↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第22話 夜の女神リリマ【肆】

【前回までの『五国捜神記』!】

小鬼の群れを打ち破り、洞窟の最深部へ踏み込んだ虎嵐たち! 

だがァッ! 待ち受けていたのはビザル、幽声、蠢玄――そして生きていた蛙王ッ!!

襲い来る堕ちた水神! しかし凌蓮の剣が、その奥に眠る心を呼び覚ましたァッ!!

「疾!」


 幽声が右手の剣指に挟んだ呪符を次々に放った。

 

 だが、どれも遊侠達を通り越し、背後の地面に突き刺さる。


 それには目もくれず遊侠達は突き進み、ビザルに向かって刀鎗を振るった。


 ビザルは、木の杖で遊侠達の刀を、鎗を打ち払う。


 幽声、蠢玄も剣を抜き、戦いの輪に入った。


「気を付けろ!」

 虎嵐の叫びに、遊侠達は振り返った。


 ゴブリンの屍体が、ゆっくりと起き上がっている。

 立ち上がったゴブリンの目が赤く光った。


「シャーッ!」


 擦れた唸り声を上げ、ゴブリンが十数匹、ナイフや小剣を手に構えた。

 遊侠達は正面にビザル達、背後はゴブリンに挟まれた形になった。


「後ろは俺達がやる!」

 虎嵐が月虎爪を振るいながら言った。


 凌蓮の剣がゴブリンの首をはねる。


「吼!」

 虎嵐が月虎爪から木気を叩き込む。


「屍体には、木気が効くんだよな」

「学んだな」

 凌蓮が、にっと笑みを浮かべた。


「あたりまえだ」


 虎嵐の月虎爪を喰らったゴブリンが、枯れ木が朽ちるように崩れ落ちる。


「――愚か者ども! 神の力を見よ!」


 呑鯨の鎗を杖で弾き、ビザルは懐から黒い石を取り出した。


 左手の親指の先を噛みきり、噴き出した血を黒い石に垂らす。


「ダム・リリマ……エル・ネロク」


 低い声で詠唱するビザルを遊侠達が刀や鎗で攻撃するが、幽声と蠢玄の剣が阻んだ。


「ウオォォォ! ザヴァ・リリマ!」


 右手に握った黒い石から、黒い瘴気がシュウシュウと噴き出す。


 瘴気は、大きく開けたビザルの口から、鼻から体内に吸収される。

 

 すると、天を仰ぎ、両腕を広げたビザルの体が変形して行った。


 背中から、一丈はありそうな黒い蜘蛛の脚が、バリバリと突き出す。


 先端に尖った爪を持ち、四つの節のある棘のような剛毛が生えた黒い脚――それが四本。


 手のひらが横に裂け、赤黒い肉を覗かせながら、口のように開閉した。


 口が顎の付け根まで裂け、上顎から人差し指ほどの長さの黒い牙が生えた。


 それでも顔には、なお人の面影が残り、その異様さはかえって見る者を震え上がらせた。


「ウオォォォ!」


 四本の蜘蛛脚が一斉に振るわれた。

 岩壁を削り、遊侠達を吹き飛ばす。


「ぐあっ!」

 呑鯨が鎗ごと弾き飛ばされ、岩壁へ叩きつけられた。


 続けざまに、裂けた両掌の口が大きく開く。


 白い糸が奔流となって吐き出された。


「散れ!」

 凌蓮が叫ぶ。


 虎嵐は、両手の月虎爪を交差させ、蜘蛛の糸を受けた。


 ハサミのように使うことにより、糸が切れる。


 その隙を突き、凌蓮と遊侠達が四方から斬りかかる。


 しかし――

 

 ガギンッ!

 

 刀剣や鎗は蜘蛛脚に弾かれ、火花を散らすだけだった。


「ハハハハ! 見たか! これぞリリマ様の力よ!」


 蜘蛛脚が唸りを上げ、虎嵐へ振り下ろされる。


 虎嵐が身を翻した、


 その瞬間――

 

 背後で細い影が、ゆっくりと立ち上がった。

 

 蛙王――蝦蟇道人。

 

 その濁った瞳には、なお微かな光が宿っていた。

 

