞ!気を付けろ!」
兵士の誰かが叫んだ。
つむじ風が収まると、そこにはタキシードを派手にしたような黒ずくめ衣装に身を包んだ男が立っていた。
「これはこれは兵士と冒険者の諸君。ご機嫌麗しゅう」
「なんだコイツは!?クロアわかるか?」
「知らない。何者?」
「ま、魔人だ!」
別の兵士が叫んだ。
「なに!?」
トキオとクロアは目を見張ってその魔人を注視した。
確かに良く見ると、耳の上は尖っており、頭の左右から短い角が生えていた。
「ふむ、なかなか強力な魔法を使える者がいるようだ。人間もなかなか進化したようだな」
「なんだお前は!何しに来た!」
階級が高いと思われる30歳半ばの将校が前に進み出て魔人にそう言った。
「人間の分際で、私にそのような口をきいていいと思っているのか。ばか者が」
魔人は、そう言ったかと思うと、次の瞬間にはその将校の後方に立っていた。
そして、指をパチンと鳴らした。
すると、将校の首が胴体から離れて地面に落下した。
その場にいた者は、全員息を飲んだ。
「なんというスピードだ。全然見えなかったぞ」
「私もよ・・・」
トキオとクロアはその場で硬直したように立ちすくんだ。
さすがのクロアも恐怖を覚えたようで、トキオの左腕に両手でしがみついた。
しかし、トキオは魔人に出会ったら聞いてみたいことがあったことを思い出したので、クロアの手を優しく外すと前に進み出た。
「魔人よ、ちょっと聞きたいことがある」
その声で魔人はゆっくりとトキオの方へ向きを変えた。
「ここにも口の効き方を知らない者がいたか。しかし、お前は先ほどオルトロスを倒した者の一人だな。その力に敬意を払って一つだけ質問に答えてやろう。言ってみるが良い」
魔人は、トキオを見下したような目で見るとそう言った。
「なぜ、人間を滅ぼそうとするんだ。その理由が聞きたい」
トキオは、魔人の目をしっかりと見つめて言った。
「ふん、そんなことか。これから滅ぼされる人間がそんなことを聞いてどうする?」
「滅ぼすつもりなら、話したって支障はないだろう?」
「まあいい。そんなに知りたいなら教えてやろう」
魔人は薄笑いを浮かべて続けた。
「元々、この世界は我々魔族のものだったのだ。それが、少し眠っている間に、お前たちが土地のすべてにはびこり、まるで元々自分のものであったかのようにふるまっていた。実に嘆かわしい勘違いだ。だから、元の通りにその土地を我々のものにしてやろうとしているのだよ」
「そのために人間をすべて殺そうと言うのか」
「そういうことだ。一番手っ取り早くこの世界を綺麗にすることができるだろう?」
魔人は、相変わらず見下した目でトキオを見つめていた。
「なぜ人間を殺す必要がある。共生して仲良くやっていくことはできないのか」
「ほう。自ら進んで家畜になろうと言うのか」
「家畜だと。何を言ってる」
「おや?違ったのか?人間などという下等な生き物が我々と共生するというなら、我々の家畜になるということ以外になにがあるのだ」
「ふざけるな!対等の付き合いができないかと言ってるんだ」
「なんだと!それは何の冗談だ!無礼にもほどがあるぞ!」
ここで初めて魔人は怒りの表情を露わにした。
「ぶ、無礼だと!」
「ゴブリンやオークにも劣る人間という下等生物が魔人と対等などと言うから無礼だと言ったんだ。なにがおかしい」
「ゴブリンやオークにも劣る?そいつらはいつも俺たちが討伐している魔物じゃないか。それこそお前の認識違いだろうが」
「それはお前たちが武器を使っているからだろう?単純に身体能力で勝てると言えるのか?」
「・・・え?楽勝で勝てるけど」
「強がりを言っても無駄だ。今頃、お前の仲間はオークたちによって全滅している頃だろうが」
そこで、後方からざわざわ声が聞こえて来た。
「おーい、トキオー!こっちは片付いたぞー」
それはテリットの声だった。
トキオにもそれは聞こえたが、魔人から目を離すと危険だと思ったため右手だけを軽く上げた。
「いやー、何人かに牽制してもらっておいて、離れたところから拳銃で狙ったら思いのほか簡単に片付いたよ。まあ、最初は頭を狙ったんだが俺たちの腕じゃ動くオークの動きにはついていけず外してばかりだったんで、腹を狙って動きを止めてから牽制してるやつらが剣や槍で仕留めるようにしたらうまくいったよ」
テリットは、オークを撃退して上機嫌だったようで、かなり饒舌だった。
「静かにしろ。あそこに魔人がいるんだ。刺激するな」
兵士がテリットに寄って行ってそうたしなめた。
「なに!魔人だと!」
それを聞いたテリットと他の冒険者は、全員武器を抜いて身構えた。
「聞こえただろ?オークはすべて片付いたらしいぞ」
トキオは、魔人向かってそう言ったが、刺激しないようにあくまで無表情だった。
「ちいっ!使えない者どもめ」
今まで余裕たっぷりだった魔人は、そこで初めて険しい顔になった。
注…偃月刀:長い柄の先に湾曲した幅広で大きい刃を取り付けた中国の武器。小説『三国志演義』にて、蜀の武将の関羽が用いたことで有名(関羽のものは刃の部分に青龍の装飾が施されているので青龍偃月刀と呼ばれる)。なお、三国志の時代よりかなり後に出現した武器のため、歴史書である「三国志」には登場しない(小説『三国志演義』は元から明の時代に書かれたもの)。




