第207話 王女の興味
新章に突入し、久しぶりに舞台は王都に戻ります。
というわけで、トキオくん、回想シーンでチラッと出て来たものの、実質的には23話ぶりの登場です・・・主人公なのに(笑)
その日の朝、トキオとクロアはお城に着くと、いつものように城の奥へと歩いていた。
「今日はもう、モルナール魔導士様たちは戻ってるよな?」
「3日はかからないって聞いたからそのはずよ」
「そうだよな・・・しかし、今回は大きな被害にならずに済んで良かったな」
「そうね。到着したのが抜群のタイミングだったわね。読みの見事さはサスガだわ」
「ホントだな」
南部での戦闘結果についてはすでに二人とも聞いていたので、そんなことを話しながら歩いていた。
すると前方の柱の前に、比較的体にぴったりした服を纏い、長い髪を後ろで縛った女性が立っているのが見えた。
そして、その後ろに立っている黒っぽい服を着た男二人と何やら話をしていた。
「ん?誰だろ?あそこで何してるのかな?」
「なんだか動きやすそうな服を着てるわね。戦闘服っぽいから女性兵士かしら。それにしては、妙に仕立ての良さそうな服ね」
「後ろに立ってる男の人は、どっかで見たような服を着てるなあ・・・ああ、王様の従者があんな服着てた気がする」
「王様の従者?そんな人がなんでこんなところに・・・あ!あれって王女様じゃないの?」
「え!?」
トキオが驚いてまじまじとその女性の顔を見ると、それは紛れもなくセシル王女だった。
「こんなところで何してるんだろ?」
トキオは、すれ違う時にどんな話をすればいいのかわからなくて困ったが、今から寄る予定にしている造兵局へ行くにはこの通路を通るしかなかったので、そのまま王女たちに近づいて行った。
すると、王女がトキオたちに気付いてしっかりとした眼差しでトキオを見つめた。
「おはようごさいます!」
反射的にトキオとクロアは立ち止まり、王女に向かって深々とお辞儀をした。
「やっと来たわね。遅いじゃないの!」
「え!?」
トキオは、王女が意外な言葉を発したのでかなり驚いた。
クロアも驚いた顔をしていた。
「トキオ、お前に用があるから待っていたのよ」
「え!?」
トキオは、さらに驚いたので、思わず同じ言葉を発してしまった。
「そんなに驚くことはないでしょう?・・・この女は何者?」
王女は、ぞんざいにクロアを指さして言った。
「俺の冒険者仲間で、魔女のクロアです」
「クロアと申します」
クロアはそう言って、また、深々とお辞儀をした。
二人とも、これから何が起こるかわからず、かなり緊張していた。
「魔女のクロア?・・・どこかで聞いた名前ね・・・ああ、あの、ヒドラを一人で倒したっていう魔女ね。ふうん、思ったより若くてちっちゃいのね」
「恐れ入ります」
クロアは、眉間に皺を寄せながらそう言ったが、下を向いたままだったので王女には気づかれなかった。
「でも、今日はお前には用はないわ。行っていいわよ」
「え?・・・あ、は、はい」
クロアは戸惑った様子でそう答えると、さらに一礼をしてから城の奥へ歩いて行こうとしたが、そこにトキオが声をかけた。
「悪い!造兵局へ行ってウェスターさんに少し遅れるって言っといてくれ」
「わかったわ」
クロアは軽く手を上げて答えると、何度か振り返りつつ造兵局の方へ歩いて行った。
「ウェスターなんか待たせておけばいいのよ!・・・それじゃあ、まず、お前に褒美よ。受け取りなさい」
王女がそう言うと、後ろに控えていた従者の一人が前に歩み出て、胸の前で捧げるように両手に乗せていた20センチ四方ぐらいの箱を左手だけに持ち替えて、右手でその蓋を開けて中身がトキオに見えるように前に差し出した。
「これは・・・ネックレスのようですが・・・」
「そうよ。見たらわかるでしょ」
「はい・・・で、どういったものなのでしょうか」
「王家に伝わる秘宝の一つよ」
「え!?それを俺に?・・・何の褒美でしょうか?」
「何を言ってるの?あなたが普及させた銃のおかげで南部でトロールたちを討伐できたからに決まってるでしょ!」
「あ、そうなんですか・・・でも、それって討伐したのは兵士と冒険者だと聞いていますから、あげるなら彼らにあげるべきかと思いますが・・・」
「お前!私からの褒美が気に入らないの!?」
「あ、いえ、決してそんなつもりで言ったのでは・・・」
王女が途端に不機嫌な顔になったので、トキオは非常に焦った。そして、噂通りにこれから罵倒されまくるのかと思って体を固くした。
「・・・ふうん、その表情から見て、言ってることは本気のようね。謙虚な男だって話は本当なのね」
「・・・はあ」
トキオは、王女が予想外の反応をしたので安堵するとともに、何を言われているのかわからずぽかんとした顔になった。
「まあ、それはどうでもいいわ。今日は色々とお前に話があるの。私と一緒に来なさい。これは、あとでお前の屋敷に届させるわ」
「あ・・・はい、ありがとうございます」
トキオは、「話がある」という言葉にイヤな感じがしたが、とりあえずお礼を言って頭を下げた。
「さあ、こっちよ」