 蝦蟇道人はふらつきながらビザルへ歩み寄る。


「……な、何だ?」

 ビザルが一瞬だが、怯んだ。


 ――その時。


 蝦蟇道人はビザルに跳びかかり、両腕でその身体をがっしりと抱き締めた。


 蜘蛛脚が暴れ、岩を砕く。


 それでも離さない。


 ビザルは両手を蝦蟇道人に締め付けられ、糸を繰り出すことができない。


 力を振り絞って藻掻くものの、瀕死の老人の両腕を振り解くこともできない。


 四本の蜘蛛脚を振り回すが、攻撃対象が己の体にピッタリくっ付いているため、

自身を突き刺すような動作には力が入らず、蝦蟇道人に止めを刺すことができない。


「お、おのれ! 放せ! 放せぇぇぇ!」


 蝦蟇道人は虎嵐達へ視線を向け、小さく頷いた。


「今だ……儂ごと、貫け……!」


「やめろ! 蛙王!」


 虎嵐が叫び、飛び出そうとしたとき、凌蓮の手が虎嵐の肩をつかんだ。


「老人の志を無駄にするな」

 凌蓮が首を振る。


「ち、ちくしょう! ……呑鯨、鎗だ!」


 虎嵐は、思いを振り切るように激しく頭を振って、呑鯨から鎗を受け取った。


 呑鯨は腰の刀を抜く。


「――行くぞ!」

「おう!」


 虎嵐の鎗、仲間達の刀剣が蛙王へ向かって突進した。


 四方から一斉に突き込まれる。


「ぎゃあぁぁぁっ!!」

 ビザルが絶叫した。


 頬が痙攣する。


 腕が震える。


「……ぐっ」


 黒い瘴気が、砂のようにサラサラと指先から落ちる。

 

 背中の四本の蜘蛛脚が枯れ葉のようにカサカサと音を立てて崩れていく。


「魔力が……」

 呼吸が乱れる。


 蛙王とビザルは、同時に崩れ落ちた。


    ◆

 

 ――石室に静寂が戻る。


 誰も口を開かない。


 ビザルがガクガクと起き上がり、四つん這いになった。


「まだだ……儂は……リリマ様に選ばれし……」


 蛙王は倒れたまま、動かない。


「お、おう、幽声! 我を助けよ! 汝の魔力を我によこすのだ!」


 ビザルが背後に這って行き、幽声の脚にすがった。


「愚か者!」


 幽声に足蹴にされ、ビザルは仰向けに倒れた。


 右手の〈リリマのシグル〉を幽声がもぎ取る。


「その程度の器で、神の力を使うからじゃ」


「小半刻も、持たなかったのう……」

 蠢玄が鼻で笑う。


「ぶ、無礼な! わ、儂はその方等の師なるぞ!」


「ホホ、己(おのれ)がリリマや、ネロク研究の第一等と思っていたか? 

「おめでたいのう。ホホホホ!」


 幽声が白い目でビザルを見下ろす。


「な、なんじゃと? そんな馬鹿な!」


「馬鹿はお主よ。ビザル。我々は、リリマの魔力にお主がどこまで耐えられるか見ておっただけよ。

「アハハハ!」


 幽声の笑い声が洞内にこだました。


「観察記録を取っておったに過ぎぬ。よい標本になったのう。ククク……」


 蠢玄は懐から一冊の帳面を取り出し、何事もなかったかのように筆を走らせた。


「てめぇ……幽声!!」


 虎嵐の肩が怒りに震えた。


「蛙王も……。


「ビザルも……。


「てめぇにとっちゃ、ただの道具だったのか!


「どこまで、人の〝信〟を踏みにじれば気が済む!!」

 

 幽声は、小さく首を傾げた。


「――はて?

「私は最初から、計画通りに事を進めているだけだが、小僧?」


「許さん!!」


 虎嵐の頭の中が真っ白になり、幽声に向かって突進して行った。


 両手の月虎爪を幽声の顔面、胸、腹へ、滅茶苦茶に叩き込む。

 

