第18.5話:魔生史上一番のやらかし。そして実習の終わり
18話の続きです。
「た、大変失礼しましたー!」
あたしは巫女様に対して土下座をした。本当なら許さない状況。でも、目の前の人は……
「大丈夫。安心して」
すんなりと許してくれる。こんなに優しい人は……この世に二人といない。この人以外なら、あたしはこの世に存在しなかっただろう。
「ほ、本当ですか? あたし、処刑されない?」
「うん、私が許す。だから安心して」
「う、うぅ……」
「あ、裸のこと忘れてた。まずは服着よっか」
「で、でも……服巫女様に消されて――」
「ん〜じゃあ移動させるね。また〜」
「えっ――」
その瞬間、あたしは光に包まれ……気づけば魔王城に。
――どこまでも……お人好しなんだから
◇
「ど、どうなったの?」
「ウチら助かった……?」
「……うん、あの魔族は私が倒したから。もう大丈夫」
「……俺らが出る暇もなく終わったな」
「そ、そうですね……私たちいる意味ありました?」
「ないね!」
「はっきり言わないでよ! なんか悲しいじゃん!」
「事実なんだけど……」
「うっ……ウチ正論には弱い……」
うん、いつも通り。さっきの緊迫した空気から一変して、柔らかな、日常のような空気に。アリアのことがなかったみたいになってるけど……いっか。
『皆さん、聞こえていますか? これで実習を終わります』
「やった〜! 終わりだ〜!」
「ついに終わったわ。早く帰りましょう」
「そうしよ〜ウチ早く風呂入りた〜い」
「じゃ、じゃあこの後みんなで温泉行きませんか?」
「いいね! あ、ルイは別だよ?」
「わかってる。女性の風呂場を覗くほどバカじゃない」
「ふぅん。私たちの風呂場見ても何も変わらないし、どっちでもいいけど」
そう言い残して、私たちは実習を終えた。
その後は学園の外にある温泉に訪れる。人は少ないが常連が多く、昔から愛されているってマリーに聞いた。
「ここか……結構広くない?」
「そうね、早く脱衣所行きましょう。時間がもったいないわ」
「シャルル早くしよ! ウチもう待てないし」
「俺はここで。また上がったときに」
「ま、またね。ルイ君」
そうマロンが言うと、ルイが小さく頷いた。そして男湯に入っていく。
脱衣所は結構広いところだった。風呂を上がったあとはここでコーヒー牛乳とか紅茶が飲めるらしい。凝ってるね〜
私が服を脱ぎ始めると、視線を感じた。なぜか、三人がこちらを見つめてくる。
「? どうしたの?早く脱いでよ」
「い、いや……ウチそんなの見せられたら自信なくすって……」
「り、リリアちゃんもですか? 同士がいてよかったです……」
「リリア、マロン。この人には勝てると思わないこと。いい?」
「勝手に話進めないでよ! なんのことかさっぱり」
「……堂々とその体見せられてるこっちの身にもなってよ……」
「それってどういう……」
自分の体をよく見る。水色の下着のセット、もっちりしてそうな太ももなどなど……確かにこれを見たら自信なくすかもしれない。男子が見たら鼻血が止まらないことだろう。
「……そんなこと気にしてる暇ないって〜」
「そ、そうね…気にしたわたしたちが悪いわ」
「そうだよね……ウチらも脱ごっか」
「そうしましょうか……なんかごめんなさいシャルルちゃん」
「いいよいいよ、全然気にしてないから。これが宿命ってやつ」
「メンタル強いわね。見習わせてもらうわ」
そしてマリーたちも脱ぎ始めた。うん、私を見て自信なくす理由がわからん。自分たちだって相当……これ以上言わないでおこう。なにかが起きそうだし。
「あ、お風呂の前に必ずシャワー浴びてね☆」
「……誰に向かって言ってるの? そっちには誰もいないわよ?」
「何って、見えない幽霊に向かってだけど」
「頭おかしいんじゃない?頭痛といい幽霊に話しかけるといい……」
「不思議だよね〜」
「シャルルが言うこと!?」
「だ、大丈夫なんですか……?」
「そんなこといいじゃん〜」
私は背を向けてシャワーを浴び始める。それを見た三人は顔を見合わせ、小さく笑う。実に平和……な日常。何度も思う、これがずっと続けばいいのに……と。
「ふぅ……極楽極楽……」
「一週間ぶりの風呂は格別だねぇ……染みるぅ……」
「はぁ……」
「すっごく気持ちいいです……」
「シャルルほんっと肌スベスベ。なにしたらそうなるの?」
「……さぁ。教えるつもりはないかな〜ひ・み・つ☆」
