第200話 主役の到着
残ったトロールは、他のトロールが次々と倒されていったことと魔人がダメージを負ったうえで撤退したことで戦意をなくしたのか、動きを止めていた。
それを見た王国軍の兵士たちが、それぞれに集中砲火を浴びせたので、それからすぐにトロールはすべて討伐された。
ゴブリンはその前に逃亡を始めていたが、元いた森に戻ろうにも、その手前に隣国の兵士が待ち構えていたので戻れず、右往左往しているうちにすべて兵士たちに撃ち取られた。
それらのことは短時間のうちに行われたので、冒険者たちは次にどういった行動を起こせばいいのかと考える間もなくその様子を傍観していた。
そして、すべての魔物が討伐されたことを確認した魔導士たちが、冒険者たち、というよりリディアの方へ戻って来た。
「少し急ぎ過ぎたな。もう少し慎重に行くべきだった」
歩きながらモルナール魔導士がそう言うのが聞こえた。
「まさか、もう一体、しかも地中から出て来るとは」
「もう少しで師団長のライマールを捕らえられると思ったのだが、そう簡単にはいかないということか」
3人とも難しい顔をしていた。
「お疲れさまです」
魔導士たちが目の前まで来た時に、リディアがモルナール魔導士に向かって言った。
「ああ、お前もご苦労だったな。なんとか魔物たちは片付いたようだ。しかし、幹部を取り逃がしたのは痛かった」
モルナール魔導士は、渋い顔をしてそう言った。
「あの~・・・」
そこで、パーシーがモルナール魔導士に声をかけた。
「ん?・・・おお、そなたはリディアのパーティーのリーダーだな。確か、パーシーと言ったな。娘がいつも世話になっていてすまない」
モルナール魔導士は、そう言うと、パーシーに向かって頭を下げた。
「いえいえ、とんでもございません!私たちの方が助けてもらってるぐらいですよ!」
魔導士が自分に頭を下げたことでパーシーは慌てていた。
「そんなことはなかろう。こいつは、まだまだ未熟者だからな」
モルナール魔導士は、そう言ってリディアの頭に手を乗せた。
「お父様、こんなところでやめてください!恥ずかしいじゃないですか」
「お、そうか?すまない、すまない」
そう言ってモルナール魔導士は笑った。
その二人の様子を見て、パーシーは一瞬固まったが、すぐにモルナール魔導士に問いかけた。
「あの~、ひとつお伺いしたいことが・・・」
「うん?なんだね?」
「まず、今、ダメージを負って連れ去られた魔人は師団長なんですか?」
「そうだ。1か月前にも短時間だが現れた、ライマールという師団長だ」
「ということは魔王軍の幹部ってことですよね?」
「そうだ」
「それを捕獲しようとしていたんですか?」
「その通りだ」
「それは、なぜですか?」
「幹部クラスであれば知っているであろうあることを聞きだすためだ」
「え?そうなんですか?それは一体何を・・・」
「それはここでは言えないな。周りに人が多過ぎるし、声が通りやすい」
「あ、そうですよね。すみません、変なことをお伺いしまして」
パーシーはそう言うと、深く頭を下げた。
「いや、そなたたちにも協力してもらおうと思っていたので、あとで説明する。ただ、ここでは場所が悪いというだけだ」
「あ、そうなんですね!わかりました!」
パーシーは、急に元気な声になった。
「うん?ここではないのか?魔物などいないではないか」
そこで、聞きなれない大きな声が後方から聞こえたので冒険者たちは一斉に振り返った。
するとそこには、見たこともないような豪華な装飾と重厚な様子の、いかにも貴族然とした服を着た男と女が立っていた。
そして、その後方には、かなり年配の王国軍の将校が数名立っていた。
「これは、これは、殿下。お着きになられましたか」
モルナール魔導士がそう言って深々とお辞儀をし、二人の魔導士とリディアも同じようにお辞儀をした。
冒険者たちが、それが誰かわからずにぽかんとしているとリディアが小声で言った。
「王子様と王女様ですよ。お辞儀をして」
「え!?」
そのリディアの言葉で、冒険者たちはあわてて深々とお辞儀をした。
「あら?リディアじゃないの。久しぶりね」
セシル王女がリディアを見つけるとそう言った。
冒険者たちは、驚いて一斉にリディアを見た。
「ご無沙汰しております。アロイス殿下、セシル殿下とも、ご健勝なようでなによりです」
リディアは、皆が自分をじっと見ているのが恥ずかしいのかやや頬を赤く染め、お辞儀をしたまま顔だけ上げてそう答えた。
「そうでもないわよ。長旅ですっかり疲れちゃったわ」
セシル王女は少し不機嫌な顔でそう言った。
「ああ、そうでしょうね。わざわざ、遠い所をありがとうございます」
リディアは、そう言いながら頭を上げた。
ブロームが魔導士たちを見ると、すでに3人とも頭を上げていた。
そのことに他の冒険者たちも気づいたようで、皆、ゆっくりと頭を上げて直立した姿勢になった。
「その者たちは何者だ?兵士ではないようだが」
「はい。私が、今住んでおります、この近郊のアティムという街の冒険者仲間です。皆さんには、特に、私のパーティーのリーダーであるこのパーシーさんにはよくしていただいております」
