第201話 叱責される魔導士
皆の和んだ笑いが収まったところでブロームがパーシーに聞いた。
「ところで、気づいたか?」
「ん?何をだ?」
「さっきの魔人の一連の動きからして、どうやら魔人には光魔法で作られた壁が見えてないんじゃないか、ってことだ」
「あ、俺もそう思ったぞ!」
パーシーが返事をする前にマルケルが答えた。
「そうだろう?」
「ああ、魔人は消えたと思わせられるほど瞬時にスピードが上げられるってことは、逆に、瞬時に止まることもできるってことだろ?なのにあの魔人は、自分が大きなダメージを負うほどまともに光の壁にぶち当たってたからな」
「そうなんだよ。あのぶち当たり方から考えると、見えてないとしか思えないんだよな」
「たぶん、それは合ってる」
ハイケルが前に出て来ながら言い、さらに続けた。
「先ほどかけた視力強化魔法の効果が切れてなかったおかげで薄っすらとながら見えてたんだが、まったく減速せずにまともに反射魔法の壁に突っ込んでたな」
「やっぱりそうか・・・」
「はい、その通りです」
そこで、リディアが言った。
「なんか知ってるのか?」
ブロームが聞いた。
「はい。先ほど父から聞いたのですが、実は、そうなのではないかという憶測が以前から魔導士様たちの中にあったのを、1か月前の戦闘で確信したそうです。今日の魔人捕獲作戦は、魔人が光の壁が見えないことを前提に組まれていたんです」
「なるほど、さすが魔導士様だな」
「でも、今回でこちらの作戦がばれましたから、次からは使えないんじゃないでしょうか」
「ああ~、あの女の魔人ともう一体の魔人が見てたからな」
「はい。あのダメージを負った魔人が師団長なのに『こいつ』呼ばわりしてましたから、あの女の魔人も幹部クラスではないかと思いますので」
「ああ!確かにそう言ってたな!」
「となると、次に攻めて来た時は、さらに厳しい戦いになりそうだな」
マルケルのその言葉で、皆は暗い表情になった。
その頃、アロイス王子とセシル王女は、先ほどまで戦闘が行われていた最前線に出てモルナール魔導士から戦闘の経過を聞いていた。
「・・・といった様子で、我々が到着した時には、兵士と冒険者によってすでに何体かのトロールが倒されておりました」
「ほう、1年前までの戦闘では兵士たちはトロールに非常に苦戦していたと聞いていたが、ここの兵士たちは優秀なのだな」
「兵士の多くが銃を装備していたことが大きかったと思われます。この近辺は、最初に銃が作られた地域ですので、王都よりも兵士への銃の支給率がかなり高いのです」
「そういうことか。それでは、また、トキオの功績ということになるのか?」
「はい。間接的にはそうなるかと思います」
「ふむ。王都に戻ったら何か褒美を与える必要があるな」
「それがよろしいかと思います。ただ、トキオ本人には自分がいくつも大きな働きをしているという自覚がほとんどないようですので、あまり高価なものを与えますと逆に恐縮してしまうのでないかと思います」
「そうなのか?なんとも欲のないヤツだな」
「はい。しかしそれも、あの男の良い資質の一つだと思います」
「確かにそうかもしれんな」
「ねえ、お兄様」
そこで、セシル王女がアロイス王子に話しかけた。
「なんだ」
「その褒美、私に用意させてもらえないかしら」
「別に構わんが、どうしてだ?」
「ちょっとあの男に興味が沸きましたの。私から直接渡して、少しお話がしてみたいと思いましてね。私と同じ歳だっていうことですし」
「そうらしいな。まあ、あまりいじめるなよ」
「ひどい!そんなつもりはないですわよ!」
「そうか、ははははは!」
セシル王女はむくれた顔をしたが、すぐに厳しい表情になってモルナール魔導士の方を向いた。
「それにしてもモルナール、今回の失態はいただけないわね」
モルナール魔導士は、一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに軽く頭を下げながら言った。
「は!申し訳ございません!すでに3体の魔人が現れていたことで油断しておりました。もう一体、しかも地中から現れるとは想定外でした」
「以前にも地中から現れたことがあったのではないの?想定できたでしょ?」
「・・・はい。確かに、オルトロスが出現した時に出た魔人は地中から現れたと聞いております。今回、魔人を地中に逃がさないことには注意していたのですが、まさか、前触れもなく逆に地中から現れるとは・・・」
「なによそれ!考えが片手落ちなんじゃないの!?」
「はい、おっしゃる通りです」
モルナール魔導士は、さらに深く頭を下げた。
「セシル、そのくらいにしておけ。魔導士たちも、長旅で疲れているところを休む暇もなくここまで移動してきて戦闘に参加したのだ。細かい作戦を組み立てる暇もなかっただろう」
