過去
王室を出て行き、クソデカイ城を10分程の時間をかけて城を出た。
城の扉を開けると正面は頑丈な鉄格子の門があり、そして両サイドには立派な噴水と庭園がある。
空は立派なオレンジ色の夕焼けが見えた。
よく見ると派手な貴婦人が数人でティーパーティーをしている。
あの中にいる二人は子持ちの主婦で金が回らないという話を同僚から聞いた事がある、むりに背伸びしてなめられないよう高いドレス身にまとってすかしているのだろう。
その証拠に高いドレスの下に見える靴は安い商店で売られているのと同じデザインなのだ、今まさにリーダー格のような女に厳しく指摘され、辺りが悲しく笑いで包み込まれたのを確認出来た。
というようなしょうもない光景を見終えると丁度のタイミングで城の門が開いた。
「お待たせしました、お勤め御苦労様です。」
「あぁ、ありがとう、助かったよ。」
門を開けてた二人程の見張りの騎士が深くお辞儀をして見送ってくれた。
横幅が広く長い坂道は街と村、更に奥に見える平原と山の景色が一望出来る、この泥々の人間関係の塊のような街や城内で働く鬱な気持ちを吹き飛ばしてくれるこの素晴らしい景色が唯一の支えだ。
街はもうお祭り騒ぎ、というのも来月の4月に行われるキリストの復活祭が行われるからだ、街の皆がカラフルな模様で描かれた卵、イースターエッグの山積みをセカセカと運んでいる。
ブルブルと身震いをした者達を多く見かけた、それを見たルーサムも身震いをした。
朝出勤したときはほんのり暖かかったのだ、そのためラフな薄着を着て来てしまい、長袖着けて身震いしてる市民よりも数倍辛いのだった。
「まだまだ寒いな。」
そう思い早足で街をかけ進み腰掛け鞄の中の銭入れに入っている村と街を行き来する大事な通行書を門番に見せて、落ちたら死ぬであろう程の高さの石橋をそそくさと渡りきり左にくねった道を進むと村に着いた。
小走りで来たお陰様で体は少しポカポカしていた、空の様子はオレンジ色から紫色に変色しており、太陽はもう見えない位置に移動していた。
この時の時刻は大体7時前後、この土地で生まれ育ったからこそ分かる立派な体内時計だ。
ブレナーク村は坂道と階段の多い厄介な村である、家のほとんどが木造建築のため、取り壊しや引っ越しが頻繁にあるせいか道が急に変わっていたり、なかったはずの家がいきなり建っていたりしている。
他所から来た人物はそっこう道に迷い、びぇんびぇん泣きながらその辺右往左往するだろう、この村出身の私でも軽く迷った事がある。
ワルガキやチンピラ、浮浪者が稀によく見るこの村はそういった人物に金をせびったりストレス発散のオモチャとして扱われる、だが村の公共施設などは昔から比較的変わらない。
彼は村についてすぐ、ある場所に立ち寄った。
村の右端に位置するガラス工房アントム、事故が起きてなお、この
ガラス工房は取り壊さずに放置されてある。
この悲惨な事故を忘れないため。
という理由で残されているが皮肉なもんだ、ここの店長の奥さんパトリアンは現在も健気に生きているんだ。
パトリアンはその事故の責任者として大きな被害額を背負う羽目になった。
『お前は事故を起こして沢山の人達を火災で殺した!その責任として国から借金してんのを忘れんな!』
というのが本当の狙いだろう。
この村は最低だ。
「リリアン...」
国王も言っていたが、事故が起こる前まではリリアンとは小学校時代の同級生だった。
彼女は聴覚障害の子で学校内では阻害されていた、皆と何かが違う。
たったそれだけの理由で周りの子供や大人は彼女を人として見ていなかった、
僕もその内の一人だ。
彼女の事は対等の立場で接しているつもりだった、頭の中ではそう考えていても心のどこかでは彼女の事を"普通の人間"ではなく、"障害をもった人間"として接しているのだった。
私は間違っていたのか?彼女にとっての毎日は普通の人間の毎日じゃない、それが噛み合わない歯車の元だったのだ。
案の定彼女はいじめの標的になった。
私にとって彼女は始めて心を開ける人物だ。
いじめられていた私には友達はおらず、いつも独りぼっちだった、そんな私に真っ先に声掛けたのはリリアンだった。
