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第10話 龍武、並び立つ【壱】

【前回までの『五国捜神記』!】

夜叉衆の襲撃を退けた虎嵐と凌蓮ッ!! だがァッ! 黒幕・幽声は〝尸解仙〟となって逃亡したッ!!

蛙王も幽声も、いまだ健在ッ!!

立ち向かえ両雄! 深潭村の運命や、いかにィィィッ!?

 戦い済んで、村の外れで簡単な野営を張った。


 虎嵐(フーラン)は背嚢から鍋を出して、

湯を沸かしたり、干し肉を焼いたりして皆に配った。


 茶碗に入れた湯を回し飲み、干し肉を囓ると、

ようやく皆、人心地がついた。


 その後、虎嵐らと呑鯨(ドンジン)ら遊侠(ヨウシャ)達は、

武器を手放さぬまま火を囲んだ。


 皆、疲れ切った顔だったが、誰も深くは眠らなかった。


「水明観(シュイミン・グアン)へ行こう――村に残って調査か、


「滄波(ツァンボー)へ戻るか、迷ったがな」


 朝になって、虎嵐が言った。


「……うむ。良い案だ。もともと、お主の使命の目的地でもあるしな」

 凌蓮(リンリエン)が顔を上げる。


「蛙王(ガワン)も幽声(ヨウシェン)も見失った。


「村は砦の兵に任せるとして……正直、この先は勘で突っ走る段階じゃねえ。


「お前の師父に意見を聞いたほうが早い」

 虎嵐は肩をすくめた。


「――ほう」

 凌蓮が、わずかに口角を上げた。


「師父が〝アホ〟と言っていた者とは思えんな」


「誰がアホだって?」

 虎嵐が即座に返す。声だけは威勢がいいが、否定の仕方がどこか弱い。


「いや、冗談だ。気を悪くしないでくれ。相棒」


「冗談は顔だけにしとけや! ――って……言えねぇ」


 虎嵐は一瞬、言葉に詰まり、視線を逸らし、


「ま、いい。アホでも何でも――とは言え、俺様には蛙王や幽声がどこへ消えたか、見当がつかねぇ。


「だが、水明観の師伯なら、どこら辺かは見当が付くんじゃねぇか? 