本当は私にもわからない。ムダ毛すらない、生まれてから今でもその質問をされると頭に「?」が浮かぶ。てか生まれてからずっとこの体のままだったし、自分についてはこれっぽっちも知らない。唯一知ってるのは、私が強くて重要ってこと。
――知ってるなら教えたんだけどね
「え〜いいじゃん! ちなみにウチは保湿もしてるし、乳液も化粧水もとか色々使ってる。女の子は可愛いが正義だから頑張ってるの!」
「わたしもそういうのはしっかり力を入れてるわ。いい容姿に生まれたもの、保持しないと」
「女の子は基本お肌のケアはしてますよ。だからこそ教えてほしいんですよね……」
――だから知ってるなら言ってるって!あ、心の中で言っても意味ないか
「まぁ本人が言いたくないみたいだし、わたしたちでがんばりましょうか」
「うん!ウチもそうするよ!」
「それぞれ体質がありますもんね」
謎に納得していた。完全に置いていかれた私はポカーンとする。頭はロード状態、きっとこのとき私だけ時が止まったことだろう。
「これ以上はのぼせるわ。先に上がるわね」
「じゃあウチも〜」
「私も上がります……長居はよくないと思うので」
「じゃあ私はもう少し堪能しとくね〜」
「のぼせる前に上がるのよ」
「……うん」
そうして、三人は風呂場から去った。脱衣所からは楽しそうな笑い声、なにか約束事をしているように見えた。
「……助けてくれて、ありがとう」
無意識の言葉、頭がズキズキする。なにか思い出しそうな……そんな頭痛。でも、思い出せない。
――なんで、泣いてるの
私の目からは、大粒の涙。どうやっても止まることはなく、悲しみなのか、安心なのか、わからない。なにもわからない。
「やだ……やだよ……」
何に対して嫌なのか……私は知らない。
何分そうしていただろう、流石にまずいと思って風呂を上がった。手はふやけておらず、むしろきれいになっているかもしれない。
「あ、上がってきたわね」
「さっきまでなにして――」
「……? なに?」
「いや、なんでもないよ」
リリアなりの気遣いだったのだろうか。私の顔を見た途端急に優しくなる。私の目が赤くなっていたことが原因だろうけど。
「それより、ルイが近くのカフェで待ってるらしいの。行きましょ」
「そうなんだ……じゃあ行こっか。すぐ着替えるから外で待ってて」
「はい、待ってますね。マリーちゃん、リリアちゃん、先に行っておきましょう」
「ええ、カフェで待ってるから」
そう言うと、外に出ていった。
私はすぐ着替えて、マリーたちが待っているカフェに到着する。案外おしゃれで、雰囲気がある。
「おう、遅かったな」
「ルイ、今のシャルルにはあんまり話しかけないであげて。なにかあったみたいだから」
「姉さんが言うなら……わかった。言う通りにするよ」
「ありがとう」
「ほらシャルル! こっちこっち! 早く座りなよ!」
「こ、ここ…空いてるのでどうぞ」
「ありがと。じゃあ遠慮なく」
私はマロンの隣に座った。ふかふかで、結構いいとのろの代物だとわかる。
「すみませーん、注文お願いしたいんですが」
「はーい!」
近くにいた店員さんが小走りでこちらに向かってくる。この店に合ったいいお姉さんみたいな感じ。
「ご注文お伺いします」
「わたしはミルフィーユを一つとコーヒーを」
「ウチはチョコケーキとカフェラテ!」
「俺はモンブランとブラックコーヒー」
「あ、私もルイ君と同じもので……」
「……私はショートケーキ。あとカフェオレ」
「かしこまりました。ご注文は以上ですか?」
「ええ、お願いね」
店員さんはまた小走りで厨房に向かっていった。
「ここ『笛の海炎』って言うんだ〜ウチのお気に入り!」
「そうなんだ……不思議な名前してるね」
「でしょ? でも美味しいし関係ないよ!」
「……そう、だね!」
リリアの言葉に私は上機嫌になった。チョロいって思うかもしれない、でも私はチョロい。すぐ機嫌良くなるから。
「おまたせしました、ご注文の品になります。ごゆっくりお過ごしください」
「ありがとう」
「きた〜! いただきます!」
「ん! 美味しい! ここのショートケーキすごい!」
「……モンブラン、変わらない味でいい」
それぞれ頼んだ品を楽しんでいく。ここだけは、平和だった。
――お眠り
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