私はリリアンの優しさが長いいじめの影響でウソにしか見えなかった。
どうせ心の中では私の事をバカにしている、そんな考えが頭を過り、リリアンに対して冷たく接していた。
だが冷たく接した私にリリアンは本気で怒ってくれていた、涙を流し、リリアンの怒りの気持ちが大爆発したとき、自分のやっていた事が急に恥ずかしくなった。
私は彼女を信じる事にした。
分からない事は教え合い、互いに他愛ない会話を紙に書いて話し合った。
そんな彼女に対して偏見を持つものはより増えていったのだ、耳が聞こえない変な女が情けないいじめっ子と仲が良い。
ヘラヘラしていた私達に嫌気が差したのだろう、私に対するいじめがヒートアップしていった。
私はいじめられてる事を彼女に悟られたく無いため、いじめられた日は自ら彼女を避けていた。
だがある日、いじめっ子のリーダー、ハンスは私にある脅しを持ち掛けた。
「リリアンを明日俺の所に連れてこい、じゃなきゃ殺す。」
私は二つ返事で断った、どうせ殴られて終わるだろう、だがそう簡単に彼女を裏切る事はしないとハンスは分っていたのだろう。
ハンスは逆上し手に持っていたナイフで私の太ももを三回程突き刺し、手のひらの皮を四角形に剥ぎ取った。
そして最後は全部の爪をペンチで引き剥がしたのだ、ハンスの笑顔を最後に気を失った。
翌日、私は彼女をハンスの場所に送って行った、私は恐怖で彼女の目を合わせる事が出来なかった。
彼女からは私の怪我に対して心配していたが、外にいるハンス達を見て後に起こる出来事を察したのだろう。
「裏切ったんだね。」
その言葉が胸に突き刺さった。
そして翌日、彼女の顔は絆創膏で埋まっており、周りのクラスメイトはヘラヘラしながら彼女に丸めた紙を投げつけていた、
そのときの彼女はどんな顔をしていただろう、泣いてただろうか?
無表情だろうか?私は恐くて彼女を見る事ができなかった、
「ありがとな、今日から約束通り仲間にするよ、よろしくな。」
ハンスはそう伝え、最後に私の腹を蹴った。
そして私のいじめは幕を閉じ、リリアンのいじめが幕を開けた。
いつしか彼女は姿を消していた、先生の話によると転校手続きを済ませたらしい。
私は彼女が転校して自分の犯した重たい責任に押し潰されそうだった、涙が止まらなかった、私のせいで彼女は転校した、私のせいで彼女を失った、私が彼女の心を殺した。
気付けば私はハンスの頭を鉄パイプで何度も殴り付けた、血が出ても、助けを求めてもひたすら殴り続けた。
ハンスは頭部の強い衝撃による聴覚障害に陥った。
そんな事をして彼女の耳が治る訳でもなければ彼女を助けた訳でも無い。
そうするのには遅すぎた。
涙を流したその夜、私は寝付けなかった、真夜中の夜道を歩いたその日、広範囲に渡る火災事故が起きた、リリアンは消息不明、私は自分の罪を償う事が出来なくなった。
「ごめんなさい。」
この言葉を私は事故が起きたこの時間、廃墟になったガラス工房に謝罪を続けている。
涙が今でも止まらない、当時謝ることも出来なかった自分を悔やみ、その場に膝まずいてただひたすらごめんなさいを繰り返した。
あの頃の償いを償えなかった自分を恨んで。
「...ここは?」
目が覚めた私は、ここが自室では無いことがすぐに気が付いた。
屋根はフェルトで覆われた古い布製のテントで、室内は四畳くらいの広さ。
湿気でふやけたテーブルが真ん中に置いてあり、左端には手作りのタンスの中にきちっと畳まれた着替えに書物が数冊、入口に空のビール瓶が3つほどポツンとあった。
テーブルの上には昔から大事にしていたであろう、年月の重みを感じる古い封筒と手紙が置いてあった。
ボロボロのソファから身を起き上げたそのとき、ペラッと入口から見覚えの無いおじいさんが入ってきた。
「兄さん...目ぇ、覚めたか?」
おじいさんは白いボサボサの無精髭でカーキ色のニット帽をかぶり、上は黒いセーターに赤いマフラー、緑の長ズボンを履いていた。
「すいません...ここはどこですか?」
「ワシの家だ。」
そう言うと手に持っていた汚れたバッグを床に置いた。
「で?お前さん...なんであの廃墟の近くで寝てたんだ?」
「え?...寝てた?」
「ああ...お前さんはあの廃墟の近くでうずくまって爆睡してたんだ。
