第551話 朝帰り
「ダメなんですか~?」
「いや、魔導士長様は、帰る方法はあると言ってたけど・・・」
「じゃあ、もしかして元の世界でイヤなことがあって帰りたくないとかですか~?」
「ええっ?俺を犯罪者みたいに言うのやめて。予想してない状況でこの世界に召喚されちゃったもんで母親にも何も言わないで来たから一度は帰らなきゃとは思ってるんだけどね」
「じゃあ、その時に一緒に連れてってくれたらいいですよ~」
「それ自体はいいんだけど、二人同時に帰れるかは魔導士長様に聞いてみないとわからないなあ」
「じゃあ、それが大丈夫なら連れてってくれるんですね~?」
「いいけど、魔法のない世界だから使っちゃだめだよ」
「それ、ホントですか!?超驚きなんですけど~?」
「それと、拳銃を持つのは法律で禁止されてるから置いてってね」
「え?そうなんですか~?じゃあ、トキオさんはどうやって拳銃のことを知ったんですか~?」
「ああ、俺は刑事っていう犯罪者を捕まえる職業だったから拳銃の所持を許可されてたんだよ」
「そういうお仕事してたんですか~?スゴいです~?じゃあ、そのお仕事で大砲も作ってたんですね~?」
「いや、それは、単なる個人的趣味で構造を知ってただけで・・・」
トキオは、話が面倒くさい方向に行きそうになったので内心焦った。
「え~!?それだけで作れるなんて、よっぽど深く調べたんですね~?」
「ま、まあね・・・あ、でも、造兵局の人たちと協力して何度も作り直したりはしたんだよ。知識と実践は別の話だから」
「あ~、なるほど~。何かわかるような気がします~」
「そう、良かった」
マキノが納得してくれた様子なのでトキオはホッとした。
会話の最中、テントの外から聞こえる会話の声が徐々に増え始めたので、皆が起きて来ていることが分かった。
「ああ、なんだかみんな起き出してきたようだね。マキノは朝ご飯はいいの?」
「あ、いけな~い。私、当番でした~。じゃあ、これで失礼します~。大砲とかの構造の話は王都に戻ってからで~」
「ああ、そうだね」
「約束、よろしくお願いしますね~」
「わかったよ。とりあえず、魔導士長に聞いてみるから」
「お願いします~。では、また~」
マキノは、立ち上がると軽くペコリとお辞儀をして出て行った。
「しかし、驚いたな。100年以上も前に俺の世界に行った人がいたなんて」
トキオは、そう呟いたところで外の様子が気になったので立ち上がって外に出てみた。
兵士が何人も朝食の用意をしていたが、何気なくそれを見渡していたら勇者のテントからクロアが出てくるのが目に入った。
「え?今まで飲んでたのか?」
思わずトキオがそう呟いたら、それが聞こえたのかクロアがこちらを見た。すると、トキオと目が合った瞬間、恥ずかしそうに少し顔を赤らめて速足で自分のテントに向かって行った。
(えっ?なんだあの反応?・・・・・朝帰りってことは、まさか!)
トキオがクロアをずっと目で追っていると、結局、こちらは振り返らずに自分のテントに入って行ったが、入口のところから顔を半分出してこっちを見てトキオと目が合うと、シャッと入口を閉め、それっきり出てこなかった。
(やっぱりそれっぽいぞ。勇者様ったら意外に手が早いなあ)
トキオはそう考えながら、まるで子供の成長を見た親のような安堵した気持ちになっていた。
「結局、一睡もできなかったなあ。なんか急に眠くなってきたぞ。朝食まではもう少し時間があるだろうからちょっとだけ寝るか」
そう呟いて横になったら、あっという間に眠りに落ちた。
「トキオさん!トキオさん!」
「・・・・・ううん?」
トキオは、激しく体を揺すられて目を覚ました。目の前には、近衛師団のジョッシュがいた。
「なに~?」
「なにじゃないですよ!出発の時間ですよ!」
「・・・ええ~?・・・今、何時ぃ~?」
トキオは、半分寝ぼけたままだった。
「もう8時ですよ!魔導士長様も勇者様もすでに馬車に乗られてますよ!」
「えっ!?そりゃマズい!」
その言葉で一気に目が覚めて飛び起きた。
「拳銃と刀を忘れてますよ!」
「あっ」
テントを飛び出そうとしたらジョッシュに言われたので、慌てて戻って拳銃と刀のベルトを装着した。他に何か忘れてるものはないかとキョロキョロ見回していたら、
「テントも含めて俺たちが片付けときますから大丈夫です!これだけ持って行って」
と、メロンパンくらいの大きさの茶色いパンが2個入った小さな籠を渡された。
「これは?」
「朝飯代わりですよ。食べてないでしょ?」
「ああ、確かに。助かる!じゃあ、あとはヨロシク!」
トキオは、テントを出ると自分が乗る予定の馬車へ駆けて行った。
馬車の中には、魔導士長とモルナール魔導士と勇者がいたが、勇者はすでに寝ていた。
「遅くなってすみません!」
「出発の時間までにはもう少しあるから大丈夫だ。それより、グウィン様たちへの挨拶は済ませたのか?」
魔導士長が言った。
「あ、まだです!すぐ戻ってきますから!」
そう言って、パンの籠を置いてから馬車を飛び出しグウィンの小屋へ向かった。
そばまで来ると、グウィンとサチェルがチシタリア夫人、ギヌメール導師と小屋の前で話しているのが見えた。
「おお、トキオ来たか」
グウィンがトキオに気付いた。よく見ると、グウィンの手には拳銃が、サチェルの両手にはライフル銃が1丁ずつ握られていた。
「これか?補充用に持って来たもののをくれると言うんで貰ったんだよ。これで、サチェルと1丁ずつ持てるから、魔物の討伐が楽になるぞ。弾もたくさんくれたしな」
グウィンがトキオの視線に気づいて言った。
「そうなんですか!撃ってみました?」
「まだだよ」
「ライフル銃の撃ち方は教わりました?」
「教えてもらったぞ。時間はたっぷりあるからこれからちょっとずつ練習するさ」
「反動が拳銃とは比較にならないので、銃床をちゃんと肩の前にあててから打ってくださいね。そうしないと骨折する危険があります」
「なんだと?そんなにスゴいのか?」
「はい・・・じゃあ、俺が一発撃って見せましょう」
「そうか!頼む」
トキオは、サチェルからライフル銃を1丁受け取ると、ボルトを引いて装弾した。それから、高さ50センチほどの比較的前後に薄そうな石に狙いを定めた。
「銃の構え方、特に銃床を当ててる位置をよく見ておいてください。少しずれただけでも危ないですから」
「わかった」
グウィンが答え、その横でサチェルも頷いた。
「いきます」
ドオォン!
