第21話:なんの話!?
「寝ちゃったね」
「はぁ……本当にシャルル君は人騒がせじゃ」
「……でも、それがいいんだよね。見てよこれ、幸せそう」
「なんか、やりきった感が感じられます。あときれい……あ、すみません…」
「謝ることはない。事実を言っただけだ」
「――てことはルイはシャルルのこときれいだと思ってるん? 案外見てんな〜」
サインの鋭い視点の言葉が放たれる。わたしなら恥ずかしさからKOされている。
「当たり前だ。いつか超えなければならない相手、観察するのは当然のこと」
「……なんか引くわ……」
「……そうか」
――ルイが少し悲しそうにしてたのは気のせいじゃないわね。案外繊細だし気をつけてほしいのだけど
そんなことを思いながら、わたしはシャルルを見ていた。羨ましいほど整った顔立ち、とても神秘的だ。
「……学園長、わたしたちはどうすればいいんですか?このまま帰るんですか?」
「あ、そうやった……帰らなあかんのか。めんど〜」
「そうだね〜誰か簡単に送れる人……いるじゃん!」
「誰じゃ?」
わざととぼけているのか、それとも本当にわかっていないのか。きっと前者だろう。
後者だったら天然が二人、学園存続の危機だ。
「あなたですよ、学園長。俺たちは魔力が残ってないです」
「そうやで! 学園長……だめ?」
「……サイン、上目遣いをやめるのじゃ。わしが君らを戦いに参加させたのだ。送ってあげるのが筋じゃろう」
「やった! じゃあよろしくね!」
「うむ」
学園長が転移魔法を展開し、わたしたちは医療班のもとから消えた。
◇
「――ん…んぅ……あ!お母さん!」
私は起き上がりそう叫ぶ。そして、目の前の光景はなんか不思議だった。
みんないるんだけど……なんか動かない。なんで?
「あ、あれ? みんなどうしたの?そんな……石像?」
「あ……う…し、シャルル? 本当に、シャルル?」
みんなの様子がおかしいことくらいすぐわかった。だから、どういうことかわかんない。
「なに変なこと言ってるの? 私は私だって〜大丈夫? 一旦シャワー浴びる?」
「……あはは、いつも通りだ」
「そこは普通『頭冷やす?』とかだろ……」
「まぁ戻ってるならよかったです……私心配したんですよ?」
「……なんかごめんね〜」
「その軽さ、変わってないわね」
チョットナニイッテルカワカンナイけど、そういうことらしい。
つまりは……
「私、なんかした?」
こう聞くのが一番だろう。
もし、私がなにかしたなら謝るし、してないなら別に関係ない。睡眠薬飲んでから記憶ないし。
「――単刀直入に聞くわ。あなた、あの戦いの記憶は?」
――なんか思ってたのと違う
私にそんな心当たりなんて微塵もない。だから……
「? なんのこと? 私はずっとここにいたけど」
こう返した。
そう、私はずっとベッドにいたはずなのだ。
「……聞き方を変えましょう。あなた、今日なにしてた?」
「ん〜頭痛かったから休んだでしょ? で、痛すぎたから頭痛薬じゃ聞かないな〜って思って睡眠薬飲んだ」
「……睡眠薬?」
「そうそう、私がたま〜に使ってるやつ。何回使ってもなくならないから便利なんだぜ☆」
「――シャルル君、それを見せてもらうことはできるかね?」
学園長が真剣な眼差しで見てくるので、ちゃんとしないとと思う。てか普通に怖いって…
「もちろん、ちょっと待っててね〜」
私はベッドから起き上がり、棚を開けた。
――おっと、笛が見えちゃう
見えないように注意しながら、蒼色の液体を取り出す。そこには『シャルルちゃん専用♡』と書かれている。
「はいこれ、私しか使えないんだよね」
「……なによこれ、普通の睡眠薬とは違いすぎてるわ」
「なぜこんな色を……シャルル君、これを分析させてもらうことは――」
「だめ」
即答した。
これはお母さんとの約束、破ったらどうなるかなんてわかんない。
「……そ、そうか。わかった……」
「にしてもすっごいきれいやな〜こんなの飲むん?」
「そうだよ? それ以外ないし……あ、目に入れるとか思った?」
「何言うてるん? そんなわけないやん。やっぱシャルルって変な子やな〜」
――やっぱ、思ってたのと違う。なんか噛み合わないな〜
「それを天然って言うんですよサインさん……」
「わかってるって! てかマロンやったっけ、サインちゃんとかでええよ?」
「ほ、本当ですか!? じゃ、じゃあ……サインちゃんで」
「てか入学早々言われた『天然』ってどういう意味?なんにもわかんないんだけど」
「……今はそれでいいわよ。きっとそっちのほうが幸せ」
「余計気になるんですけど!?」
私には『天然』という意味がよくわからなかった。きっとこれからもわからないかもしれない。
――まぁいつか知れたらいっか。
「まぁ疲れたでしょうし、ゆっくり休んでください。一週間も眠ってたんですからね」
一瞬思考が停止した気がする。それほどびっくりした。
「――い、イッシュウカン? ソレ、ホント?」
「そうよ? 相当力を使ったみたい。魔力はとっくになくなってて、足りない分はどこから生成されたのかわからないのよ」
「……そういうことだ。医者によれば明日から学園に行っていいらしい」
「それならいいんやけど……まさかそんなに眠ってたなんて。きっと良い夢見たんやな〜」