「ここ以外に、奴らが隠れ易い場所があるはずだ」


「……師父も、同じことを言うだろうな。別の巣窟があるだろうと」

 凌蓮は頷き、


「水明観ばかりか、国の全水域を汚染する気ならば、このような拠点が、もっとあって当然だな」

「うむ」

 虎嵐は唾を飲み、頷く。


 凌蓮は虎嵐の顔を見て、


「そして、上位の羅道士ならば、龍脈を読むことができる。

「しかも、良き気と黒気は重なることはないのだから――」


「この村から黒気の流れが、辿れそうだな!」


 虎嵐は短く息を吐いた。その目に、迷いはなかった。


「では、水明観へ帰ろう」

 凌蓮は言った。


 虎嵐は遊侠達に向き直って、


「お前らは、滄波へ戻って藍蘭(ランラン)へ報告してくれ。


「俺の報酬はお前らで分けてもらって構わん――世話になった。元気でな!」


 凌蓮と共に野営の跡に背を向け、歩き出した。


 その後を青洛(チンルオ)が追う。


「――虎嵐さん! 待ってくだせぇ!」

 呑鯨をはじめとする遊侠達、六人が後を追ってきた。


「お前ら、どうした?」


「俺達も、お供させてください!」


「ここまで来たら、地獄の底まで付いて行きますぜ!」


「――分かった。この先まだ、荒事が続きそうだ。手を貸してもらうぜ」

 虎嵐がそう言うと、凌蓮は頷いた。


「へい!! 任してくだせぇ!」

 呑鯨ら遊侠達は力強く応えた。


    ◆


 水明観は、蒼月山(ツァンユエ・シャン)の中腹に広大な伽藍を広げていた。


 白壁と瑠璃色の瓦が日を受け、青と白を基調とした堂宇が山肌に浮かび上がる。


 巨大な楼閣状の山門には、石獅子が左右で睨みを利かせ、屋根には五柱の龍の彫刻が、

雲を掴むかのように身をよじり、天を睨んでいた。


 門の奥には、五重の塔楼がそびえ立ち、軒先の反り返った屋根が幾重にも重なり、

天へと連なっている。


 華やかでありながら、威厳がある――ここが、羅道五本山の一つ、水明観であった。


    ◆


 山門をくぐった途端、空気が変わった。


 外界の音が、背後で切り離されたように遠のく。


 ――白砂の敷かれた前庭に、一人の老人が立っていた。


 長い髪に、胸まである髭。どちらも真っ白で、青白の道衣を纏い、背は高く、

そこにいるだけで場が静まる。


 柳鷺(リウルー)――水明観の観主であり、凌蓮の師父である。


「おお、よう来たの」

 穏やかな声だったが、不思議とよく通った。


 虎嵐と凌蓮、そして後ろに控える遊侠たちへと、順に視線が向けられる。


「昨夜は、ずいぶんと騒がしかったそうじゃな」

 柳鷺は小さく笑い、


「――まぁ、話は奥でするとしよう。皆、疲れておろう」

 皆を誘(いざな)った。


 虎嵐は思わず背筋を正した。

 迎えが出るとは思っていたが、師伯自らとは予想していなかった。


 水明観は、ただ華美なだけの本山ではない。

 その中心には、確かに〝人〟が立っていた。


     ◆


 虎嵐、凌蓮、遊侠の六人は客間に通された。


「師伯。お初にお目に掛かります。虎渓観(フーシー・グアン)、虎嵐でございます」


 虎嵐はひざまずき、拱手で挨拶をした。


「うむ。ご苦労じゃった――まぁ、掛けなさい」

 柳鷺は全員に着席を促し、


「お主の師父――竹豹(チューバオ)は、元気かの?」


「はぁ、じ、師父は――とても、お元気でございます」


「ほほ、そうか。相変わらずのようで、なによりじゃわい。


「――ま、お主も、遊侠の衆も疲れておろう。今日は慰労の宴じゃ。

「飲んで食って、話は明日としようではないか」


「あ、ありがとうございます」

 虎嵐達は、座ったまま深く頭を下げた。


「――あ、では、お願いしますぞ!」

 柳鷺は手を打った。


「――えっ!? あらら……」

 虎嵐は目を見張った。


 美しく着飾った若い娘が五人、酒の盃と酒壺を盆に載せて運んできた。

 皆、花の香りを漂わせている。


「し、師父! よろしいのですか? 修行の場所に女子など!」


「え、えーっ!? お主こそ、正常な男子か? 凌蓮。野郎だけで酒宴など、無粋の極みだろうが?」


「お、俺――私は、一生、師伯に付いて行きます」

 虎嵐は食卓に額を付けるほど頭を下げた。


「おーっ! さすが竹豹の弟子じゃ! お主、タダのアホではないの」


 娘たちは手慣れた様子で酒を注ぎ、料理人が卓に料理を並べる。


 中央には、水明観名物――〈水明鯉の清流蒸し〉。

 淡く白い身は箸を入れただけでほどけ、山椒と香草の香りが湯気に溶ける。


 脇には、蓮根と豆腐を層に重ねた素巻、山椒油で軽く和えた山菜の冷菜、

蒼月山の湧水で戻した干し茸の含め煮が、艶やかに盛られていた。


「――皆、昼酒を怪しむ顔じゃな。修行の場とて、祝いと慰労の日くらいはあるわい」


 と柳鷺が言い、皆で乾杯した後、

 虎嵐が水明鯉の皿に視線を落とした。


「……精進、じゃないんですか?」


「そうさの。水明鯉は、ここらを訪れる〝旅人〟をもてなす名物(料理)じゃ」


柳鷺は盃を取り上げ、軽く揺らした。


「水明水ようかんや、水明まんじゅうも、お山の下の村で売っているんですよ」

 娘の一人が、誇らしげに頷く。


「うむ。そういった名物は、修行者のためにあるのではないが、本日は無礼講。酒も出しておるし、

「たまには――わしらも、いただいても良いじゃろ」


 と、柳鷺は箸を伸ばした。


 娘たちが、ほっとしたように笑い、再び卓が動き出した。


 呑鯨が娘に酌をしてもらいながら、


「導師様、これだけ若い、ピチピチのねーちゃん達を集められるなんて、

「さすが道観の権力でございますね」


「ああ? 道観の権力など、微塵も使っとらんわ。付近の村から、


「バイト代を払って来てもらった娘御たちじゃ。衣装も支給してるし、時給も良い。


「大人気の単発バイトじゃぞい!」


 宴は思いのほか、賑やかになった。


 気づけば、娘達の半数が凌蓮の側に集まっている。


「さあさあ、冷めぬうちに」

 娘の一人が、にこやかに水明鯉を取り分ける。


「お若い道士様。こちら、身の柔らかいところですよ」


「え、あ……ありがとうございます」

 凌蓮は、慌てて盃と箸を持ち替えた。


 別の娘が、さっと盃に酒を注ぐ。


 茶色く透明な酒は口に含むと、干しぶどうや梅干しのような香りが立ち、

軽い酸味がある。その後から澄んだ甘みと、旨味が追いかけてくる。


「お顔が、ほんとうにおきれいですね」

 娘は悪びれず、そう言った。


「白いお肌に、この衣。よくお似合いです」


「そ、そういうのは……」

 凌蓮の声が裏返る。


「遠慮なさらず」

 今度は、別の娘が箸を進めてくる。


「この豆腐、崩れやすいんです。はい、どうぞ」


 口元へ差し出された箸を、凌蓮は断りきれず受け取った。


 そのたびに、盃は満たされ、料理は前へと積まれていく。


「……おい」

 虎嵐が小声で、


「明らかに、扱いが違わねえか?」


「ほほ、顔がいいから仕方あるまい。残酷な現実じゃ……ま、わしの若い頃に比べれば、

「凌蓮など足下にも及ばんがのう」


 柳鷺は楽しげに笑った。


「えっ!?」

 凌蓮の耳まで赤くなる。

 

 虎嵐は、遊侠たちと、注いだり注がれたりで、次々と酒壺を空にし、料理を平らげた。

 

 いつの間にか、凌蓮の頬は真っ赤になり、言葉が滑らかになっていた。


「この鯉は……水の気が澄んでいる」

 真面目な顔で語り出す。


「修行とは、極めることにあらず……虎嵐、聞いているか?」


「聞いてる聞いてる」

 虎嵐は、苦笑いで応じた。


「まあ」

 娘たちが、顔を見合わせてくすりと笑う。


「お話まで上手なんですね」


「い、いや……」

 凌蓮は、盃を持ち上げたまま、少しふらついた。


「無理なさらず」

 娘がそっと背に手を添える。


「ゆっくり、どうぞ」

 その優しさに、凌蓮は一瞬、言葉を失ったが、


「かたじけない。何か、お礼に娘さんたちを楽しませる芸など――」


 と何かを探すように辺りを見回して、

「では、虎嵐」


 凌蓮は妙に晴れやかな顔で、

「一発芸、やってみせてくれ」

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「この後の展開が気になる!」「中華風もたまには、いいじゃん!」と少しでも思っていただけましたら、画面の一番下にある【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をポチッと押していただけると、

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【捜神人物図 公開!】

 活動報告に【捜神人物図】を追加しました。

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