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第21話 夜の女神リリマ【参】

【前回までの『五国捜神記』!】

ついに烏鳴山の洞窟へ迫る虎嵐たち! 

だが、その奥には見たこともない小鬼の大群が待ち受けていたッ!!

式神で探れ! 奇陣盤を操れ! 水と木の気を合わせ、木人部隊がいざ進軍ッ!!

知恵と道術で道を切り開け! 闇を埋め尽くす小鬼どもを蹴散らせェェッ!!

「今だ!」


 虎嵐が叫ぶ。


「おう!」

 遊侠達が雪崩れ込んだ。


 細熊の刀が唸る。

 呑鯨の鎗が閃く。

 虎嵐の月虎爪が軌跡を描き、

 凌蓮の剣が、水面に広がる波紋のように敵を斬り倒した。


 罠に掛かった小鬼達は、ろくに反撃もできぬまま次々と倒れていった。

「……」

 やがて洞窟は静まり返った。


 小鬼も、木人も動かない。


 氷が溶けた水たまりに天井から雫が落ち、ぴと、と音を立てた。


 遊侠の一人が息を吐いた。

「終わった……のか?」


「いや」

 凌蓮は洞窟の奥を見据えた。

「本番はここからだ」


    ◆


 薄暗い奥。


 そこには人の手で造られた巨大な石室が広がっていた。


 その中央。


 無数の黒薔薇に囲まれるように、一体の白い石像が静かに立っていた。


 ――と、突然。


 石室に低い笑い声が響いた。


「見事じゃのう」


 虎嵐達の背後――洞窟の入り口の方から、ビザルがゆっくりと姿を現した。


 ぐふふ、と唸りとも笑いともつかぬ声を上げるその後から、

黒い道服に身を包んだ幽声(ヨウシェン)と蠢玄(チュンシュエン)が続く。


「神殿の守り人ゴブリンどもを、よくも片付けてくれたな」


 ビザルは虎嵐達に向かって杖を突きつけ、


「お主らの血、益々リリマ様に捧げずには、おかぬわ」


「諦めの悪いオッサンだぜ、まったく」


 ビザルの方に向かい、虎嵐は月虎爪(ユエフージャオ)を構えた。


「次は、ゴブリンの様にはゆかぬぞ!」


 と幽声が叫び、


「行け!」

 右手を、さっと水平に振った。


 虎嵐たちの右手の横穴から、巨大な影が飛び出した。


「――なにぃ!?」

「こいつぁ!?」

「生きてたのか!?」


 遊侠達は飛び退き、叫んだ。


 霧沈域で片目を潰した妖怪。


 ――蛙王(ガワン)。


「殺せ! リリマ様に血を捧げよ!」


 ビザルは蛙王の背後から杖を振るった。


「――シェラハ!」


「ガワン! グワン!」


 蛙王が咆哮した。


 大音量が洞窟内へ反響し、虎嵐達は思わず耳を塞ぐ。


 大の男の腕ほどもある灰色の舌が、大蛇のように伸び、虎嵐の胸を打った。


「ぐっ!」


 虎嵐は三丈ほど吹き飛ばされ、岩肌へ叩きつけられる。


「若頭!」

 呑鯨達が虎嵐を助けに走った。


「――俺ァ、大丈夫……来るぞ!」


 蛙王が這いずり前進する。


 舌を目にも止まらぬ速さで繰り出す。


 遊侠達は刀剣や鎗で、人間の手脚のように太い舌を防ぐのに精一杯になる。


「ほほほ、さて、何処まで持つか……存分に苦しんで死ね」


 幽声が恨みの籠もった声で言った。

「止めろ! 蛙王!」

 虎嵐が叫んだ。


「お前は、元は水神だろ! 止めろ! 玄道に従うな!」


「吼えるなガキ! もう良いわ! 蛙王よ、直ぐに叩き潰せ!」


 幽声はカン高い声で叫んだ。


 蛙王は、虎嵐達に向かって這いながら突進した。


「疾《ジー》!」

 凌蓮が操陣旗を水平に振った。


 二尺はあろうかという〝氷錐〟が、地面から幾つも突き上がり、

蛙王の立つ周囲が一瞬で水晶鉱脈の群晶《クラスター》さながらになった。


「グワワ……」


 柔らかい腹を鎗で突かれたごとく、蛙王は跳び退った。腹からどす黒い血を流している。


 遅ればせながら立ち上がった数十体の木人が、蛙王に向かって行く。


「――これで、陣の気は使い果たしたぞ」

 凌蓮が虎嵐へ言った。


「もう……鼻血も出ねぇぞ……」

 虎嵐が腰をさすりながら言った。


「グオォォォ!」


 蛙王が咆吼し、水かきの付いた短い両手を振るって木人達をなぎ倒す。

 

 子供が積み木のオモチャを崩すように。

 

 だが、氷錐が群生したような陣地を突進することができず、

蛙王は血だらけになりながら、藻掻いている。


「力であの妖怪を討伐するには、少なくとも二両(一両は二十五人)ほどの兵が必要だな」

 凌蓮は呟いた。


「――しょうがねぇ。逃げるか?」

 虎嵐が言った。


「――そういえば、あやつは元は水神と言ったか?」

 凌蓮が虎嵐に聞く。


「ああ。蛙王は、玄道のせいで黒く染まりやがったんだ」

「……そうか。まだ水気は死んでいないかもな」


 凌蓮は蛙王を見据え、静かに頷いた。


「水は命を育み、傷を癒やし、乱れた流れを元へ戻す」

 

