01_キノコの王_4/4
「いやあ! トメさん! 相変わらず可愛らしい。チハちゃん、おじさんを覚えているかな? イーナラのおじさんだよ?」
催事ホールに入って第一声、挨拶もそこそこに流暢な銀河標準信号語でそんなことを話したイーナラ氏に、チハの表情は固まった。
イーナラ氏の身体は大きい。
厚みのある円盤のような頭胸部は直径およそ二m。四対の複眼が付いており、全周天を見渡せるようになっている。
腹部はおよそ直径一m、長さ二mほどの円筒形に近い形状だ。
全身に感覚毛が生えているため、もふもふしている。
頭胸部からは、歩行脚が二対。関節部分までの長さも二mはあるだろう。
他に二対、飛翔脚として折り畳まれた脚……と言うか翅……があり、大気圏や宇宙でも単独飛行が可能だ。
顔の正面には一対の作業腕兼用の大顎。その中には中顎一対に、更に口吻が生えている。
が、そんなあまりにチハやトメとかけ離れている外見は問題ではなかった。
初対面であるはずの財界の大物であるイーナラ氏が、チハに対して妙にフレンドリーな対応をしてきたものだから、むしろそっちの方がビックリどころの話ではなかった。
「まあ、産まれてすぐの頃だと、さすがに覚えてはいなんじゃないですかね?」
どうぞ、と霜が付いた大ジョッキに注がれたアプフェルタイザーをイーナラ氏にサーブするトメ。
まあ、だろうねえ。目も開いてなかったしねえ、とイーナラ氏も相槌を打ち、大顎の裏側に折りたたまれていた付属肢で大ジョッキを器用に口元で固定して、注がれていたアプフェルタイザーをその口吻でちうちうと吸い飲む。
八〇〇ミリリットルは入る大ジョッキも、イーナラ氏が持つとまるでグラスのようだった。
「うん、美味いねえ。実に美味い。ここに来たらリンゴのジュースも捨て難いが、私はこっちの方が好みだねえ」
航海員の方にも差し入れをお願いして良いかね? 何、あいつらならリンゴジュースと炭酸を渡しておけば、自分らの好みでやるだろうさ。
そんなことを言いながら笑うイーナラ氏に、トメはしたり顔で答えた。
「そう言うと思ったのでもう手配してますよ。凍ったジョッキの替えは用意できませんでしたけどね」




