第202話 テリットの涙
飲食コーナーに入ると、真ん中あたりのテーブルにテリットが相変わらず松葉杖を隣の椅子に立てかけた状態で座っていた。
「おお、テリット!来てたのか!」
パーシーが両手を広げる大げさな動作をしながら言った。
「なんだか上機嫌だな」
テリット苦笑しながら言った。
「え?そうか?・・・うーん、多分、ホッとしてるんだろうな」
「まあ、そうだろうな。お前の声がデカいから話は全部聞こえてたよ」
テリットはそう言って笑った。
「まあなあ、お前が足を折られたときは魔人が目の前に現れたのが突然過ぎたのと、魔人の真の身体能力が分かってなかったから恐怖を感じなかったけど、今回は、魔人の能力がわかってただけに目の前に来られた時にはマジメにもうダメだって思ったよ」
「そんなにそばまで来たのか?」
「もう、3マインぐらいの距離だったな」
「え!?・・・よく、それで無事だったな」
「ちょうどそのタイミングでイディアス魔導士様が魔人を1体消したので、そいつは慌ててそっちに飛んでったんだよ」
「ああ、そういうことか。運が良かったな」
「まったくだよ。その後に、その魔人が幹部だってわかったから余計にな」
「え!?・・・お前ら、ものすごい強運だな」
「そうかもしれないな」
パーシーは、そう言って両手のひらを顔の高さにあげ、おどけた仕草をして見せた。
「じゃあ、トロールは全部魔導士様が倒したのか」
「いや、俺たちも2体倒したぞ」
「ホントか!?スゴイじゃないか!」
「ミレリアが届けてくれた新しい銃弾のおかげだな」
「ああ、あのホロ―ポイント弾ってやつか」
「知ってるのか」
「フーゴが届けに来た時に俺もいたからな」
「そういうことか」
「あと、リディアが一人で3体倒した」
「なんだって!?それはスゴ過ぎるぞ!」
テリットはすごく驚いた顔でリディアを見ながら言った。
「いえ、そんな大したことしてませんから」
リディアはそう言うと、恥ずかしそうに俯いた。
「いやいやいやいや、スゴく大したことだろうよ!」
「なんか、薄く横に広がる光魔法だったな。あれ、なんていう魔法なんだ?」
パーシーがリディアに聞いた。
「フライショットですね」
「あれって、もしかすると、俺たちが王都に行ったときにトキオがモルナール魔導士様から教えてもらってた魔法じゃないのかな?」
ブロームが言った。
「あ、やっぱりそう?あたしもそう思ったんだよね」
アウレラが言った。
「え?てことは、トキオもあれが使えるのか?」
パーシーが驚いた顔で聞いた。
「あれからかなり経ってるから、もう、自分のものにしてるだろうな」
ブロームが答えた。
「おいおいおい、ただでさえ格闘技と拳銃の腕が抜群なのに、あんな魔法も使えるようになってるんじゃ、もう無敵じゃねーか!」
「魔人を除けばな」
「ああ、それは言えてるな」
その言葉で、皆の表情が少し曇った。
「失礼する」
そこで、入口の方から声が聞こえたので皆が振り返ると、魔導士が3人立っていた。
「ああ、魔導士様だ。迎えに行かなくちゃだな」
パーシーがそう言うと、皆は入口の方へ移動して行った。
テリットも立ち上がろうと松葉杖を掴もうとしたが、そこに、一人だけ残っていたブロームが寄って来て顔を近づけた。
「俺たちが倒したトロールの最初の一体は、アウレラが脳天に刀を突き立ててとどめを刺した。これで、あいつの心にあったしこりは、だいぶ柔らかくなったと思う」
ブロームは、テリットの耳元でそう囁いた。
「そうか!・・・それは良かった・・・」
テリットは嬉しそうな声でそう言ったが、言葉の最後は湿っぽい響きになって、薄っすらと目に涙をにじませた。
「これで、あいつは本当の意味で冒険者になっただろう」
「そうだな、そうだな」
テリットはそう言ってブロームの二の腕を両手で掴んだ。そして、その頬を一筋の涙が伝った。
「皆、先ほどはご苦労だったな。ご苦労ついでに、そなたたちがどのようにしてトロールを倒したかを教えて貰えるか」
モルナール魔導士が、迎えに出て来た冒険者たちを見渡しながら言った。
「はい。では、私からお伝えします」
「魔導士様、お越しいただき光栄です。こちらへどうぞ」
パーシーが答えたところで、ミレリアが魔導士たちの前に出て来て言った。
「うむ、よろしく頼む」
モルナール魔導士はそう答えて、ミレリアのあとに続いて飲食コナーへ入って行った。
ミレリアは、魔導士たちを一番奥のテーブルに案内した。
冒険者たちもその後について行ったが、皆が横を通るとき、テリットは泣いているのを悟られないように下を向いていた。
「ん?テリットどうした?気分でも悪いのか」
