第193話 適性試験
次の日、アウレラが街を歩いていると若い男から声を掛けられた。
街に出るようになってから、こういうことは今までも時々あったが、今のアウレラには男は興味の対象外だったので、いつも適当にあしらって断っていた。
しかし、その日の男はなかなかの美男子だったせいか、かなりしつこく、いつまでもアウラレに話しかけてきた。
途中から、無視して歩いていたが、それを見は男は怒って、
「てめえ、ちょっと美人だからって無視してんじゃねーよ!」
と、言って拳を振り上げて来た。
アウレラは、驚いて足を止め体を後ろに引いたが、その男の右手が振り下ろされることはなかった。
見ると、後ろから別の男がその手首を掴んでいた。
「こら!若い女の子に拳を振り上げるなんて感心しないぞ!」
「あ、テリットさん!・・・すみません!」
しつこかった男は、テリットと呼ばれた男にペコペコと頭話下げて、速足でどこかに行ってしまった。
良く見ると、テリットの背後にも同じようにがっしりした体格の弓を持った男が立っていた。
「大丈夫だったかい?」
テリットは、にっこりと微笑みながらアウレラに言った。
「ありがとう・・・あ!あなたたちは!」
「え?・・・ああ、サーヤの姪っ子さんか」
「この前は薬草採取の護衛をありがとう」
「いやあ、あれは楽な仕事だったからこっちが助かったよ。しかし、近くで見ると、噂通りの美人さんだな」
(なんだ、やっぱりこの人も他の男たちと同じか。男って、どうしてみんなこうなんだろう)
テリットの最後の言葉を聞いたアウレラは、そう思った。
「まあ、うちの嫁さんの次ぐらいにだけどな」
「・・・え?」
「じゃあ、うちの嫁さんの方がテリットの嫁さんより美人だから、お嬢ちゃんは、この街で3番目の美人だ」
「ブローム!お前の嫁さんは、いつからこの街で一番の美人になったんだよ!」
「そんなの既成事実だろうが」
「ふざけんな!大体、なんでうちの嫁さんがお前の嫁さんより下なんだよ!」
「それも既成事実だろうが」
「クスッ」
その二人のやり取りを聞いて、アウレラは思わず笑ってしまった。
「あ、ほら、お前がおかしなこと言うからこの子が笑ってるじゃないか!」
「お前も同じだろうが」
「二人はすごく仲がいいんだね」
アウレラは微笑みながら言った。
「えー?・・・まあ、コイツとは小っちゃい時からの腐れ縁だからね」
「そうそう、いつも問題を起こす困ったヤツだったんだよ」
「それは、お前も同じだったろうが」
「まあ、そういう話もあるな」
そう言って二人が笑ったので、アウレラもつられて笑ってしまった。
「いい笑顔するじゃないか。キツい顔をしてるより、その方が全然いいよ」
「ホントだな」
二人は微笑みながらそう言った。
そう言われて少し恥ずかしかったが、そこで、アウレラはあることに気付いた。
「あの時は3人だったのに、今日は二人なの?」
すると、途端に二人は暗い顔になった。
「・・・魔物にやられちまったんだ・・・俺たちから少し離れたときに」
「冒険者になって1年だったから、そろそろ大丈夫だと安心してたんだが、よりによってグリベラーが・・・」
それを聞いてアウレラは息を飲み、自分の母親と姉のことが思い出されてきて思わず涙がこぼれた。
「あー、ごめんよ。こんな話して」
「あたしこそ、知らないでつらいことを聞いてごめんなさい」
「いや、知らなかったんだからしょうがないよ。それより、あいつのために泣いてくれるのか。優しいんだな」
そう言ったテリットは、少し目を潤ませていた。
隣で、ブロームは鼻をすすっていた。
(なんか、二人ともすごくいい人って気がする。さっきから、あたしの胸を全然見ないし。こんな人たちもいるんだなあ・・・)
「あ、そうだ!」
アウレラは、そこでひとつの思いがひらめいた。
「なんだ、どうした?」
「今は、二人で仕事してるの?」
「ああ、そうだ。ここのところ急に魔物が増えて来たんだけど、冒険者になれる適性を持っているヤツはそうそういないから補充が追いつかないんだ。それに、しばらくは新しいメンバーを入れる気にもなれないからな」
「そうか・・・そうだよね」
「何か言いたそうだな」
ブロームが聞いた。
「ううん、亡くなった人への思いがあるなら無理だからいいよ」
「なんだよ。気になるじゃないか」
「いいの。また今度ね。じゃあ、今日はどうもありがとう」
アウレラは、お辞儀をするとサーヤから頼まれた買い物をするために二人と分かれた。
テリットとブロームは、アウレラが行った方とは反対方向にある冒険者ギルドに向かって歩き出した。
「随分と明るくなったんじゃないか?」
「そうだな。この街に来た頃は、毎日暗い顔をしてふさぎ込んでたとサーヤが言ってたからな」
「母親と姉さんが食べられる音を聞いちまったんじゃそうもなるだろうけど、そのままだと病気になりかねないから、随分と回復して良かったじゃないか。何か、きっかけがあったのかな」
「サーヤから聞いたんだが、旦那のキッテルから剣を習うようになってからはそれに打ち込んでて、あまりふさぎ込むこともなくなったらしいぞ」
「ほお~、剣か・・・でも、それで敵を討とうなんて考えてるんじゃないよな?」
「どうだろう。頭が悪そうには見えなかったから、剣を持ってたぐらいでトロールがどうにかできると考えてるとは思えないけど」
「そうだよな」
その後は、話題を変えてギルドへ向かった。