王女は、そう言うと、つかつかと速足で歩きだしたので、トキオは慌ててその後ろからついて行った。
従者たちは、トキオの斜め後方両側からついて来た。
「あのー、すみませーん」
クロアは造兵局に着くと、入り口からそう声をかけた。
「はい・・・ああ、これはクロアさん、どうされました?」
すぐに若い男が出て来て言った。
「ウェスターさんはいらっしゃいますでしょうか」
「あ、はい。ちょっと待ってください」
その若い男がそう言って振り向くのと同時に、正面の机で背を向けて作業をしていたウェスターが、クロアの声が聞こえたらしくこちらを向いた。
「ああ、クロアさん。おはようございます」
「おはようございます・・・すみません、トキオから伝言で、少し遅れるとのことです」
「おや?・・・では、今日は一緒に来られなかったんですね」
「いえ、いつも通り同じ馬車で来たんですが、ここに来る途中に捕まっちゃいまして」
「捕まった?誰にですか?」
「セシル王女様です」
「え?・・・・・それは、かなり遅れるな・・・」
「ええっ!?どうしてですか?」
「あの人は、話し始めると自分が納得するまで相手を開放しないので・・・」
「そうなんですか!・・・ああ、なんかわかるような気がする」
「あ、私がこんなことを言ったというのは内密にお願いします」
「もちろんですよ。困った王・・・あ、いや、なんでもないです。それでは、私はこれで」
「あ、はい。わざわざありがとうございました」
「いーえ」
クロアは軽くお辞儀をすると、造兵局をあとにした。
トキオがしばらく歩いて連れて行かれたのは、王族の居住エリアということで、今まで入ったことのない一角だった。
「さあ、この部屋よ。入って」
王女がそう言うと、従者の一人が素早く進み出てドアを開け、それから、ドアの横に背筋を伸ばして直立した。
トキオは、「入って」と言われたので自分が先に入るのかと思って1歩踏み出そうとしたら、王女が先に、これまた速足で入って行った。
トキオは、ぽかんと棒立ちになったが、従者が手で入るようにとの指示をしたので、あわてて部屋の中に入った。
その部屋は、明らかに戦闘訓練用の部屋で、魔法訓練室よりさらに広く、部屋の隅には柔道用と思われる畳も敷いてあった。
壁際にはあらゆる武器が専用のスタンドや台の上に乗せてあり、土嚢や弓の的や、頭の高さぐらいに天井から下げられている金属製の丸い玉もあった。
「ここは、王家の者と勇者だけが使える訓練室よ」
「そうなんですか。素晴らしい設備ですね」
トキオは、そう言いながら、(なるほど、勇者様はここで訓練してるのか)と、思った。
「まあそうね。一通りの武器や訓練道具は揃ってるわね」
「そのようですね。本当に素晴らしい」
トキオは、本気で感心していた。
「さてと・・・じゃあ、始めようかしら」
王女は、そう言うと武器が並んでいるスタンドの方へ歩き出した。
また、何か言うと怒られそうだと思って、トキオは黙ってその様子を見ていた。
すると、王女は、先端にアメリカンドッグの大きなものが付いたような木製の長い棒と、これまた木製の剣を持って戻って来た。
「お前、柔道や剣以外にも色々な格闘技や武器が使えるそうね。当然、槍は使えるんでしょ?」
王女はそう言うと、左手に持った長い棒を投げてよこした。
トキオは、慌てて両手で受け取った。
「その腕前がどの程度のものか見てあげるわ。その訓練用の槍で私にかかってらっしゃい。ただし、手加減はしないことよ。私に対してそんな失礼な振る舞いは許さないわよ」
「は、はあ・・・」
(ああは言ってるけど、あの勢いだとケガでもさせたら打ち首になるかもしれないよな。困ったぞ)
トキオは、本気で困っていた。
しかし、それが顔に出ていたのか王女が言った。
「もし、お前が私より強くて私がケガをすることがあっても、一切とがめないから安心しなさい。まあ、そんなことにはならないでしょうけどね。その代り、私がお前にケガをさせても恨みっこなしよ」
(あんなこと言うってことは、相当、腕に自信があるんだな。うーん、もうこうなったら腹をくくるしかないか)
「わかりました」
トキオはそう答えると、真剣な表情になって槍を構えた。
「いい面構えね。では、いくわよ」
そう言うが早いか、王女はいきなりダッシュしてトキオの槍を左にはたくと、上段から切りかかって来た。
(お!確かに速いし踏み込みも深い!)
トキオはそう思ったが、ある程度予想していたので素早く右にステップしてかわした。
かわしながら、槍を左に振って王女の背中に一撃を浴びせようとしたが、王女が素早く振り向いて剣でそれを受けた。
(ほう、王族だってことで過大評価されてるのかと思ったら、これは本物かもしれないぞ)
トキオは、本気で感心していた。
「なかなかやるわね。そうこなくっちゃ」
王女は不敵な笑みを浮かべた。
(こりゃあ、ちょっと面白くなりそうだな。真剣に相手してやるか)
トキオは、王女がどの程度の実力なのか見極めたくなり、王女の全身をゆっくりと観察したうえで改めて構え直した。