「そうですけど、あまりにも・・・」
「それに、私たちは何の役にも立たなかったのだ。モルナールばかりを攻められないぞ」
「ま、まあ、それはそうですけど・・・」
「そういうこで、ここは兵士たちに任せて引き上げよう」
「・・・わかりました」
アロイス王子が振り返って歩き出したので、セシル王女もあわててそれについて行ったが、歩き出す時にモルナール魔導士を睨んだ。
モルナール魔導士は、それを見て頭を下げてから、二人のあとに付いて歩き出した。
その後ろに、二人の魔導士と将校たちが従った。
「あ、戻って来ましたよ」
アロイス王子を先頭に、前線に行っていた者たちが戻って来るのを見てリディアが言った。
「あっ!」
皆は、その言葉で緊張して背筋を伸ばした姿勢になった。
そして、王子が近くまで来ると一斉に頭を下げた。
「おお、リディア、まだいたのか。後は、兵士たちに任せて帰っていいぞ」
「それでは、他の冒険者の方たちも・・・」
「構わん。後片付けは兵士たちに任せておけば良いだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
それで、王子たちの一行は、冒険者たちの脇を通って元来た方へ歩いて行った。
通り過ぎる時に、モルナール魔導士がリディアに言った。
「我々が来るまでのことを冒険者の誰かにも聞きたいので、アルアビスに戻る前に一旦アティムに寄る。誰かをギルドに残しておいてもらえるか」
「わかりました」
それから、モルナール魔導士は、冒険者たちに軽く手を上げて微笑んだ。
冒険者たちは一斉に深々と頭を下げた。
「ということですので、戻りましょう」
皆が頭を上げるとリディアが言った。
「そうしよう、そうしよう。ああ、疲れたな」
パーシーが言った。
「疲れたのは疲れたけど、今回は、どっちかって言うと気疲れだな。魔人が目の前に来た時には生きた心地がしなかったぞ」
マルケルが言った。
「ホントだよな」
「もうダメかと思ったよ」
「俺も俺も」
皆も同じ感想を漏らした。
「でも、王子様と王女様、品と威厳があって素敵だったわ~」
アニタが少し赤くなった顔で言った。
「そうよね~」
「初めて見たけど、王族ってあんな感じなのね~」
他の女性冒険者たちが一斉に賛同して、それからは、歩きながら王子と王女のことをずっと話していた。
その中には、当然、アウレラもいたが、同じように嬉しそうな顔で会話に混ざっているのを見てブロームはホッとした。
(これで、あいつの心の重荷も少し軽くなったかな)
ブロームはそんなことを思った。
「戻ったぞ~」
冒険者ギルドに着くと、パーシーが大声でそう言った。
すると、受付にいたミレリアが慌ててこちらに出て来た。
「お疲れさまです!もう片付いたんですか?」
ミレリアは驚いた顔をしていた。
「ああ、魔物はすべて討伐したぞ。魔人には逃げられたけどな」
「え!?魔人が出たんですか?」
「そうだ。それも、4体な」
「え!4体も?・・・それで、皆さんは大丈夫だったんですか?どなたか、ケガをされた方はいませんか?」
「ああ、魔人の相手は魔導士様がしてくれたんで俺たちは全員無事だ。せいぜいかすり傷程度だ」
「魔導士様が・・・良かった・・・」
ミレリアは、心底ホッとした顔をした。
そこで、事務室の方からケリー支部長が出て来た。
「おお、皆、ご苦労だったな!無事でなによりだ!」
「ああ、魔導士様が来てくれなかったらどうなってたかわからなかったけどな」
「魔人が4体じゃ確かにそうだな」
「魔導士様たちの強さは次元が違ったよ。1体は簡単に消し去って・・・」
「消し去って?」
「そうだよ。イディアス魔導士がクロアの複合魔法を使ったんだ」
「なんと!・・・あの、初見で再現してみせたって人か?」
「そうだ」
その問いにはブロームが答えた。
「そうか・・・サスガだな」
「さらに、幹部を痛めつけてかなりの深手を負わせたんだが・・・」
「幹部が出たのか!?」
「ああ、しかも、2体な」
「なんだって!」
これには、ケリー支部長だけでなく、ミレリアもかなり驚いた表情になった。
「それで、そのうちの1体を痛めつけて捕獲寸前までいったんだが、突然、地中からもう1体の幹部が現れて連れてっちゃったんだ」
「地中から?」
「そう」
「なんと・・・驚くことばかりだな」
「ああ、俺たちも今回は生きた心地がしなかったよ・・・あ、そうだ。もうすぐ、魔導士様がここに来るから、もてなす用意をした方がいいぞ」
「え!?そうなんですか!それは大変だ!」
ミレリアは、そう言うと慌てて厨房の方へ走って行った。
「さて、俺たちも少し休もうぜ。すんごい疲れたよ」
「まったくだ」
「ホント、ホント」
口々にそう言うと、冒険者たちは飲食コーナーへと入って行った。




