第19話:見計らった進軍
あの実習から一週間、特に大きな変化もなく、日常に戻りつつあった。
……が
「はぁ…はぁ……いっ――」
私は、頭痛に悩まされていた。いつもならすぐ治まる。しかし、今回は違った。
「痛い……」
――そういえば、巫女はどんな代でも頭痛に悩まされるって……気絶には至らない大きな頭痛は、なにかを伝えるためのものだって…見た気がする……
にしても、痛すぎる。そりゃ魔王城のときのほうが痛かった。でも、これでも十分きつい。伝えようとしていても、その本人が動けなくなると意味はない。
「今日は休もう。流石にこれは無理……睡眠薬……」
普通は頭痛薬を選ぶ。だけど、こんな釘を頭に打ち付けてるみたいな鋭い痛みは頭痛薬では治まらない。強制的に体を眠らせたほうが痛みはないだろう。
「んっ……すぅ……」
私は睡眠薬を飲むと、急に睡魔が襲ってきた。即効性、十秒にも満たない早さで眠りに落ちた。何回も使ってるし安心。
――なんか…ふわふわしてきた……
◇
「あれ、シャルルがいない……」
教室を見渡しても、あの目立つ白髪の姿はいない。
――なにかあったのかしら……心配ね
首席がいないということは、それだけ学園の戦力が減るということ。他の学科があることがなにより安心することか。
「えぇ、アクアさんは頭痛によりお休みとなっています」
「アクアさんって持病とか持ってるんですか?」
「それな!気になってんねん。シャルルちゃんいっつも元気で優しいし頭痛に負ける子やないと思うけど」
「特にそのようなことは言われてません。気候やTPOの変化などに弱いのでしょう。あくまで推測なので、真に受けないように」
「なんかえらい説得力あんな……先生すごい人?」
「自分で言うのもなんですが、この学園の先生になってる人はすごい人ばかりですよ」
先生は少し照れながらそう言った。まぁ学園の先生になるためには特別な試験があるらしいし、突破者は天才だらけ。きっとこの先生もそうなのだろう。
「それでは、ホームルームを終わります」
「起立、礼」
「「「「「ありがとうございました〜」」」」」
さっきまでの静けさとは反対に、教室が騒がしくなる。大半は首席が休んだ理由についてだった。
「なぁマリーちゃんや、ちょいと質問あるんやけどええか?」
「なに?もちろんいいけど」
多分始めてこの子に話しかけられた……気がする。いや、始めて。
「ありがと!遠慮なく聞くんやけど、シャルルちゃんって持病とか持ってたりする?」
「聞いたことないわね。でも、わたしとシャルルが初対決したことあったでしょ?あの時試合の申請後に頭痛に悩まされるって言ってたわ」
シャルルのことにはあんまり詳しくないから、事実だけを伝える。頭痛の意味はよくわからない。
「そうなんや……シャルルちゃんって海みたいに底が見えんし、なんもわからんな」
「それは同意だわ。自分のことに関して一切教えてくれないもの。唯一知ってるのは、シャルルが強いことくらい。あと天然」
「シャルルってやっぱ天然よな!みんなから「計算でやってる」とか言われてるけど」
「計算であれができるならとんでもない知略ね」
お互いクスッと笑う。これほど親しみやすい人を見つけたのは久しぶり。ぜひ友達にほしいくらいだ。
「よかったら友達にならない?クラスメイトなのにあんまり話しかけなかったし、あなたみたいに面白い人久しぶり」
「ええの!?あたいサイン!よろしくなマリー!」
「ええ、よろしく」
そう言って、サインから差し出された手を握る。柔らかく、安心する手つき。不思議な人だ。
「てかサイン、結構目立つわね。金髪のサイドテール、瞳は青色」
「えへへ、せやろ?自慢やねん!」
「この特徴……もしかして第六席!?」
「あ、やっと気づいてくれたわ〜こう見えて結構実力者なんよ?」
「……なんかごめんなさいね。子供っぽい顔だから弱いのかと」
「直球やなマリーは……まぁよく言われるねんけど」
諦め半分、悔しさ半分というところだろうか。ちょっと拗ねている気がする。
「あ、そろそろ授業の時間やな。また話そな〜」
「そうね、また」
――数時間後――
授業は全て終わった。何事もなく、ただ時が過ぎるように。だけど、なんだろう。このモヤモヤは。実に不快、嫌な予感がする。
キーンコーンカーンコーン
『緊急招集、魔術科の上位五名は学園長室に来てください。なお、首席が休みのため第六席も来ること』
「……行くわよ、サイン」
「とっくに準備はできとるで!」
わたしたちは急ぎ足で学園長室に向かう。みんな放送を聞いたのか道を開けてくれて助かった。
到着し、扉を開けると見覚えのある顔が三人いた。リリア、ルイ、マロン、いつものメンバーだ。
「あ、マリー!遅いよ!」
「姉さ――彼女は?」
「サインよ。第六席で友達」
「よろしくな!あたいサイン!こう見えて結構強いんやで?」
「あはは……話し方独特ですね。この世界の言語じゃないみたい」
「あ〜よぉ言われるわ。でも安心しな!あたいは正真正銘この世界の住民やから」
「よかったぁ……もし異世界からの住民だったらどうしようかと思ったよ!てか異世界の住民って強いのかな……」
「私語をやめなさい。話をしますよ」
学園長の言葉で騒がしかった部屋が静かになる。それほど重みがあり、真剣な話をするということ。重要性が高いわね。