1か月後、サーヤ夫婦とアウレラは、また、薬草採取をするために、冒険者を雇って森へ出かけたが、今回も、護衛に来たのはテリットとブロームだった。
「おじさんたち、また護衛してくれるんだね。よろしくね」
アウレラは、無邪気な笑顔でテリットとブロームに向かって言った。
「おいおい、おじさんはないだろ?俺たちは、まだ28だぞ」
テリットは、少しムッとした顔で言った。ブロームも眉間に皺を寄せていた。
「あ、そうなんだ!もっといってるかと思ってたよ。あたしとちょうど10歳違いだね」
「え?18歳なのか!お前こそ、もっと歳がいってるように見えるぞ」
「ええ~?・・・でも、そう言われるのイヤじゃないかも」
そう言ってアウレラは嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見たテリットとブロームは、1か月前よりもさらに明るくなっているのを感じて、ホッとして同じように微笑みを返した。
「でも、まだ二人なんだね。やっぱり、まだ代わりの人を入れるのはイヤなんだ」
「いや、二人でやってると仕事も限られるんで補充をギルドには申請してあるんだが、人手不足で代わりがいないんだよ。大きな仕事をするときは、他のパーティーから臨時で助っ人を頼んでやってるんだ」
「え!そうなの?・・・じゃあ」
アウレラは言いだしにくそうに、そこで一旦言葉を切った。
「なんだよ」
「あのね、イヤだったらしょうがないんだけど・・・あたしを仲間にしない?」
「なんだって?お前、冒険者のライセンス持ってないだろ?」
「そうだけど、そろそろあたしも冒険者になろうと思ってるんだよ」
「簡単に言うけど、命の危険もある大変な仕事だぞ」
「わかってる。だから、一生懸命、剣の稽古をしてきたの」
「ほう、自信がありそうだな」
「ちょっとアウレラ、急に何を言い出すのよ!」
そこでサーヤが会話に入って来た。
「だって、いつまでもおばさんたちにタダでご飯食べさせてもらうのも悪いから、あたしもそろそろ働こうと思って」
「そんなことは気にしなくていいのよ!家事をやってくれてるから、それで大分助かってるし。一生、うちにいてくれてもいいんだから」
「えー?そうはいかないでしょ」
「いいのよ・・・ねえ、テリットも何か言ってやってよ」
そう言われたテリットは、じっとアウレラを見つめてから言った。
「剣の自信はあるのか?」
「うん!」
アウレラは、微笑みながら即答した。
「ちょっと、テリット!何を言うのよ!」
サーヤは驚いて、テリットを睨みつけた。
テリットは、サーヤに近寄ると耳元でアウレラに聞こえないように囁いた。
「今から手合わせをする。どうせ、大した腕じゃないだろうから、それで俺が失格だって言えばあきらめるだろ?」
「あ、そういうことね。わかったわ」
サーヤはホッとした顔になった。
「じゃあ、これで俺に切りかかって来い。それで適性を見るから手加減するなよ。俺を魔物だと思って来るんだ」
テリットは、腰の剣を抜いてアウレラに渡しながら言った。
それから、地面に落ちていた長さ1メートルほどの枝を拾い上げた。
「これを俺に使わせたら合格だ」
「・・・わかった」
アウレラは受け取った剣を両手で持つと、少し右に倒して構えた。
そして、テリットを真剣なまなざしで睨みつけた。
(この顔つき、覚悟は本当のようだな)
テリットは、ここで少しアウレラを見直していたが、枝はだりと垂らした右手に持ったままだった。
「ダッ!」
アウレラは、ゆっくりと少し間合いを詰めた後、短く声を発してから鋭く踏み込み、上段からテリットとに切りつけた。
(速い!)
予想外のスピードでアウレラが切りつけて来たため、テリットは躱すのがギリギリになり、剣の切っ先がわずかに左の二の腕あたりをかすった。
「ほう・・・」
それを見たブロームが、感心した声を漏らした。
アウレラは、少し前につんのめったが、左足を前に出して踏ん張り、すぐに切り返して、今度は真横にテリットを切りつけた。
テリットは、これを余裕で躱した。
しかし、アウレラは手を休めずに続けざまに上下左右、斜め、と、あらゆる角度からテリットに切りつけて行った。
「・・・アウレラ、いつの間に・・・」
その様子を見たサーヤは、驚きの声を漏らした。
その後方で、キッテルも驚いた顔をしていた。
その直後、テリットが、地面から飛び出していた太い木の根っこに踵を取られ、うしろによろけた。
それを見たアウレラが、テリットの右の肩口目がけて切りつけて来た。
(マズい!)
テリットは、右手に持った枝で咄嗟にアウレラの件を右に弾き飛ばしていた。
「やった!」
アウレラは、立ち止まると、嬉しそうに両手を上に付き上げた。
「あ!しまった」
テリットはくやしそうな顔をしたが、すでに遅かった。
「約束だからね・・・いけない!左腕から血が出てる!ごめんなさい!」
アウレラは、テリットに走り寄ると、剣を渡しながら右手をその傷口に当てた。
「なんだ、なにしてる」
テリットは驚いてそう言ったが、アウレラは目を瞑るとそのまま20秒ほど手を当てたままでいた。
「よし!」
アウレラがそう言って手をどけると、その場所にあった傷口が消えていた。
「なに!?・・・お前、治癒魔法も使えるのか?」
「うん。簡単なヤツだけだけどね」
アウレラは、特に得意げな様子もなく、微笑みながら言った。