それを見つけたマルケルが聞いた。
「ああ、ちょっと腹がな」
テリットは下を向いたまま言った。
「大丈夫かよ。事務室から腹の薬を貰って来てやろうか?」
「すぐ収まるから大丈夫だよ」
「そうか?」
「俺が見てるから大丈夫だ。お前は、魔導士様たちのところに行ってくれ」
ブロームがそう助け舟を出した。
「わかった。じゃあな」
マルケルはそれ以上詮索せずに奥へ進んで行った。
「こちらにお食事とお飲み物を用意しましたのでどうぞ」
ミレリアは、そう言って魔導士たちを食事と飲み物が並んでいるテーブルに案内した。
「なんだ。長居はしないからそのようなことは気にしなくても良かったのに」
モルナール魔導士が言った。
「いえ、急ごしらえで申し訳ありませんが、ゆっくりして行ってください」
「そうか、気を遣わせてすまぬな」
3人の魔導士は腰を下ろしたが、その際に、近くにいた冒険者たちが3人の椅子を引いた。魔導士たちは、それに対して軽く会釈を返した。
「では、早速話に入ろう。パーシーが話してくれるのか」
「はい、私からお話します」
パーシーはそう言って、トロールを倒したいきさつを魔導士たちに話して聞かせた。
「なるほど、では、そのホロ―ポイント弾というのが有効であったということだな」
「はい。普通の弾は、集中的に2度胸に集めてやっとトロールの足を止めることができる程度でしたから、完全に転倒させることは難しかったと思います」
「それで、それはどういう弾なのだ」
「これです」
パーシーはそう言うと、胸のポケットから銃弾を取り出してテーブルの上に立てた。
「ほう・・・真ん中が空洞になっているのか。これで破壊力が大きく上がるとは。実に興味深いな」
「はい。それで、体内に入った後の姿がこれです」
パーシーはそう言うと、同じポケットから潰れたホロ―ポイント弾を取り出してテーブルの上に置いた。
「これが、トロールの体内に入ったあとの姿か」
モルナール魔導士は、それをつまみ上げると興味深げにまじまじと見つめた。
「はい、トロールの膝から回収して来ました」
「え?お前いつの間に?」
エドが驚きの声を上げた。
「俺もどうなってるのか興味があったから、2体目を倒したあとに回収しておいたんだ」
「意外にしっかりしてるな」
そのエドの言葉で皆は笑った。
「まるで花びらのようだな。なるほど、このように横に潰れるからダメージの範囲が広がるのだな。よく考えたものだ」
その会話には一切反応せずにモルナール魔導士が言った。
「そうですよね。まったく、トキオの発想力には呆れます」
「なに?これもトキオが考案したものなのか?」
「そうみたいです。これを作った鍛冶屋からの伝言にそう書いてありました」
「そうか・・・これは二つとも貰って構わないか?」
「もちろんです。どうぞ、お待ちください」
「感謝する・・・それで、もしかすると、前回使われた徹甲弾も同じ鍛冶屋が作ったのか?」
「はい、そうです。この街ににいるフーゴという鍛冶屋で、トキオと懇意にしてました。拳銃やライフル銃を最初に作ったのもこの男です」
「なんと!・・・その者に会うことは可能か」
「問題ないと思いますよ。これから案内いたしましょうか?」
「頼めるか」
「お安い御用です」
「では、行こう」
そう言うと、3人の魔導士は同時に立ち上がった。
「あ、はい」
パーシーはあわてて立ち上がると、魔導士たちの先に立ち、入り口に向かった。
他の冒険者たちもそのあとに付いて行った。
パーシーは、入り口まで来ると振り返って、ついて来ている冒険者たちに向かって言った。
「案内は俺が一人でするから大丈夫だ。お前たちは休んでてくれ」
「え?そういう訳にもいかないだろう?」
エドが言った。
「いや、ぜひそうしてくれ。疲れているところを押しかけてきて申し訳なかった」
モルナール魔導士が言った。
「そうだ。案内は一人いれば十分だからな」
イディアス魔導士も言った。
「そうですか、わかりました。それでは、戦場で助けていただき本日はありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
エドの言葉で、全員が深々と頭を下げながらお礼を言った。
「いや、そなたたちの働きもあってのことだ。気にするな・・・では、行こうか」
「はい」
そうして、パーシーの案内で魔導士たちはフーゴの店へ向かって行った。
残った冒険者たちは、外まで出て来ると再び深々とお辞儀をした。
その中には、ブロームに支えられたテリットの姿もあった。
今回のタイトルを変更しました(2021/8/30)