サインはクスッと笑う。なんだか年頃の女の子……てかそうなんだけど。
「せやな。じゃああたいら戻るから、なにかあったら連絡してな」
「うん、ありがと!」
学園長含む六人が私の部屋から出ていく。さっきの賑やかな雰囲気が一気に静かになる。
「……私、なんの夢見たんだろ」
そうして、また眠りに落ちた。
目を覚ますが、目の前は海底の底。透き通る海水、美しい海藻たち。
ここは……夢の中だろう。
辺りを見回していると……
「シャルルちゃん、こっちよ」
そんな声が聞こえてきた。聞き覚えのある、母性あふれる優しい声。
私は声の方向に迷うことなく進んでいった。猛烈に、会いたい気持ちが出ている。
無意識に口角は上がり、笑顔になる。
「お母さん……お母さん!」
いつの間にか私は走っていた。歩きのほうがいいのに、体が勝手に進んでいる。
「こっちよ、もうすぐだからね」
「うん! 早く……早く会いたいよ!」
合うのは何年ぶりだろうか。声も、顔も、全部覚えている。それだけ、私にとって重要なの。
しばらく走っていると、私より少し高めの人が立っていた。
髪は床につくくらい長い青髪、瞳は蒼色をしている。
――っ!間違いない
「お母さん! 会いたかったよー!」
私はお母さんに向かってタックルのように抱きつく。一番……会いたかったんだから。
「こらこら。妾が強いからよかったけど、病弱だったらどうするの?」
「そんなの関係ない!」
私は頬を膨らませる。お母さんが病弱になるなんてありえないから、全面的に否定する。
「ん〜温かい。ちゃんとお母さんだ」
「はいはい、妾のお腹に顔を埋めないの」
「いいでしょ! 何年待ったと思ってるの!」
「ごめんなさいね。この時間は妾と楽しく過ごす?」
「もちろん! この時間だけは、ずっと一緒なんだから!」
お母さんの質問に即答する。
子どもみたいだと思うかもしれない。でも、お母さんとの時間はかけがえのない、重要な時間なんだ。
「家の中入る?夢だけど味を感じれるようにしてあるからご飯食べれるよ」
「ほんと!? 手料理食べてみたい!」
「ふふ、じゃあ入ろっか。シャルルちゃんの好きな海鮮いっぱいあるからね」
「海鮮大好き! 行こっ」
「ほらほら、急がなくてもいいから」
「一秒でも多く一緒がいい!」
「……うん」
お母さんの笑顔が深くなったのは気のせいではないだろう。嬉しそうでなにより。
家に入り、お母さんがキッチンで料理し始めた。
私は椅子に座って『まだかな〜』とか言いながら足をパタパタさせていた。よく出るクセみたいなもの。
「できたわよ〜おまたせ」
丼いっぱいに海鮮が詰められた海鮮丼に、普通に盛られた刺身……至福の一時。
「こんなに……これ、いいの? なんかプリプリでめちゃくちゃ美味しそうに見えるけど……」
「シャルルちゃんのためにいいので作ってあるから。妾を舐めないでよ?」
「……舐めてないよ。感謝してる」
そんな言葉が自然と出てくる。不思議と恥じらいはない。
「っ……そういうところ、本当にずるい。妾を殺すつもり?」
「えぇ!?私お母さん殺しちゃうの!? ごめんなさい! そういうつもりじゃ……」
「……ふふ」
「? 何笑ってるの?」
なんで笑っているのか私にはいまいちわからない。笑う要素がどこにもないから。
「いや? ……可愛いな〜って。自慢の娘なんだから」
「えへへ、そうだよ? ちゃんと海のために働いて、毎年『神祭』で祈りを捧げてるんだから!」
「うんうん、シャルルちゃんは偉いね」
お母さんは私の頭を優しく撫でる。もっとほしくなるような手つき。
そんな、普通の親子としての時間。みんなも、こういうのが好きなんじゃないかな。
普通より、いいことなんてないんだから。
「ほら、食べちゃおっか」
「うん!」
私は海鮮丼を一口食べると……
「んふ〜! おいひい〜!」
「こらこら、行儀が悪いわよ」
怒っているようだが、口調が怒っていない。だから説得力が一つもない。
「いいじゃん! 好きに食べさせて!」
「――シャルルちゃんは本当にマイペースね」
「ご馳走様! 美味しかったよ!」
「早……」
「だって美味しいんだもん! お刺身も新鮮で溶けてるみたいだった!」
「……そっか。じゃあソファきてくれる? 膝枕したいの」
「ほんと!? 早く!」
「はいはい、じゃあ妾もすぐ食べちゃうね」
まさかの数分でお母さんは完食した。どゆこと?
「いつの間にかソファに移動してるし……」
「ん? 妾なんか変なことしたの?」
「――いや? じゃあ膝枕よろしくね」
「もちろん。ほら、こっちおいで」
言われた通りお母さんの膝に膝に頭を預ける。率直に出た感想が……
「すご…柔らかい。本当に枕みたい」
「……褒めてる?」
「もちろん!」
「それならいいけど……」
――安心するなぁ……
そんなことを思いながら、いつの間にか眠っていた。
「お母…さん」
「っ……もう、本当に可愛いんだから。愛してるよ、この……シャルロット・シー・アクアはね」
どのくらい眠っていただろうか。起きると目の前は自室だった。
――やっぱり夢……でも、嬉しいよ。お母さん
――ふふ、笑顔になってくれてよかった。妾心配したんだから
「続きが気になる……!」
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