第26話:夏休み!
「はい、みんなにお知らせがあります」
先生は教卓に立つと、クラス全体に聞こえるよう少し大きめな声でそう言った。
「(マリー、何だと思う? 私わかんない)」
「(そうね……あ、トーナメントとかじゃない?最近戦う系ないし)」
「(あ〜そうかも。ずっと基礎ばっかりだったもんね)」
なるべく聞こえないように話すが、先生の目は欺けない。
「静かに」
「「は〜い」」
仕方なく従うことにした。
マリーと席は隣、話すなというほうが無理だろう。
「では本題に。明日から夏休みです」
「「「「――え?」」」」
「言葉の通りです。明日から夏休みに入ります。話は以上に――」
「「「「夏休み!?」」」」
クラスメイト全員が驚いた。私も例外ではない。
だって初めて聞いたんだもん!夏休みとか聞いてないし!
「言ってませんでしたっけ?」
「言ってませんよ。わたしたち今聞きました」
「……説明不足でしたね。では軽く夏休みについて話したいと思います」
先生は最初からあったであろうプリントを見ながら説明を始める。
「期間は一ヶ月、宿題はありません。自由に過ごしてください」
すごく豪華な休みだった。みんな大歓喜。
「よっしゃぁぁ! 宿題なしはやばすぎだろ!」
「なにする? とりあえずすぐ遊ぼ!」
「はい静かに。騒ぎたい気持ちもわかりますが落ち着いてください」
先生のごもっともな意見に全体が静まり返る。やはり先生というのは偉大だ。
「では夏休みについては以上です。授業の準備をしてください」
朝のホームルームが終わり、一時的に自由に。
私はその時間にマリーに話しかける。
「夏休みだって! なにする?」
「そう慌てないの。なにするかって聞かれても予定立ててないのよね……」
「だよねぇ……突然言われたもん」
それもそのはず。前もって聞いているならすでに計画を立てている。
「それなら放課後みんなで予定立てない?わたし今年は忙しくないから旅行とか行けるわよ」
「ほんと!? じゃあ放課後ね!」
「あ、あともう一つ。昼休みわたしと――」
マリーが言い終わる寸前に私は授業の準備を始めた。なんか面倒な気がするし。
「……あとで覚えておきなさいよ」
グサッ
背後にすっごく鋭い視線を感じた。私の背中に矢印が刺さる。めちゃくちゃ痛い。
――な、なにが起こった……?
昼休み、私はなぜかマリーに呼び出された。心当たりがなさすぎる。
「……シャルル、朝の話覚えてるわよね?」
「も、もちろん!」
「……じゃあ何するんだっけ?」
「え、えっと……」
朝の話と言われてもなにもわからない。だって聞いてないんだもん! 嘘ついちゃった!
「……あ、確か屋上で掃除って――」
「言ってないけど。やっぱり聞いてないのね」
きっと今の私には『ギクッ』という効果音がぴったりだろう。
「……はぁ、聞いてないならいいわ。もう一度言うだけだし」
「そ、それで……朝の話ってなに……?」
「わたしと戦って。今から」
なんか思っていたより普通の内容だった。でも……
「今から!? 昼休みの時間と戦闘時間考えたら……負担やばくない!?」
「聞いてなかったのが悪いんでしょ。わかってたならすぐ始められたし」
正論パンチ。効果は抜群だ。
この時点で私のライフはほぼゼロに等しくなった。確かにすぎる。
「そ、それは……」
「だから負担もなにもない。悪いのはそっち」
「うっ……酷すぎるってぇ……」
「だから早く行くわよ。夏休み前最後なんだから」
マリーに連れられて闘技場に着いた。正直戦いたくないのだが、それだとさらにマリーを怒らせる。戦ったほうが楽というわけ。
「……始めるわよ」
放課後、私たちは食堂に集まって旅行の計画立てをしていた。
食堂は便利で、食事にも勉強にも会話にも使える。万物みたいなものだと勝手に思っている
。
昼休みの戦いの結果は私の勝利。油断のせいか負けかけた。
「ねぇ、みんないつ空いてる?」
「ん〜ウチは基本毎日かな。他は?」
「あたいも一緒!」
「私もです。今年はなぜか忙しくないので」
「俺も」
毎日。状態さえ良ければいつでも旅行に行けるということ。あわよくば旅行後も遊べる。
「じゃあ旅行何日間にする? 候補どうぞ!」
「ウチ三日間!」
「わたしは五日間」
「あたい一週間! たまには長めの旅行がいい!」
「「「「わかった」」」」
「えぇ!?」
一瞬で決定した。もっと時間かかると思ってたけど……みんな長いほうがいいらしい。
「じゃあ一週間で決定!」
「次、どこ行く?少し考えましょうか」
マリーの提案で行く場所について考えることになった。まぁ行く場所なんて決まっている。
「いい? いくわよ、せーの」
夏といえば……
「「「「「海!」」」」」
「やっぱり?」
「そりゃそうやろ。みんな海行きたいねん」
「海水浴……楽しそうです!」
「……どうせ行くなら遠くがいいから」
ルイにしては説得力のない回答だった。つまり……
「本当は行きたいんでしょ? 海」
「……違う」
「またまた〜ルイっていっつもそうなんだから。ウチはわかるよ?」
「意外と可愛いところあるんやな……」
「とりあえず海に決まったんだ。それでいいだろ」
普通に考えたらこれ以上掘り下げる必要があったのだろうか。ルイのことなんて知る必要もないのに。あ、今のは酷かったね。ごめん。
「それで、泊まる場所なんだけど……」
「じ、実はダークネス家海の近くに別荘があるんですよ。そこに泊まるっていうのは……」
「ほんと!?」
「は、はい。しかも眺めも良くて、透き通るような感じなんです!」
「最高! そこにしよか!」
特に反対意見もなくスムーズに進んでいった。気が合う人たちといると楽しいのはこういうことがあるからなんだろう。
「そういえば……みんな旅行後なにするの? 私、服とか買ったりカフェ行ったりする」
「基本ゴロゴロするかな。ウチ休みたいし」
「リリア、三日に一回は外に出なさい。動かなすぎて逆に体を弱くする」
「は〜い」
そんな魔術科上位帯たちの会話が続いた。普通に見ても一年でトップ6まで埋まることがおかしいが、気にしないでおこう。なんか良くない気がする。
✯
「ふふ、シャルルちゃんが旅行に。妾も行きたいなぁ……」
そんなことを思ってしまうが、我慢我慢。
これはあくまでシャルルちゃんたちの旅行、妾が入る理由がない。
「シャルルちゃんの保護者って言えばもしかしたら……いやだめ。びっくりしちゃう」
普通に考えてそんなことしていいわけがない。
「はぁ……本当にシャルルちゃん好き。妾が男だったら襲って……いやこのままでも襲ってたかも。妾よく我慢した!」
妾もよく思うが、独り言がうるさい気がする。きっとこの感覚は間違っていない。
「よし、今回もシャルルちゃんを見守る側に回ろう」
そう決意した。
ちなみに、なぜ妾がこんなにシャルルちゃんが大好きなのかというと、全ては妾の誕生から始まる。




