第210話 魔導士の感謝
「それじゃあ、あとで造兵局へ行くよ」
「ああ、わかった」
トキオはクロアと一緒に魔法訓練場に行くために、食堂を出るとフーゴとそう言って別れようとした。
しかし、すぐに気になっていたことを思い出して後ろから呼び止めた。
「あ、そうだ!泊まるところは決まってるの?」
「いや、そこらへんはどうなってるか聞いてないな」
「昨日はどうしたの?夜に着いたんでしょ?」
「城の中にある宿泊用の部屋に泊まったんだよ」
「ああ、俺たちが泊まったところだな」
「そうみたいね」
クロアも同意した。
「俺たち?二人で一緒に泊まったのか?一部屋しかないって聞いたぞ」
「あ・・・まあ、そうなんだけど、急で仕方なく。別に同じベッドで寝たわけ・・・あ」
そこまで言って、トキオは、途中からクロアが自分のベッドに潜り込んできたことを思い出して、思わず言葉が止まった。
「なんだ?なんで急に黙った?・・・同じベッドで寝たってことか?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか!そんな関係じゃないし!」
「そ、そうよ!やめてよ!」
クロアも、あの日のことを思い出して焦った。
「そうかあ?・・・なんか、怪しいなあ」
「ないって!・・・それより、泊まるところが決まってないんなら、うちに泊まればいいじゃない。部屋はいっぱい余ってるし」
「え?突然押しかけちゃっていいのか?トキオのお屋敷って、使用人が身の回りのことをやってくれるんだろ?いきなりじゃ大変なんじゃないのか?」
「うちの使用人たちは優秀だからきっと大丈夫だよ。どうせなら、王都にいる間はずっとうちに泊まってれば?話し相手が増えて俺たちも嬉しいし」
「そうよ!そうしなさいよ!」
「そうか?じゃあ、とりあえず今日は泊めて貰おうかな」
「よし。じゃあ決まりだね。魔導士様たちには俺から話しとくから、ウェスターさんには言っといて」
「わかった」
「じゃあ、あとでね」
「ああ、待ってる」
それで、3人は分かれた。
フーゴは、造兵局に向かいながら思わず呟いた。
「しめしめ、これでトキオの屋敷のご馳走が食べられるぞ。楽しみだな~」
トキオとクロアが魔法訓練場に着くと、シュミュード魔導士長とモルナール魔導士の他に、ブルーメ魔導士とイディアス魔導士も来ていた。
「戻られたんですね。お疲れさまでした」
トキオがそう言い、クロアと二人で頭を下げた。
その声で4人の魔導士はトキオたちの方へ視線を向けたが、イディアス魔導士がいきなり駆け寄って来てクロアに抱きついた。
「えっ?どうされました?」
クロアは予想もしないイディアス魔導士の行動に非常に驚いて固まった。
「ああ、すまない。今回、南部での戦闘でそなたの複合魔法を使わせてもらったのだが、これが非常に強力で魔人1体の胴体を1撃ですべて消滅させたのだ。戻ってそなたに会ったら礼を言いたいと思っていたのだが、つい嬉しくて失礼なことをした」
イディアス魔導士は、クロアの体を離すと微笑みながら言った。
「あ、そうだっんですね!お役に立てて私も嬉しいです」
それを聞いたクロアも微笑みを返した。
「うむ。王都で何度か試してみてはいたのだが、魔人相手に使ってみると想像以上の、まさに恐るべき威力だったな。私が今まで見た攻撃魔法の中で一番強力なのは間違いない」
「そうですか!そこまでおっしゃっていただけると本当に嬉しいです!」
クロアは、素直に満面の笑みを浮かべた。
「それと、魔人を反射魔法に閉じ込める方法も想定通りの効果だった。もう少しで、先月、ウゼマスに現れた幹部を捕獲できるところだったんだが、別の魔人が突然、地中から現れて身柄を奪って行った。惜しいことをした」
「え!?幹部を捕らえられるところだったんですか?」
この言葉にトキオは驚いて聞き返した。
「そうだ。1秒もないほどの差だったな」
「あー、それは残念ですねえ。でも、なぜ、殺さないで捕獲しようとしたんですか?」
「魔王の根拠地を聞くためだ」
「え?・・・ああ、居所がわからないって言ってましたね」
「そうだ。最終目的は魔王を討伐することだから、そのために必要なのだ」
「なるほど・・・でも、それなら、俺の屋敷にいた魔人に聞けばいいんじゃないですか?」
「あの魔人は数百年、下手をすると千年以上あの場所に封印されていたと思われるので、6年前に復活したと言われる魔王の所在は知らないであろう」
「あ、そうか。そうですね」
トキオは、浅はかなことを言ったと思って恥ずかしくなった。
「しかし、あの女の魔人も幹部のようだったが、捕らえそこなった魔人よりも能力が上のように思われた。次はあの者が攻撃に参加して来そうでやっかいだ」
「え?逃がしたのは女の魔人だっんですか?」
トキオは、イディアス魔導士の言葉に驚いた。
「そうだ。あの身のこなしと余裕のある態度は相当能力が高いと思われる。かなり警戒する必要がある」
「女の魔人かあ・・・見てみたいなあ」
トキオは、心の声が思わず口から出ていた。
「あんた何言ってんの!?・・・ほんっとにスケベなんだから!」
「え?聞こえた?」
「しっかり口から洩れてたわよ!」
「・・・単なる興味でそれ以上の意味はないから」
「ウソおっしゃい!」
クロアは不機嫌な顔でトキオを睨んでいたが、その様子を見ていたイディアス魔導士は、思わず口元を緩めた。
「さて、それでは、訓練を始めるぞ」
そこで、シュミュード魔導士長が言った。
