第552話 懐かしの我が家
「本当に王都に戻らなくて良いのか、リヒター。魔王が滅んだ今、もう、ここから魔王城を監視する必要もないではないか。王もお前のことは心配しているだろうに」
「そうでもないさ、長老。ヘルムートとは歳が離れていたせいで俺が物心ついたころには父と一緒に戦場に出ていたから、一緒に遊んだことはおろか、会話も数か月に一度がいいところだった。俺が生まれた時も、訓練で長期に城を空けてたから、俺が弟だっていう実感も無いと思うぞ。それに、あんたらがかつて住処にしてたっていうこの場所が俺は結構気に入ってるんだ」
「そうか。ならば、これ以上何も言うまい。魔王の脅威が無くなったから、我々の一部は、またこの場所で生活することを選択した。これから、ここで共に暮らすことになるが構わんか?」
「ここは元々あんたたちの場所だろ?俺の方が許可をもらう必要があるだろうさ」
「それは問題ない」
「じゃあ、よろしく頼むよ。この辺りには魔物が出ないせいで動物が生き残っているし、川には魚もいるから食べ物には困らないけど、正直、なかなか骨が折れるので手伝ってくれる者がいると助かるんだよ。それと、この中の一画に畑を作って野菜を育てようとも思ってたんだ。あんたらも食べるだろ?」
「我々の分を作るのなら、ここを全部使っても足りないくらい大きな畑が必要だぞ」
「あ、言われてみれば確かに!わははははは!」
リヒターは豪快に笑い、長老と呼ばれた金色のドラゴンの後ろに控えていた真っ白いドラゴンも、それにつられてクスリと笑った。
「やっぱり、空を飛ぶってのは爽快だな~。ずっとこんな風に移動させてくれるといいんだけどなあ~」
「バカヤロウ、我らは駅馬車じゃないぞ!今回は、魔王討伐に必要だったから帰りも乗せてやってるだけだからな!」
紫電のドゴンが、首の上に乗っているシェルマンに言った。シェルマンの横には、ラカール導師とブルネットも乗っていた。
「それにしても師匠、疲れましたね~」
「ワシよりずっと若いくせに、何を情けないことを言うとるんじゃ」
「そりゃ師匠よりは若いですけど、俺もブルネットも60を超えてるんですよ?今回みたいな大立ち回りは数十年ぶりっだったから疲れましたよ」
「そうですよ。何度も死にそうになったから緊張感でもくたくたですよ」
「その割には楽しそうにやっとったじゃない」
「あはははは、わかりました?だって、ドラゴンとか魔人とか見るの初めてだったから、それだけでも楽しかったですもん。魔獣のヒドラも見られましたしね~」
「ああ、ありゃあデカかったのお。あんなにデカい生き物がいたとはな。ドラゴンよりデカかったんじゃないか?」
「そんな風に見えましたね。まあ、ジークフリートがあっという間に倒しちゃったんでよくわからなかったですが」
「そうじゃよ!もうちょっと暴れさせてから倒せばいいのに、どういう生き物だかよくわからんかったぞい」
「なんか、サラっとひどいこと言いましたね。兵士が余計に死んじゃうじゃないですか」
「兵士たちは色んな武器を持っとったからきっと大丈夫じゃ」
「また適当なことを・・・。それにしても、トキオが作らせた武器って、魔王の城に簡単に穴を開けたり、魔王の角と頭を吹っ飛ばしたりとスゴかったですね!攻撃魔法はどれもほとんど効かなかったのに。どんな仕掛けになってるのか、もう少し詳しく聞きたかったですよ」
「そうそう。迫撃砲って言うの?あれも面白かったわよね」
「安心せい。近いうちにワシのところに遊びに来るわい」
「え?どういうことですか?」
「『お前さん、この世界の生物に興味あるんじゃろう?うちに来ればこの世界でも希少な生物の何匹かにお目にかかれるから落ち着いたら遊びに来るといいぞ』って話したら食いついて来おったんじゃ」
「なるほど~。それはうまくやりましたね!」
「来たくなったら手紙で知らせてくれと言うておいたから、手紙が届いたらお前たちにも知らせてやるわい」
「お願いします!」
「きっとですよ!」
「その時は我も呼んでくれ」
紫電のドラゴンが言った。
「お前さんも興味あるのか?」
「今まで人間が使って来た武器とあれほどかけ離れたものを見せられてはな。どんな仕掛けなのか想像もつかん」
「そうじゃよな。まるで魔法のようじゃったが、魔法は一切使っておらんと言うておったからな」
「そうですよ~。だから興味津々で」
「うんうん」
「ワシんところはまだまだ寒いし、雪も残っとるから、まあ、春になってからじゃろうがな」
「そのくらい待ちますよ!」
「同じく!」
「では、頼んだぞ」
そのまま、3人を乗せた紫電のドラゴンはラカール導師の家へと飛んで行った。
ラカール導師たちは、グウィンの洞窟の出口から紫電のドラゴンと一緒に直接北部へ移動することになったためそこで分かれていた。
