ささやかな願い
悪魔と戦ったのは、βテスト最後の日。
魔法、アイテム、全てを駆使して戦ったが、かの者を殺すこと叶わず、無残に負けた。
あの頃の俺と今の俺に大差はない。
ただ、大差はなくとも、差はある。
アイテムはあの頃よりずっと少ないし、装備も大層なものではない。
あのころと比べれば、そんな悪い条件もある。
だが、過去と比べて優れていることがあるとすれば、高周波ブレードや銃などと言った本来この世界にない物を持っていること。
そして、負けられない理由があることぐらいか。
しかし、それは向こうも同じようだ。
悪魔から並々ならぬ殺気を感じる。殺意が具現化でもしているかのように、かの悪魔の向こうにはさらに鬼の形相さえ見える気がする。
まるで、胸にナイフを突きつけられ、死に至る寸前かのような恐怖を感じる。
計画というのが何かは分からない。
だが、それはこの世界にとって良からぬことであるように感じられる。
「一捻りで殺すのは面白くない。初撃だけは受けてやる」
「舐められたものだな。だが、ありがたく準備させてもらう」
悪魔の言葉に乗っかるようにして、魔法を使っていく。
ただ、警戒は怠らない。変な動きが少しでも見受けられたら、すぐに動けるように身構えてはいる。
身体情報を定義。
筋力を今の五十倍に。
そして、その力を行使したとしても、千切れてしまわないような屈強な筋肉に。
そして、皮膚として包むのは、ダイヤモンドのごとき硬度を持ちながら、ゴムのような柔軟さを持つものに設定。
その他の設定も一気に行い、その設定に基づく魔力を練りこむ。
六カ月間、時間に直すこと、千時間を超えるβテスト。
一日平均六時間程度やってきた、廃人と呼ぶにはおこがましいとしても、十分にやりこんだ結果のステータス。
それによって培われた魔力のマックス値を半分まで消費した。
寝るなり、ポーション飲むなりで回復する魔力だが、ガルーダに対してもコカトリスに対しても、ここまでの魔力を消費するつもりはなかった。
だが、これだけの魔力をつぎ込んだとしても、無理だ。
これは一撃死しないための保険にすぎない。
相手はどんな魔物であろうと比類する者はいないと言えるであろう敵。
こんな魔法が大した意味をなさないことは分かっている。戦ったあの日には、インフレに運営に文句言ってやろうかとすら思ったレベルである。
少なくとも勝てる未来が見えなかった。
ダメージが通っている気がしなかった。
それほどまでに、化け物だった。
だから、ここまでやっても、気休めでしかないのだ。
そして、俺は残った全ての魔力をつぎ込み銃に対する魔法を俺は定義する。
それは、ドラゴンを打ち破った魔法。
技術と魔法が融合した攻撃。
俺が出来る最強の攻撃。
魔力を全てつぎ込む。
そして、枯渇した魔力を補うためにポーションを一気飲みする。飲んで地面に放り棄てる。
割れたガラス瓶は地面に散って、中に少しだけ残した液体をまき散らす。
「万全な状態にはなった」
だが、この準備を終えたうえでやるべきは、持久戦。
なるべく死なないように戦う。なるべく長く生きるために戦う。
期待できるとすれば、エイダが呼ぶという救援だ。救援が来たからと言って、何とかなる可能性は低いが、一人で戦うよりかは、ほんの少しだけましになる。
エイダのことだから、俺が敵わないという相手を倒すために救援を呼ぶはずだ。
それは、俺と同格かそれ以上にもなりえるような存在。
きっと、多くはないはずの存在。
だが、彼女は何が何でもそれを探そうとするだろう。
そんなことに期待している自分に、俺は一度苦笑する。
自分は彼女に対して暴言を吐き、そのうえで逃がすことを選び、死ぬことを一度は受け入れたにもかかわらず。
でも、あんなことを言われた以上は生き残る。
返事もしていない。
生き残って、返事くらいはしたいよなぁと思う。
死を覚悟してここに残った身ではあるものの、どこかそんなことを願ってしまう自分がいる。
バカだと思うし、無謀だと思う。
思うではない。わかっている。
だが、それでも。
「さて、いくか」
これは、βテスト時に経験したゲームとしての戦いとは違う。
死んでもいいだったり、ただ勝たなければならないと思う戦いとは違う。
自分は生き残らなければならないという本気の意思をもとに動く戦い、それが今始まろうとしていた。