 拳の技も何も有ったものではない。


 幽声は一切抵抗しない。


 殴られ、蹴り飛ばされ、その体が後方へ吹っ飛んだ。


 背中で地を擦りながら、一丈あまり滑って止まった。


「やった!」

「ざまぁ見やがれ!」

 遊侠達が歓声をあげる。


「はぁー、はぁー……」


 虎嵐は肩で息をしている。


 ――と。


 幽声がむくり、と立ち上がった。


「無駄だ無駄だ。尸解した私は、痛みなど感じぬ。ホホホ……」


 幽声が〈リリマのシグル〉を右手に持ち、


「夜の女神リリマの力――とくと見るがいい」


 と言うや否や、背後から黒櫃――ネロクを担いだ四人の男達が現れた。


「くそっ!」

「させるか!」

 遊侠達が隙を見せた幽声に殺到する。凌蓮も続いた。


 ネロクを幽声の前で降ろした黒装束の四人が剣を抜き、凌蓮と遊侠達を迎え撃つ。


 刀剣の唸りと、鉄が打ち合う音が響く。


 幽声はネロクの蓋を開き、箱の中央に〈リリマのシグル〉


 ――黒い石を置いた。


 ――その瞬間。


「ムオォォォォ……ン。ウォォォ……」


 読経のような、呪紋の詠唱のような声が、ネロクの中から湧き上がり、

黒い瘴気が霧となってあふれ出てきた。


 呆気にとられた凌蓮と遊侠達の剣戟の音が弱くなる。


 幽声はネロクから〈リリマのシグル〉を取り出し、両腕を天へ掲げた。


「ダム・リリマ……エル・ナクタ・ザヴァ!」


 〈リリマのシグル〉が赤い光を放ちながら、ネロクの中からあふれ出す黒い瘴気を、

凄い勢いで吸い上げる。


「ウオオオオオオッ!!」


 幽声の全身が赤い光に包まれ、ボキボキと骨が折れる音をさせながら変形して行く。


 下半身が八本の脚を持つ、巨大な黒蜘蛛。

 か細い上半身の背中には、蝙蝠の翼。

 蝋のように透き通った白い肌。

 両の目には白い部分がない。全てが黒い瞳。

 血塗られたような紅い唇に、長い黒髪。


 変化が完了した幽声が、にいぃっ、と笑みを浮かべた。


「血漿魔術(ブラドマギカ)!」


 幽声が叫び、その両手から繰り出されたのは蜘蛛の糸ではない。

 鞭のような太さに凝固した血液

 

 ――〈血漿鞭〉。

 

 血漿鞭が唸りをあげて遊侠達を打つ。


 細熊が刀で防御できずに、腕を打たれた。

「うぎゃあああ!」


 鞭で打たれた痛みだけではない。硫酸をかけられたように、ジュッと肌が焼けた。


「この野郎!」


 呑鯨が鎗で突きかかったが、血漿鞭が首に巻き付き、悲鳴をあげることもできない。


 凌蓮が駆け寄り、鞭を剣でたたき切る。


 呑鯨が勢い余って地面を転がった。


「小僧、剣で来るか」


 幽声は切断された血漿鞭を、ずるずると掌から吸収した。


 そして再度、血を噴き出すと、それは瞬時に赤黒く固まり長剣へと変わった。


 ――〈血漿剣〉


 幽声は手にした剣だけではなく、蜘蛛の前脚をも繰り出す。


 凌蓮を助けようと、遊侠達も加勢した。


「ホホホ……どうした。疲れが見えるぞ。もうお終いか?」


 幽声がなぶるように言う。


「――幽声よ。遊びは終わりじゃ。そろそろ始末をつけい」

 蠢玄が言った。


「うるさい! 私に指図をするな!」


 怒鳴られ、蠢玄が首をすくめた。


 ――と、その時。


「おい! 化け物! こっちだ!」


 いつの間にか、虎嵐が幽声の背後に回り込んでいた。


「ホホホ! 馬鹿め! 私が気付いておらぬと思ったか!」


 幽声の下半身である巨大な黒蜘蛛の尻から、シュッと白い蜘蛛の糸が噴き出した。


 あっという間に、虎嵐は糸に絡め取られた。


 身動きできないほどにグルグル巻きにされた虎嵐は、

腕の様に自在に動く糸で、幽声の正面に運ばれる。


「虎嵐!」

「若頭!」

 凌蓮達が絶叫した。


「小僧……その命、私がいただこう」


 幽声は満面の笑みを浮かべ、虎嵐の首筋へ牙を立てた。


 ――が。


 ぴたりと動きが止まった。


 幽声の表情が変わる。


「……なに?」


 ゆっくり顔を離す。


 視線を落とした。


 ――胸に、


 桃木剣。


 虎嵐が、


「――吼!」


 と叫び、木気が一気に桃木剣へ流れ込む。


 桃木剣が緑色に輝いた。


「う……な、なんだ?」


 幽声が驚きの表情のままで硬直する。


 ――次の瞬間。


 シャーッと音を立てて、胸から黒い瘴気が噴き出した。


「ギャアアァァァ!!」


 幽声が絶叫した。


 洞窟内を巨大な蜘蛛がのた打ち回り、虎嵐が振り落とされる。


 さらにガリガリと洞窟の壁を駆け登り、天井に張り付いたが、ほどなくドッと地面に落ちた。


 仰向けに腹を見せ、八本の脚を天に向けて、藁をも掴むようにサカサカと動かす。


 その間にも、黒い瘴気はシュウシュウと音を立て、噴き出していた。


 次第に幽声の体は、空気の漏れたゴム風船のように萎んで行く。


「お、おのれ……おのれ……」

 ぜい、ぜいと息を切らす。


 最後に残ったのは、黒髪の女の頭に白い蛇体だった。


「私は、滅びぬ――滅びぬ! 尸解仙は何度でも蘇るのだ!」


 そう叫んで、蛇体の幽声は、ぬめぬめと体をくねらせ逃げ去ろうとした。


 ザスッ!


 凌蓮の剣が幽声の頭に突き刺さった。


「吼!」


 凌蓮の水気が剣を伝い発射された。


 幽声の頭と蛇体が粉々に砕け散った。


「二度と生き返るんじゃねぇ!!」


 虎嵐が叫んだ。

【なろうフェス2026応募中!】

「この後の展開が気になる!」「中華風もたまには、いいじゃん!」と少しでも思っていただけましたら、画面の一番下にある【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をポチッと押していただけると、

執筆の大きな励みになります! 応援よろしくお願いします!


【捜神人物図 公開!】

 活動報告に【捜神人物図】を追加しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。