チシタリア夫人と双子は、アムリの城から直接南に下って西部へ戻ることになっていたのでアムリの城で分かれた。双子はクロアと別れるのがつらくてひどく悲しそうな顔をしていたが、チシタリア夫人の「またすぐに王都に行くことになるわよ」という言葉で嬉しそうな顔になり、最後は笑顔で分かれた。
今回の作戦では、魔王の城の手前の渓谷で馬車を囮に使って放棄することは決まっていたので、アムリの城には帰り用に使う幌馬車が用意されており、兵士たちはそれに乗ってトキオたちと一緒に王都に戻った。
アムリの城から王都に向かう馬車では、トキオは、魔導士長、勇者、それにクロアと一緒だったが、デリカシーのないトキオでも、魔導士長もいたこともあり、クロアに勇者とのことを直接聞くのはさすがにまずいだろうとあえて聞かなかった。
「王都が見えてきました」
その言葉で、うつらうつらしていたトキオは目を覚まし、馬車の進行方向を見た。そこには、何事もなかったように山裾と山裾を結ぶ王都の城壁が横たわっていた。それを見たトキオは、その風景がひどく昔に見た風景に感じられて、少なからず感動が込み上げてきた。すでに午後の遅い時間になっていた。
「着いたの?」
眠っていたクロアも目を覚まして、少し腰を持ち上げて王都の方を振り返った。勇者は微動だにせず寝たままだった。
「トキオ、そなたには本当に助けられた。心から礼を言うぞ」
魔導士長は、トキオと視線が合うと、座ったままではあったが深々と頭を下げた。
「俺が知っている知識を造兵局に教えて武器を作ってもらっただけですから、やめてくださいよ」
「それだけではない。ドラゴンと架け橋にもなってくれたし、ステータス画面や柔道などのこの世界に持ち込んだ諸々の情報や技術も大いに役に立った」
「それも知ってたり、俺がやって来たことを伝えただけですよ。それより、明日のことはよろしくお願いします」
「ああ、わかっている。我々も期待しているぞ」
「はい。きっとすごく驚きますよ」
一行は、一旦、城まで行き、トキオとクロアは、そこから別の馬車でトキオの屋敷まで送ってもらった。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
屋敷の玄関前では、セバスチャン、メアリー、ジェーンが、いつものように迎えてくれた。
「ただいま!」
「ただいま!」
トキオとクロアは、馬車を降りてその声を聞いたら自然と笑顔になった。
「アンドレス殿下は残念でしたが、魔王の討伐、おめでとうございます」
セバスチャンがそう言い、3人そろって再び深々と頭を下げた。
「いや~、かなりギリギリだったけどね。なんとかなって良かったよ。詳しいことは聞いてないんでしょ?夕飯の時に教えてあげるよ」
「はい。ぜひお願いします」
「その前にここのお風呂にゆっくり入りたいわ」
「ああ、俺もだ」
「私が先ですからね!」
「ええ~?たまには俺が先でもいいだろ?」
「イヤよ!いつも通りよ!」
「お二人ともお疲れだろうと思いましたので、女性用の浴室も入れるように用意してございます」
セバスチャンが言った。
「お~、さすが!・・・じゃあ、クロアは女湯な!」
「え~、広い方のお風呂がいいのに。まあ、せっかく用意してくれたんだから、今日は譲ってやるわ」
「よし決まり!じゃあ、行こう!」
そう言って、馭者に礼を言おうと馬車の方を振り返ったら、すでに荷台の荷物は消えており、メアリーとジェーンの姿もなくなっていた。
「うわっ!いつものことだけど早業過ぎる!」
「えっ?何が?・・・・って、もう荷物がない!」
クロアも、トキオの声で振り返って驚きの声を上げた。
「ああ、ホントに自分の家に帰って来たって気がするよ」
トキオは、そう言うと玄関に向かって歩き出した。
「お茶のご用意もできておりますが、いかがなさいます?」
「ありがたいけど、先にお風呂だね。そのあとでいただくよ」
「私も・・・ごめんなさいね」
「かしこまりました」
セバスチャンは、表情を変えずに答えた。
玄関を入り、大きなシャンデリアと正面の両側に曲線的に上に延びている階段を見たら、また懐かしさがこみあげて来て、別に合図したわけでもないのにトキオとクロアは同時に足を止めてしばらくそれらを見つめていた。
そしてトキオは、部屋に入って窓から王都の景色を眺めた後、廊下側の壁を振り返って聖女の輝きがそこに掛けられているのを見て、
「早っ!」
と、再度驚いたのであった。
夕飯のあとは、料理長のジュリオと庭師夫婦も呼んで魔王討伐の顛末を1時間かけて語って聞かせたが、皆、驚いたり怖がったりしながらも、興味津々で話を聞いていた。