「おお、そうか。リディアが苦労を掛けるな」
アロイス王子がパーシーの方を向いてそう言った。
「はっ!・・・」
パーシーは、その言葉のあとに「とんでもございません!」と付けようと思ったが、その言葉が失礼にあたらないかがわからなかったので、それ以上は何も言わず頭を下げた。
他の冒険者たちも、それに合わせて頭を下げた。
「ああ、そういう堅苦しいのは良い。頭を上げよ」
「は、はい!」
アロイス王子がそう言ったので、皆、あわてて元の姿勢に戻った。
「それでモルナール、魔物はどこにいるのだ?」
アロイス王子は、今度はモルナール魔導士に向かって聞いた。
「はい。ここにいる兵士と冒険者たちに我々も少し協力して、今しがた、すべて討伐し終わったところです」
「なに?もう終わったのか?」
「はい。こちらへどうぞ」
モルナール魔導士、魔物たちが倒れている後方を手の平を上にして示しながら言い、そちらに向かって歩き出した。
他の二人の魔導士も、その両脇やや後方から付き従った。。
「うむ」
アロイス王子とセシル王女も、そのあとに付いて歩き出した。
冒険者たちは、顔は二人に向けたまま、ぶつからないように慌てて脇へ移動した。
王子と王女の後方にいた将校たちも、二人のあとをついて行った。
冒険者たちは、どうしていいかわからずに、皆が通り過ぎた後も呆然とその場に突っ立っていた。
リディアも一緒にそこにいた。
「お前は行かなくていいのか?」
それに気づいたパーシーがリディアに声をかけた。
「はい。今回は、協力して欲しいと父から伝言があったので、一旦、魔導士様たちと合流しましたが、もう、討伐も終わりましたから皆さんと一緒にいます。今の私は皆さんと同じ冒険者ですから」
そう言ってリディアはにっこりと微笑んだ。
「お~、お前っていいヤツだな~」
そう言って、パーシーはリディアに抱きつこうとしたが、襟首を誰かに掴まれて前に進めなかった。
振り返るとアニタだった。
「やると思ったよ!まったく!」
「え?いや、俺は親愛の情を現わそうと・・・」
「いいから、お前はこっちに来い!」
エドとマルケルに両腕を掴まれて後ろに引っ張られた。
「いや、だから別に・・・」
パーシーは必死に弁解したが、誰も聞いてなかった。
そこでブロームがアウレラを見ると、キラキラと目を輝かせて王子と王女が歩いて行く姿を目で追っていた。
「あ~・・・・」
こりゃダメだと思い、そのままほっておくことにした。
「さて、これから俺たちはどうすればいいのかな?」
エドが言った。まだ信用していないのか、パーシーの腕は掴んだままだった。
「今回は自主的にここに来たけど、途中で協力してくれと王国軍から要請があったんだから、王国軍の指示が出るまで待ってればいいんじゃないか?」
ハイケルが言った。
「ああ、そうだな。そうするか・・・王国軍が俺たちのことを忘れてなきゃいいけど」
そのエドの言葉で、皆は一斉に魔物の残骸を片付けている兵士たちを見たが、兵士は自分たちの作業に夢中で、冒険者のことなど誰も気にしていないようだった。
「・・・ちょっと不安になって来た」
マルケルがぼそりと言った。
「すぐに、王子様たちが戻って来られると思いますから、そのとき、私から父に聞いて見ますよ」
リディアが言った。
「あ、それいいな!魔導士様が帰っていいって言えば、王国軍も文句は言わないだろう」
「そう思います」
「ところで、王子様たちはこれからどうするんだろう。何か聞いてるか?」
パーシーがリディアに聞いた。
「今夜はアルアビスの街に泊まると言ってました。王国軍が宿を手配したみたいです」
「ああ、そうか。アルアビスかウゼマス近郊での戦闘になると想定してたんだろうから、そうだろうな。お前も行くのか?」
「いえ、私はアティムに戻ります。どうしてですか?」
「いや、モルナール魔導士様と話すことがあるのかな、と、思ってな」
「1か月前にも会いましたから特に話すことはないです。それに、もう、そんな歳じゃないですよ」
「あ、そりゃそうか!」
そこで皆から笑いが起こった。
「・・・しかし、今回は魔導士様たちに来てもらって助かったな。魔人が3体も現れた時には、もうダメかと思ったよ」
笑いが収まったところでブロームが言った。
「ああ、ホントそうだよな。特に、すぐ目の前に来られた時には、確実にやられると思ったよ」
「俺もだよ」
「俺も俺も」
「私もよ」
皆、口々にそう言った。
「あと、リディアにも感謝しなきゃだな。簡単に3体もトロールを仕留めてくれて、ホントに助かったよ」
エドがそう言って頭を下げた。
「ホントにそうだな」
他の皆も、そう言って頭を下げた。
「やめてくださいよ!恥ずかしいですよ!」
リディアはそう言って真っ赤になった。
ついに200話に到達しました。
感無量でございます。
ブックマークや評価も徐々に増えていて、本当にありがたい限りです。
これを励みに今後も続けて行きますので、応援、よろしくお願いいたします。