トキオが引き金を引くと轟音が洞窟内に反響し、兵士たちが一斉にこちらを見た。
弾丸は石のど真ん中に命中し、石は砕けて四散した。
「なんじゃ!?拳銃よりかなり破壊力が高くないか?」
「はい。口径はむしろ拳銃より小さいんですが、弾丸が大きい分中に詰めてある火薬の量が多く、さらに銃身が長い分加速している時間が長いので格段に威力が高くなるんです」
「ほう~・・・これなら、オクスドンやハードオークも1発で仕留められそうだな」
「はい。大丈夫です。まずは、銃床との間にタオルなんかを当ててやってみるのがいいかもしれません」
「わかった。慣れるまでそうしよう」
「それでは、色々とお世話になりました。魔王討伐の際も助けていただいてありがとうございました」
トキオは、サチェルにライフル銃を返すと、そう言って頭を下げた。
「いやいや、こっちこそ色々と面白い体験をさせてもらって楽しかったぞ。エルフの国にも行けたしな」
「魔王が強すぎて、途中、何度も死ぬかと思いましたけどね」
サチェルが笑顔で言った。
「違いない。わはははは」
それを聞いて、ギヌメール導師とチシタリア夫人は笑った。
「お二人はこのままここに残られるんですか?」
「ああ。ここは静かでのんびりできるからな」
「私は故郷に戻ってもいいんですけどね」
サチェルが困ったような顔で言った。
「何を言う。お前はこんな年寄りに一人暮らしさせるつもりか?」
「はいはい、お師匠様が生きてるうちは付き合いますよ」
「まるですぐに死にそうな言い草だな」
「そんなことは言ってませんよ。まあ、そんなに間違ってないかもしれませんが」
「なんだと!」
グウィンはこぶしを振り上げたが顔は怒っていなかった。サチェルは、還暦過ぎの人間とは思えないスピードで3歩ほど横に移動した。
「まあまあ、仲良くやりなさいよ。それじゃ、会うのはこれで最後になるかもしれないから元気でね」
「なんじゃ、つれないのう。たまには遊びに来てくれてもいいだろうが」
「こんな寒くて遠いところになんてもう来ないわよ」
「まったくじゃ」
チシタリア夫人の言葉にギヌメール導師も頷いた。
「大丈夫ですよ。俺が何度か遊びに来ますよ。少なくとも、魔王の城をもう少し詳細に調べないといけないので、その時に」
「そうかそうか!お前はこいつらと違っていいヤツだな」
「別に私は薄情者でいいわよ」
チシタリア夫人がすました顔で言った。
「ああ、そうかい」
グウィンは、憮然とした顔になった。
「そろそろ出発の時間なんで、これで。それじゃ、また」
「ああ、待っとるぞ」
トキオがグウィンとサチェルに一礼して来た方向に向きなおろうとした時、すぐ横に停めてあった馬車が視界に入った。中ではクロアと双子が話をしていたが、その視線に気づいたのかクロアがこっちを横目で見た。しかし、すぐに顔を赤くして目をそらした。
(ああ、もうこりゃ間違いないな。ついにクロアも女になったか)
意識せずにやけた顔になったが、誰もトキオの方を見ていなかったので気づかれなかった。
それからすぐに一行は出発した。兵士たちの多くは徒歩だったので、馬車はそれに合わせたスピードで進んだ。
洞窟を出ると、そこには10数体のドラゴンが地表に降り立って待ち構えていた。
「どうしたの?」
トキオは慌てて馬車から降りると、疾風のドラゴンに聞いた。
「お前たち、馬車がなくなって多くは徒歩だろ?この雪深い中だと、かなり時間がかかるだろうから、一番近い城まで連れてってやることにしたのさ」
よく見ると気球のゴンドラが各ドラゴンの横にあり、ロープでドラゴンの体に括り付けてあった。
「ホント!?助かるな~?・・・あ、でも馬車はどうすんの?」
「そんなの、お前たちが乗ったまま掴んで行けばいいだろうが」
「え?大丈夫?」
「はあ?そんなの楽勝だよ。ドラゴン族なめんな!」
「そ、そう。じゃあ、よろしく頼むよ」
「ああ、任せとけ」
そうして、来るときは十日ほどかかった道を、その日のうちに戻れたのだった。