「今回集まってもらった理由、それは魔王軍進行のせいなのじゃ」
「魔王軍……進行?」
「そうじゃよマリーくん。突然軍が動き出してな、今やっとのことで食い止めているのじゃよ」
「それっておかしくない?だって巫女様が結界を張って境を作ってくれてるんでしょ?進行なんてできるわけないじゃん」
「せやせや!どういうことなん?」
「実はな、抜け穴が見つかったのじゃ」
「抜け穴?俺らでもわからない抜け穴があるとでも言うんですか?」
抜け穴という言葉に、ルイが関心を示した。なんせ結界に抜け穴など……ましてや巫女がつくったものにあるなんて前代未聞。
「簡単じゃ。転移魔法を使えばいいんじゃよ」
転移魔法という基礎魔法に首を傾げる。転移魔法はただ転移する、それだけしか使い道がない。だからこそ、意味がわからない。
「転移魔法というのは単純な転移以外に、ゲートを使う方法もある」
「ゲート……初耳です。使うとしても、それを維持できるだけの技量、魔力量は相当なはず」
「そうじゃな。ただ、それは人間の話。魔族ともなれば魔法は使い慣れておる。維持など簡単じゃ」
「それは……」
確かに、魔族は魔法の扱いに慣れている。そして進化の過程で魔法に最適な体に変化している。
「とにかく、北東に行けばわかる。よいな?」
「……わかりました」
「よろしい。他の四人も同様に、マリーくんを先頭にして動きなさい」
「「「「はい!」」」」
「では転移させる。幸運を祈っているぞ」
視界がグニャッと歪み、気づけば緑に包まれた野原にいた。流石学園長、転移魔法特有の酔いも転移漏れもない。どれほど鍛錬を積んできたのか気になるくらいだわ。
「――ここが、北東?」
「戦いが起きてるとは思わないよね。えっと……一面なんもわかんない」
「せやな……どこなん?ホンマに」
「広すぎて影も反応しません……」
「――姉さん、結界の境で戦っている。押され気味だから早く行ったほうがいい。あと……すごく強い魔力を二つ感じるよ」
「わかった。全員、全速力で結界に近づくわよ!なるべく相手に悟られないように!」
「「「「了解!」」」」
そう言って、全速力で戦っている場所へ向かう。ルイの言う通りなら、きっと……とんでもない化け物がいる。
――わたしの予想が正しいなら……ルイが感じた反応は――幹部!
間違っていたとしても、強敵になることに変わりはない。
戦いの場所から約数十メートル離れたところで一度止まった。なんとなく察知された気がするから。
「……ここから先は悟られる。マロン、出番よ」
「わ、わかりました。皆さん、今から影を作るので入っていってください」
「影……移動できるん?それならすんごい便利そうやけど」
「一応できるんです……ただ、距離が離れすぎてると不安定になるので……これは私の技量不足です」
「そんなに落ち込むことないよ!マロンのおかげでウチら簡単に近づけるんだし!」
「マロン、頼むぞ」
「は、はい!」
すると、わたしたちの前に円形の黒が生成された。これが影なのだろう。
「じゃ、じゃあ入っていってください。安全は保証しますので……!」
「よし、ウチからね!遠慮なく!」
ストンッ
「あれ、思ってたのと違うね。もっとドロドロしてるのかと思ってた」
「私の闇魔法は特殊なんです」
「へぇ……じゃあ俺らも入るか」
「了解!マロンもはよ来なよ〜」
「は、はい!わかってます!」
次々とマロンの作った影に入っていく。もちろんわたしも。
最後の一人、マロンが入ると影が閉ざされ真っ暗に。
「うわ!暗い!なんも見えへん!」
「大丈夫です。今は移動中で……あ、そろそろ出れます」
「早いわね。もっと時間がかかるのかと」
「えへへ、私だって第五席ですから。着きました。では地上に出ましょう」
地面が地上に向かって上がっていく感覚がある。そして……
「うっ……眩し…」
「――全員避けて!」
「えっ!」
「いきなり…!」
なぜわたしが避けろと叫んだのかというと、魔法がすぐ目の前まで迫っていたから。もし反応が一秒でも遅れていたら、何もできず死んでいただろう。
「あれ〜?外しちゃったか〜」
「だからあれほど鍛錬しておけと言ったのだ。魔王様は甘やかしすぎだ」
「……誰」
「――魔王様の配下、そして幹部のガイア・ローガンだ」
「同じく幹部のレーザ・ストベルトで〜す」
突然の挨拶。そして、幹部という単語が出てきた。
「……口が軽すぎません?」
「せやな……」
「――やっぱり、ルイの感じた反応は幹部だったのね。どう対応すれば……」
「あはは!面白いこと言うね〜」
「お前たちは学園の者だな。好都合、ここで始末させてもらう」
「――っ!全員、戦闘準備!目標、ガイア・ローガン、レーザ・ストベルト!」
わたしはそう叫ぶ。周りには魔物と戦っている兵士たち。それを気にせず、四人に言葉を伝えた。
◇
「……」
起きて、鏡を見る。いつも通りの顔。違ったのは、瞳がオッドアイではなく、黄色く変化していたこと。それ以外は変わっていなかった。
「……頭痛治ってないけど、行こっと」
感情が乗っていない言葉。私はこのとき、自我を失っていたかもしれない。いつもの調子じゃない、操られている感覚があった。
――シャルルちゃん、出陣よ
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