「はい!よろしくお願いします!」
トキオとクロアは元気よく返事をすると、それぞれ、教えを受けている魔導士の元へ歩いて行った。
「これもお前の馬車なのか?」
トキオ、クロアと伴に城の入口に来たフーゴは、そこで待っていた馬車の馭者がトキオに頭を下げるのを見て言った。
「そうだよ。馭者は、うちの庭師のキビルね」
「お客様ですか?」
キビルは馭者台から降りて来て、馬車のドアを開けながらフーゴを見て聞いた。
「うん。俺がいたアティムの街で鍛冶屋をやってるフーゴね。今回、兵器開発の助言をするために呼ばれたんだよ。今日から、1か月弱、うちの屋敷に泊まってもらおうと思うんだけど問題ないよね?」
「はい、大丈夫だと思います」
キビルはそう言うと、フーゴに近寄り、荷物を受け取って荷台に積んだ。かなり重いリュックをキビルは軽々と持ち上げていたが、馬車に驚いていたフーゴは、そのことには気が回らなかった。
「あ、すみません」
「いえ、これが私の仕事ですから。それではどうぞ、お乗りください」
キビルは、ドアの横に立ってフーゴに頭を下げながら言った。
「ご丁寧にどうも」
フーゴは、キビルに数回頭を下げながら馬車に乗り込んだ。
続いて、クロアとトキオが乗り込むと、馬車はすぐに発車した。
「しかし、さすが王都だなあ。道も広いし、建物一つ一つがアティムより段違いに大きいし、人の数も物凄いな」
馬車が城を出て王都の街中を進み始めたところでフーゴが言った。
「確かにアティムとは全然違うよね」
トキオは微笑しながら言った。
「俺はな、アティムで生まれ育って、街を出たのは仕入れとかで近隣の街へ行った時ぐらいだから、こんな大きい都市を見るのは初めてなんだよ。昨日、着いたときは夜でよく見えなかったけど、昼間に見ると物凄くて圧倒されるな」
フーゴは、それから、まさにお上りさんの体で、王都の街中をキョロキョロと見渡していた。
「あ!なんかすごいお屋敷が見えて来た!敷地も、すごく広いな~」
フーゴは、広大な敷地の中に、王都の中でもひときわ大きく立派な屋敷が見えてきたことでさらに興奮した。
「これって、貴族の屋敷なのか?スゴいなあ」
フーゴは、そう言ってトキオとクロアの方を振り返ったが、二人はニヤニヤした顔をしてフーゴを見ていた。
「なんだよその顔。お上りさんで悪かったな!」
フーゴはそう言ったが、馬車が敷地に沿った道を進み始めたので、屋敷に視線を戻して、さらに興味深そうに眺めていた。
しばらくすると、開かれていた門から馬車が中に入って行ったので、フーゴは凄く驚いて再びトキオたちのほうを見た。
すると、二人は先ほど以上にニヤニヤした顔になっていた。
「おい、なんでここに入って行くんだよ!・・・・・まさか!」
そのフーゴの言葉に、トキオとクロアは、ニヤニヤした顔のままうんうんと数回頷いた。
「え?おま・・・・・これ、豪邸なんてもんじゃないだろ!」
「そうだけど、王様がこれをくれたんだからしょうがないよね」
「・・・なんてこった!」
フーゴはそう言うと、近づいて来る屋敷をまじまじと見ながら目を丸くしていた。
しばらくして、玄関の前に黒服を着た男とメイドと思われる格好をした若い女の子が二人立っているのを見たときには、もう、訳が分からなくなっていた。
「あの3人は、執事のセバスチャンとメイドのメアリーとジェーンね」
そのフーゴの視線に気づいたトキオが言った。
「執事にメイドだと?・・・」
フーゴは、さらに呆然となった。
「おかえりなさいませ、ご主人様、クロア様」
馬車が玄関前に着いてトキオとクロアが降りると、3人がそう声をかけて来てトキオとクロアに向かって深々とお辞儀をするのを見て、完全に固まってしまった。
「なにしてるの。着いたよ」
トキオにそう言われて、やっと我に返り、おずおずと馬車を降りた。
「お客様でしょうか?」
セバスチャンがトキオに聞いた。
「うん。アティムで鍛冶屋をやってるフーゴね。造兵局で兵器開発のお手伝いをするために呼ばれたんだよ。今日から1カ月ぐらいここに泊まってもらおうと思うんだけど、いいかな?」
「ご主人様の同郷の方ですか。もちろん、問題ございません」
「ほらね。じゃあ、しばらくよろしくね」
「よろしくね」
クロアも微笑みながら言った。
「あ、ああ・・・・・すみません、しばらく御厄介になりますがよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
フーゴはセバスチャンに向かって頭を下げたが、セバスチャンは、背筋を伸ばしたまま、それ以上に深々とお辞儀を返した。
フーゴはそこで、セバスチャンの隣からメイドの二人がいなくなっているのに気づいた。
「あ、そうだ、荷物!」
フーゴはそう言って馬車の荷台を見たが、そこに積んであったはずの自分の大きなリュックが無くなっていて驚いた。
「あれ?ない!途中で落ちた?」
「もう、メアリーとジェーンが屋敷の中へ運んで行ったよ」
驚いているフーゴをよそに、トキオが涼しい顔で言った。
「ええっ!?いつの間に?」
「うちのメイドたちは仕事が早いんだよ」
「でも、相当重かったはずだぞ。大丈夫なのか?」
「ああ見えても、あの二人は怪力なんだよ。だから、気にしなくて大丈夫」
「ホントかよ!・・・いやあ、何から何まで驚くことばかりだな!」
フーゴはそう言うと、信じられないほど立派な屋敷の建物を呆然とした顔で見上げた。




