第27話:海と巫女の過去
妾は海。その誕生はよくわからない。目覚めたら……って感じ。
――……動きにくい……
海と同化しているため、妾が動くと海も動く。そのせいで波が起き、陸上に津波が押し寄せる。
「同化解きた——ひゃっ!」
突然海の中に引きずり込まれた。真っ暗で何も見えない。
数十分だろうか、底に着いた。目も慣れてきて見えるように。
「ん……なんだったの——あれ、体がある」
よく見ると、わたしには肉体があった。いや、正確には肉体ではない。ほんの隙間から差す光に照らすと透けて見える。水でできているようだ。
「……でも自由に動け——この体、なんにも飾ってないんだけど。裸体なんだ……」
どこで覚えたのかは知らないけど、無意識のうちに出てくる。
水でできているとはいえ、今考えたら相当豊富な体をしている。思い返すと体中触りまくった記憶が……なんかすごかった。うん。
「とりあえずなにか纏おう。ん〜これでいいや」
自身の体に白いワンピースを纏わせた。これはこれでいい。
「よし、しばらく過ごしてみるか」
「……寂しい。娘ほしい……」
数年過ごしてみたはいいものの、一人だとめちゃくちゃ寂しい。魚とかいるけど話し相手がほしい。
すると、目の前に不思議な形をした石が転がり込んでくる。
「なにこれ、こんなのあったっけ」
独学で身につけた魔法によって年代を調べる。すると……
「……妾と、同じ?」
妾というのは一人称。数年で自然となった呼び方。
それより、この奇妙な石が自分と同じ年代だということが気になる。普通は水の流れに削られて……いや、削られた結果そうなったのかも。
「にしても気になる。なんでこんな形に……」
最初からこの形ならおかしい。水に削られてこうなったなら奇跡。どっちにしろ変だ。
なぜか興味本位で水魔法をかけてみる。
「うわっ!!」
辺りは眩い光に包まれた。真っ白で暗闇と一緒な感じ。
数分後、光が収まった。目の前にいたのは……一人の小さな女の子。
「……誰!?」
「……」
妾の問にも答えない不思議な子。目すら開けない。
「なにか言って?寂しい」
「…………お……おか……」
「おか?」
「おか……お母、さん……」
目を開けながらお母さんと呼ばれ、なぜか胸がいっぱいになる。このとき初めて『愛』というものを知った。
「っ……」
「……お母、さん……」
そのまま抱きつかれたものだから、妾の母性本能が開花してしまったじゃないか。離したくない。
「シャルルちゃん、こっちおいで」
「うん! お母さん大好き!」
シャルルちゃんはすくすく育っていった。今は六歳だろうか、まだ覆えるくらい小さい。
「偉い偉い、本当にいい子だね」
「もちろん! 私すごくいい子! いっぱい褒めて!」
「すごいよ〜シャルルちゃんはずっと一番なんだから」
「えへへ、ありがと!」
母親としての日常はすごく楽しい。数年前まで一人ぼっちだったのが嘘のようだった。
しばらく抱えていると、ふと思い出した。
——妾は大丈夫だけど、シャルルちゃんは老いるよね……
今までの成長を見る限り、少しずつ老いているようだった。まだ幼いが、確実に。
「……ねぇ、お母さんのお願い聞いてくれる?」
「? なに?」
「ほんのちょっとで終わるからね」
シャルルちゃんの頭に手を乗せ、呪いをかけた。
「——よし終わり。ありがとね」
「……うん! お母さんのためだもん!」
妾は一人になるのが怖い。だから妾とシャルルちゃんのどちらかが死んだら、道連れになる呪いをかけた。これは永続。あと半不老不死の効果もある。
「ご褒美あげなきゃ。ぎゅーってしてあげる」
「ほんと!? やった!」
シャルルちゃんと出会って十数年。妾の思惑通りお母さん大好きっ子になった。
「ん……やっぱ落ち着く」
「こら、妾のお腹に顔を埋めないの。なんにも出てこないよ?」
「いいの!」
——あぁ、幸せ……こんなに娘に愛されてるなんて……
シャルルちゃんを注意しながらも妾は嬉しさで笑っていた。
素晴らしすぎる親子、これ以上があるなら教えてほしいくらいだ。
