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異世界マニアのおしかけ召喚者  作者: 伊部九郎
第4章 北部冒険編
208/564

第208話 王女の命令

「さあ、遠慮はいらないわよ!かかってらっしゃい!」

「え?いいんですか?」

「もちろんよ!」


(よおし、じゃあちょっと驚かせてやるか)


「わかりました。じゃあ」


 言い終わると同時に、トキオは鋭くダッシュして最後に大きく踏み込みながら右手を離し、槍の後端を持った左手を素早く前方に伸ばして王女のみぞおち目がけて突きを放った。


 ズン!


 槍の先端はまともに王女のみぞおちに命中し、王女は後方に少し飛ばされて尻餅をついた。


「ううう・・・」

 王女は、呻いて左手でみぞおちを押さえて前かがみになった。それでも、右手に持った剣は離さなかった。


(うわっ!まともに入っちゃったな。少し、手加減しといて良かったよ)


「すみません!大丈夫ですか?」

 トキオは、もう、腹をくくっていたので、ヒヤリとはせずに王女を気遣う余裕があった。


 王女は、そのまましばらく呻いていたが、左手でお腹を押さえたままゆっくりと立ち上がった。


「・・・思ったよりやるじゃないの・・・でも、今のはちょっと油断してただけよ」

 王女は、トキオを睨みながらそう言ったが、少し息が荒れていた。


「さあ、何してるの!もう一回来なさい!」

 王女はそう言いながら、剣を体の前でしっかり構え、先ほどより警戒した姿勢になった。


「はい・・・では」

 トキオは、また、言い終わると同時にダッシュした。

 今度は、王女が伸びて来た槍を払おうと剣を右に振った。

 しかし、トキオは肩の動きでそれを予想して、一旦、槍を引くと、剣が右に流れたことでがら空きになった右肩を突いた。


「ぐっ!」

 王女は思わず声を漏らしたが、トキオはお構いなく続けて素早く左肩を突いた。


「がっ!」

 王女は、また声を漏らして数歩後ろに下がった。


 それを見たトキオは、王女を見つめたままゆっくりと後ずさった。



「今まで槍使い相手の訓練は相当積んで来たけど、お前の動きは少し違ってて調子狂うわ」

 王女は、トキオを睨みながら負け惜しみとも聞こえるようなことを言った。


「俺の世界とは戦法も技も違うでしょうから、それはあるでしょうね。実際、俺が見たこともない使い方をする人がいましたよ」

 トキオは素直に思ったことを口にした。


「そうでしょ?でも、逆にいい訓練になるわ。さあ、もっと来なさい!」

 王女はそう言うと、今まで右手だけで持っていた剣を両手で持ち、さらに鋭くトキオを睨みつけた。


「わかりました」

 トキオはそう答えると、今度は、槍を構えたまま、左手を伸ばせば槍の切っ先が届く位置までゆっくりと歩いて行った。

 王女は、今までと違う動きを警戒して、すり足で少しにじり下がった。


 その瞬間、トキオは鋭く踏み込んで、左右の太もも、左右の肩、みぞおちの順に続けざまに突きを放った。

 すると王女は、両太ももへの突きは後ろに下がって、さらに伸びて来た両肩への突きは上体の動きで、最後のみぞおちへの突きは剣で左に払って躱した。


 トキオは、その払いを利用して体を右向きに素早く1回転させると、王女の右わき腹に槍を打ち込んだ。

 それに対し、王女は素早く反応し、剣のつばで受け止めた。

 それから、今度はトキオの方へ踏む込んできて剣を左に払った。


 しかし、トキオは素早く後ろに飛び下がってそれを躱した。


「ほら、慣れればこんなものよ」

 王女は、どや顔で言った。


「はい、お見事でした」

 トキオは、お世辞ではなく素直に感心していた。



「お前の槍は大体わかったからもういいわ。他に、どんな武器ができるの」


「あ、はい。剣と弓と短剣と棒ですね」


 その言葉で、王女は驚いた顔になった。


「そ、そう。なかなかやるわね・・・じゃあ、弓の腕が気になるから、ちょっとこっちに来なさい」

 王女はそう言うと、弓用の丸い的がある方へ歩いて行った。

 トキオは、その後をついて行った。


 的は2つあり、20メートルほど手前がる場所になっていて、それぞれの横にある簡素な箱に矢が10本ずつほど入れてあった。


「じゃあ、やって見せて」

 王女は、従者が棚から持って来た弓を受け取り、それをトキオに渡しながら言った。


「はい・・・3射ほど練習してよろしいですか?この弓の特性がわかりませんので」

「ああ、そうね。いいわよ」


 トキオは、矢をまず1本取ると、弓につがえてじっくりと狙ってから射た。


 矢は、真ん中から2番目の丸線の右上、少し外側に刺さった。


 それから、さらに2射したが、2射目は2番目の丸線の左下内側、3射目は1番目の丸線の右に刺さった。


「ふうん、カタチは様になってるわね」