驚いたよ..肌寒い夜中にこんな薄着して外で爆睡していたんじゃ凍え死ぬに決まってる...だから少なくとも外よりは寒くない室内に運んどいたんだ。」
バッグの中からビール瓶を2本取りだし、そのうちの1本を私に譲った。
おじいさんはそのビール瓶をグイっとらっぱ飲みした。
「ぷはー!それときたらお前さん、デカイいびきかいてたもんだから人が沢山群がってたぜ!しかも目を真っ赤にして鼻水まで流してたってんだ。」
「まじかよ...」
死ぬ程恥ずかしい!顔を真っ赤にして私はうつむいた、笑い終えたじいさんはビールを一口飲み、口を開いた。
「相当泣いてたみたいだな...なんかあったのか?」
私はあの思い出したくない思い出が脳裏を過り、涙で視界が歪んだ。
「いや..なんでも無いです。」
知られたくない、この気持ちを悟られたくない私は強がりをみせた。
「そうか..まぁ、生きてりゃ色々あるさ、人生そんなもんだ。」
はぁ?お前に何が分かんだよ?そう思った私は握りこぶしを力強く固くし、ビールを飲むじいさんの顔を睨んだ。
ぷはーっと飲み終えたじいさんはビール瓶をテーブルに置いた。
「...ワシにはな、女房と息子がいた、丁度お前さんぐらいの年の頃だな。」
急になんの話をしてるんだ?ノロケ話は飽き飽きだっつの!呆れた私は次の言葉を聞いて我を失った。
「...なによりも大切な妻を私は殺した。」
「えっ?」
「昔、この世界は戦争をしていたことは知っているだろ?」
「はい、子供の頃歴史で見た事を今でも覚えています。
とても印象深かたので...」
「そう、あの頃男性は20歳を越えると兵隊として働かされることが義務付けられていた。
ワシの親父も毎月戦争に駆り出されて行ったんだ、そして無事に帰って来たときはとても嬉しかったのを覚えている。
ワシはとびっきりの笑顔で親父を迎えた、だが、お袋はいつも泣いていた...親父もワシの前では笑顔でいたが、ワシの居ないところで大声で泣いていた、子供ながらに不思議でしょうがなかった。
そして20歳になり、妻も息子もいるワシは国の義務で戦争に駆り出される事になった。
私はお袋の気持ちが死ぬ程分かった気がした。
親父が無事に戦争から帰って来たということは他の人の命を奪ったということ。
それを知ってなお、私は戦争で生きるために沢山の人を殺していた、悲鳴、断末魔が人を殺すたんびに脳裏に刻まれる。
嫁、子どもの名前を最後に発して命を落とす者が自分と重なり、涙が止まらなかった、そんな日々が続く事に嫌気が差した市民達は反対運動を起こしたのだ。
父を失った息子や娘達も泣きながら訴えていた。
国はその市民を1人残らず死刑にした、子供だろうがお構い無し。
反対側の市民達は留置場に詰め込み、燃やして灰にし、私達騎士は戦争反対派の身内の首を自分の剣で切断していった。
その中に妻も入っていたのだ、涙を流しながら切断するワシに妻は ありがとう と伝え、私に殺された。
国の命令は絶対だった。」
「母親を殺したワシを息子は許してくれなかった、いや許すはずがなかった。
息子はワシの元を離れて行方を眩ました、戦争が終わり、妻も息子もすべてを失ったワシは戦争を恨んだ。
自暴自棄になったワシは仕事についていけずすぐに辞めた、金も底をつき、家を捨て、浮浪者として生きていく事にした。
それから30年間厳しいもんだった、どこに行ってもワシは汚いゴミ扱い、浮浪者は人として扱われないのだ。
まぁ、そんなもんだよな、何人も殺した人間が普通の暮らしが出来ると思ったらおお間違いだ、でもさ、すこしくらい幸せに生きたかったよな。」
ズズッ 鼻水をすする音と微かに泣き声が隣から聞こえた。
ちらっと横を見ると青年は顔を真っ赤にして涙を大量に流していた。
「うぉ!...どうした?お前さん..まさか、泣いてくれてるのか?」
「うる..さっ!ズズッ!泣いっ..無っ..です!」
「泣いてんじゃねぇか!汚ねぇなおい!涙拭けよっ..あれ?」
気付けば自分も涙を流していた、自分の為に涙を流してくれる。
そんな人は一生いないと思っていた、その気持ちが嬉しくて嬉しくて、泣くことは無いと思っていたのに...。
嬉しかった。




