絶望とその先
銃弾を放つ。
俺自身が使える、本当の意味で最強の魔法を使った銃弾。
定義された数値は、現実でも到底あり得ることのない数値だ。そんなものが存在するのだとしたら、何に使うのか想像もできない数値だ。
人間なんて、当たれば、体がバラバラになってしまうような数値だ。
ドラゴンであろうと、耐えられなかった数値よりもずっと上の値。ポーションを飲んでまで、つぎ込んだ魔力の塊。
それは目にも留まらぬ速度で突き進んでいく。
だが、それが俺にはスローモーションに見えた。ようにではない。スローモーションそのものに見えたのだ。
それは、身体強化の恩恵。
人間ではありえない体の設定。
それがあるがゆえに成り立った視界。
だからこそ、俺は見た。
それが悪魔の体を貫いたことを。
見間違いではない。
避けた様子が見えなかったどころか、動いてすらいない。
しっかり、穴も開いている。
確かに貫通した。
それは確実だ。
だが、そこにあるはずの衝撃波によって、悪魔の体が砕けることはなかった。
体が振動することすらなかった。
ただ、そこにあるのが自然だとでもいうかのごとく、全くそこを動かなかった。
「おお、痛い、痛い。少なくとも、魔界という本土に住んでいる魔物でも、これに耐えられるのは、ほとんどいないだろうなぁ」
笑っていた。
自身の持った三つの目で、見下した視線を俺に対して送りながら。
普通に受けて、普通に生きている。
何もダメージを受けていないかのように。
貫通しているはずなのに。
体に穴が開いているのは見て取れるというのに。
それが絶望ではないというなら、なんだというのだろう。
それに心折れないのであれば、何故なのだろう。
それはきっと普通であれば、心折られて当然の事実だった。
だが、俺は普通ではなくなっていた。
生きて、エイダに対して返事をしなければならない。
そんな狂気にも似た生への渇望。
高専生として、男子ばかりと接するあまり、恋愛経験ゼロとなった俺にはそれほどまでに、あの子からの告白は響いたのである。
自分でも、たった一つの告白がこんな思いをもたらすとは思わなかったが。
そんな感情がもたらしたのは、絶望すら感じることなく、ただ分析を行う冷静さ。
淡々と俺は、かの者のことを思考する。
肉の強度自体は、銃弾の力で破られるものになっている。
だが、その肉は銃弾と同等かそれ以上のダメージを生物に与えるはずの衝撃波に対してはびくともしていない。
だとすると、銃弾が直撃した直後に何か魔法を発動したのか?
いや、そんな単純なものなのか?
「さて、初撃は受けてやった。ということは、これからが殺し合いというわけだ」
だが、どうやら、その思考する時間すら与えられないらしい。
初撃だけ受けると言ったのだから、当然といえば当然なのかもしれないが。
俺は身構える。
高周波ブレードを右手に握り、ハンドガンを左手に握りしめながら。
そして、見た。
残像を残しながら、迫りくるその悪魔の姿を。
何もなしでは一瞬でしかないはずのその移動を俺は身体強化のおかげで見ることができている。
殺しに来ている。
それがその動きではっきりわかった。
速い。
銃弾の速度と並ぶかそれ以上。
迫りくるそれと待ち構える俺との衝突は必然だった。
悪魔は右手を突き出した。
何者であろうと切り刻んでしまいそうなほどに鋭く尖らせられた爪、それで俺のことを切り裂こうと。
対して、俺はその右手を打ち払おうと、振り構える。
破裂音。
そう表現しておかしくもないほどに大きな、轟音が鳴り響く。
地面を揺らし、悪魔の右手と高周波ブレードの衝突による余波で地面が割れる。割れた地面は、そこにクレーターのようにすら思える跡を生じさせる。
悪魔は爪で。
俺はその爪を払う形で高周波ブレードを。
火花が散ると同時に、高周波ブレードによって高熱が生じていく。
「へぇ、面白いもの持ってんじゃん。殺しはするけど、少しは楽しめそうだ」
「誰が誰を殺すって?」
軽口をたたく俺はぎりぎりだった。
そのギリギリだという事実を悟らせないようにするために、こんな言葉を吐いて見せる。
自分でもバカだと思うが、そうでもしないと戦いぬけない。
そして、悪魔は右手を後ろに追いやり、体を回転させたその勢いのまま、左手を振り下ろした。
俺を殺すために。
だが、それを俺は防ぐために、高周波ブレードで弾こうと本気で右腕を振る。
俺が生きるために。
互いに意味が真逆となる攻撃。
対象は俺一人。
そこに悪魔の存在は組み込まれていない。
だが、それが俺にできる精一杯だった。
何度も突発的に迫りくる、それを俺は死に物狂いで、ただただ打ち返す。