 王女は、ほとんど表情を変えずにそう言った。


 トキオはその言葉に軽く会釈をすると、


「では、いきます」


 と、言って、次の矢を取り、弓につがえた。


 それから、今までより少し短い時間で狙い付けてから矢を放った。


 矢は、一番中央の丸線の内側、やや左に刺さった。

 それを見た王女は、ビクリと体を緊張させた。


 さらに続けて2射したが、それぞれ、一番中央の丸線の内側、やや右上と下に刺さり、その3射目は、ほぼ真ん中に近かった。


「こんなものでよろしいでしょうか?」


 トキオがそう言って王女を見ると、かなり驚いた顔をしていた。


「お前ってなんなの!弓も結構な腕じゃないの!」

「え?・・・はい。こっちに来てからはあんまり練習してませんが、その前に16年やってましたから」

「ええっ!?そんなに長く?・・・お前、歳はいくつなのよ」

「殿下と同じのはずです」

「じゃあ、27歳ってこと?」

「はい」

「ということは・・・10歳からやってたの?」

「そうですね。他にもやってたから、週に1、2回ですが」

「他にも?何をやってたのよ」

「子供の時からやってたのは、柔道、空手、剣道、合気道、槍術ですね」

 トキオは指を折りながら答えた。


「え?合わせて6つも?・・・それを全部10年以上やってるの?」

「そうですね」

「なによそれ!・・・今聞いたものの中に、よくわからないものがあったわね。合気道だっけ?それってどんなものなのよ?」

「そうですねえ・・・簡単に言うと、力の方向を工夫して倒す格闘技ですね」

「それじゃよくわからないわ。ちょっとやって見せなさい」

「いいですよ。じゃあ、あっちの畳に行きましょう」

「うん?・・・まあ、いいわ」


 二人は、王女をやや前にして畳が敷き詰めてあるところまで行き、その中央に向かい合って立った。


「じゃあ、俺の胸倉を掴んでもらえます?」

「え?・・・こう?」


 王女はそう言って、右手でトキオの胸倉を掴んだ。


 しかし、次の瞬間、畳の上に仰向けに転がっていた。


「え?」

 王女は、何が起こったかわからず、目をぱちくりさせてそのまましばらく寝転がっていた。


「何よ、何をしたの!?」

 王女は起き上がりながら言った。


「これが、合気道です」

 トキオは、涼しい顔で王女を見つめて言った。


「それじゃ何だかわからないじゃないの!」

「殿下は柔道の練習をやられました?」

「フラビアをここに来させてやってるわよ」

「ああ、そうなんですね。じゃあ、ちょっと俺を投げて貰えますか」

「なによ?私の柔道の腕を見るつもり?・・・驚くんじゃないわよ」


 そう言うと、いきなりトキオに飛びかかって、右手で奥襟をとろうした。

 しかし、トキオはその手を両手で掴んで引くと、そのまま後方に転がした。


 王女は、気づくと、また仰向けに畳の上に倒れていた。


「今度のは少しわかったんじゃないですか?王女様が俺の襟を掴もうと前に向けた腕の力を利用して後方に投げたんです」


「面白い」

 王女は、寝転がったままそう言ってから、ガバッと飛び起きると、

「面白い!」

 と、今度は強い語調で言った。


「気に入ってもらえて何よりです」

 トキオは、突然の反応に驚いたが、すぐに微笑みながら答えた。


「じゃあ、明日からここに来て私に教えなさい」

「え?」

「聞こえなかったの!?明日から私に教えなさいと言ってるのよ!」

「いえ、聞こえたんですが、突然だったもので・・・」

「何か問題ある?」

「・・・あると言えばありますね」

「何よ!どんなこと!?」

「午前中は柔道を第一師団に教えていて、もうそろそろ、第二師団への訓練も始まります。午後は、魔法訓練をしていますし、その他、週に数回、造兵局で兵器や機材の開発に関する打ち合わせもしていますから、時間がとれないんです」

「そんなの、どれかを1時間ぐらいに減らせばいいでしょ!」

「いや、そんなわけにも・・・」

「わかったわ!私からグライムに言っとくから、明日から第一師団の柔道は1時間よ!」

「えっ!?」

「そうと決まったら、明日の10時にここに来るのよ!」

「ええ~!?・・・第一師団の駐屯地は遠いですから、10時にここに来るようだと1時間より大分少なくなっちゃうんですが・・・」

「お前が頑張って走って来ればいいでしょ!もう、決まりよ!」

「うう・・・」

 トキオは、これ以上何を言っても無駄なのを悟って、絶望的な気持ちになった。


「それじゃ、また明日ね。今日は楽しかったわよ」

 トキオの思いをよそに、王女は、明るい顔で従者を従えて訓練場から出て行った。



「とほほ・・・」


 トキオは、しばらく呆然とした後、重い足取りでとぼとぼと造兵局へ向かったのだった。

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