02_井戸掘り職人たち_1/3
ぽん、と言う音と共に、トメの左前方、目線よりやや上に、駅長からの文章通信が展開された。
墨書に見える文字で、でかでかと「呈覧」とタイトルが振られた投影像の表紙を一枚めくると、連航方面隊が共用している、正副二枚の定型文で構築された申請許可証明書と、呈覧簿兼用の決裁様式が添付されていた。
決裁覧には、既に駅長の認可印も押されており、駅長代理以外の枠には斜線が引いてある。
時代錯誤だろうが媒体がデータになっていようが、決裁文書であるということは、公文書として一定期間以上保存されることを意味している。
そして、トメはそう言った決裁を右から左に盲判を押す様なことはしない。
駅長と同等の権限を持つ「駅長代理」の決裁判には、それだけの責任があると自負しているからだ。
ファイル内容を確認する。
認可を求めているのは群体型ケイ素系知性体。
種族は問題にならない。連航は利用者と敵対者に対して常に平等・公平に対応する。
申請内容は、遷移確率変動分布確定性の揺らぎの収束許可。
これもまあ、問題ないだろう。
収束目的、星間連絡船就航業務終了を愛しむため。
意外と言えば意外だが、実際最終便のチケットの倍率は相当な物で、チケット争奪戦に敗れて最終便への搭乗にあぶれた者たちが、最終便の離岸を送迎デッキから……知性体によっては横断幕まで掲げて……見送ったことを考えれば、まあ理由としてはありだろう。
その他の部分を確認しても、書式にも申請事由にも特に不備・不審な点などはない。
黙読、音読と指差し確認の三段チェックを行っても特段の問題は見受けられなかったため、規定の欄にトメの拇印を捺したあと、親指と人差し指でもって呈覧をくるりと裏返し、つんと突いて駅長に送り返す。
送り返すや否や催事ホールの一角には、いつもの半透明なホロとは違う視線遮蔽型のそれが、いくつもくるくると舞い踊りながら黄色と黒の虎縞模様のドームを織り上げて行く。
「おっと、脚が邪魔をしているねえ」
織り上げられる虎縞ドームを貫く様にそそり立っていた脚をいそいそとずらしながら、イーナラ氏は流暢な銀河標準信号語でそう呟いた。
その虎縞ドームが織り上げられた時と同様に、空間の遮蔽が巻き上げられた時。
遮蔽前には確かに何もなかったはずのそこには、虹色に光を反射する「それ」が鎮座していたのだった。