 凌蓮は静かに息を吐いた。


「ならば――まだ救える」

 

 凌蓮は腰の愛剣〈水鏡《シュイジン》〉を抜き放ち目の高さで水平に構え、

 

 〈水明龍水《シュイミンロンシュイ 》……〉

 

 左手の剣指で剣の峰を鍔元から剣先へと拭った。


 剣が蒼く輝く。


「みんな、しばし攻撃を控えてくれ」


 そう言うと、凌蓮は一人で蛙王へ向かって走った。


「――あ、おい!」

 虎嵐は肩に手を掛けようとしたが、間に合わなかった。


「ガワン!」


 蛙王は大きく口を開け、鎗のように凌蓮へ舌を突き出した。


 ひらりと、凌蓮が宙を舞う。


 ガワンの舌が、ストレートとフックのコンビネーションのごとく、柔軟に凌蓮を追う。


 ――舌に巻かれた、と見えた瞬間、


 凌蓮の足は、大蛇のような舌を軽やかに蹴り、水面を走るように長い舌の上を走った。


 〈水龍鎮雨《シュイロンジェンユー》〉


 蛙王の顔面近くで凌蓮は跳び、剣を蛙王の広い眉間に突き立てた。


「ギャッ! ギャオオ!」


 蛙王が巨体に似つかわぬカン高い悲鳴をあげた。


 凌蓮は素早く剣を抜き、虎嵐達の元へ戻った。


「やったのか!? すげぇぞ凌蓮!」

 虎嵐が叫ぶ。


「いや、急所ではなく〈霊台《リンタイ》〉を突いた。鎮めたかっただけだ」


 凌蓮は静かに言った。


「ふふ……無駄じゃ。蛙王は、もう我が僕」


 幽声は嘲るように笑った。


 蛙王が一歩踏み出す。

 二歩目で――蛙王は四肢を踏み張り、氷錐群をジャンプで越えようとして

 ――ふいに、その動きを止めた。


「……ガ、ァ?」


 巨体が小さく震える。


 潰れた片目がぴくりと痙攣し、残った片目がゆっくりと虎嵐から外れた。


「何をしておる! 殺せ!」

 幽声が怒鳴る。


 蛙王は苦しげに頭を抱えた。


「ガ……グゥ……」


 喉の奥から漏れる声は、怒りとも悲鳴ともつかない。

 その視線が、ゆっくりと幽声へ向いた。


「……効いたか?」

 凌蓮が静かに呟く。


「ガァァァァッ!!」


 次の瞬間、蛙王は洞窟を揺るがす咆哮を上げ、幽声へ向かって跳躍した。


 幽声は、平然と体を躱した。


 ずたん、と大きな肉の塊を地面に叩き付けた音がした。


「愚かな……その身に宿した〈黒蓮子《ヘイリエンズー》〉を忘れたか」


 幽声は鼻で笑い、


「咲け」


 と蛙王の鼻先へ剣指を突きつけた。


 一瞬、蛙王がたじろぐ。

 が、次の瞬間には大きな団扇のような右手を振り上げた。

 

 幽声の頭が肩にめり込む

 

 ――ことはなかった。


「グ……ガァァァァッ!!」


 蛙王が胸を押さえ、苦しみの余り地面を転がる。


「ゲ、ゲェッ! グゲエッ!!」


 喉を裂き、口を押し広げ、口から黒い茎が飛び出した。


 茎が伸びるに従い、蛙王の巨体が枯れるように、筋肉が萎み、皮膚が縮んでいった。


 蛙王の体から妖気を吸い尽くし、茎の先の大きな蕾が、見る間に花を開く。


 ――巨大な黒蓮。


 甘く腐臭を帯びた香りが石室を満たした。


 黒い花びらが散ると、茎は枯れ灰となって散り、〝花托〟が音もなく地へ落ちた。


 花が散っても、蛙王の口からはシュウシュウと音を立て、どす黒い妖気が霧となって流れ出し、

人くらいの大きさにまで縮み、青緑色の肌が現れた。


 大きく丸い頭。離れて付いた両の目。


 蛙を思わせる顔立ちでありながら、その身には古びた道袍をまとい、

腰には護符の束が揺れている。


 それは、もう怪物ではなかった。


 土地を守護していた〝蝦蟇道人〟本来の姿だった。


「役立たずの蛙が!」

 と幽声は罵り、


「ビザル師、かくなる上は、貴方が頼りだ。〈リリマのシグル〉の力を見せてくれ!」


「奴らを血祭りにあげるのだ。どうか……」


 蠢玄が、ぺこぺこと頭を下げる。


「無論だ。その方らの失敗を補うのは師としての務めじゃ」


 ビザルは堂々と前へ出る。


「バカ野郎! そっちは三人! こっちは八人だぜ!」

「覚悟しやがれっ!」


 遊侠達は刀剣に鎗を構えた。

【なろうフェス2026応募中!】

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【捜神人物図 公開!】

 活動報告に【捜神人物図】を追加しました。

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