そんなことを思っていると、シャルルちゃんから質問が飛んでくる。
「私、このままでいいの? お母さんに甘えてばっかで」
「……いいのよ。ずっと妾のそばにいればいいの」
「でも……」
「まだそんなこと考えなくていいの。今はたくさん甘えてね」
「……うん。そうする」
危うくシャルルちゃんから旅立ちの話が出てくるところだった。それだと妾が壊れてしまう。
「……お母さん優しい。私、お母さんが母親でよかった。こんな娘思いなんだもん」
「——っ……嬉しいこと言ってくれるじゃない。ばか」
無意識だった。妾の目から一つの涙が溢れる。
悲しいのではない、嬉しいのだ。
「お、お母さん!? 泣かないでよ! 変なことしたなら謝るから!」
「感動しちゃったの。シャルルちゃんがそんなこと思ってくれてるなんて」
「よかったぁ……」
「お母さん、私……外の世界を見てみたい!」
「……え?」
突然そんなこと言われたわけだからびっくりした。
外の世界に行きたい気持ちはわかる、でも……
「外の世界はなにがあるかわからないんだよ? 危険かもしれないし……」
「わからないから行くんだよ! ね?お願い!」
真剣に頭を下げられる。だが危険じゃないと保証はできない。
——妾は海から出れないし、どうしたものか……あ!
「条件がある。妾がシャルルちゃんをずっと見るから、それならいいよ」
「えっと……どういうこと?」
「つまり、外の世界に行ったあとでも妾が見てるってこと。それなら危険に気づけるし、こっちから魔法を放って攻撃できる」
「てことは……行っていいの!?」
「……いいよ。色々我慢させちゃったみたいだし、特別にね」
正直離れたくない。ずっとここにいてほしい。
でも、ここで引き止めるのは母親としてよくない。娘のやりたいようにさせてみよう。
「……ありがと! 本当に大好き!」
「行っていいけど、危険なことはしないでね」
それから数十億年、妾はシャルルちゃんを見続けた。
最初こそ怯えていたものの、今ではすっかり笑顔が絶えない。
妾を神として、シャルルちゃんは巫女に。
アクア・アイランドを建国、完全なる中立国家に仕立て上げた。
年に何回も帰ってきてくれて、妾は満足していた。していた……はずだった。
人間界と魔界で戦争が起こった。
シャルルちゃんは『戦争に関与しない』と言っていたが、海に被害が出始め、戦争を止めるために参加した。
「やめて! 争いじゃ失うだけ!」
「どけ! 魔王は倒さなければならない!」
「勇者よ、足掻くか」
そんな感じで、主に勇者と魔王の戦いだったんだけど、いつの間にか広がっていた。
「終わらせよう」
「——ああ」
それぞれが最高の技を放った。それを防いだのは、シャルルちゃんだったの。
「——やめ……て……」
全身を傷だらけにして防いだ。もう回復できないほどの傷だった。
「シャルルちゃん!」
妾は海から飛び出してシャルルちゃんのものに来ていた。数分しかここにいられない。
シャルルちゃんはどんどん消えていき、体の半分はなくなっていた。
「死なないで! 妾まだシャルルちゃんをちゃんと知れてない!」
「お母、さん……約束したのに……守れなくてごめんね……」
「遺言みたいに言わないの! なんとかするから!」
「シャルロット……」
魔王が妾の名前を呟いたのも気にせずとにかく治癒魔法をかけた。だけど治らない。
「なんで……なんで!」
「もういいの……お別れだよ」
「やだやだ! 一人ぼっちになりたくない! シャルルちゃんと一緒がいい!」
すごく子どものような発言をしたが、全て本心。嘘偽りなく、失いたくないという思いから。
「……ばいばい……呪い、解いたからね……」
「——っ! やだぁぁぁっ!」
最後の手段として、自分の能力を分解し『海の化身』を作ってシャルルちゃんに付与した。
完全不老不死の、妾の片割れとなる存在を作った。
今までの記憶はなくなったけど、いつか思い出してほしい。
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