蠢く生物たち
「火球よ、集え」
俺はそんなことを口にする。
普通に元いた世界であれば、恥ずかしいにもほどがある言葉だ。言うなら、中二病ってやつか。
正直言うと、なんでかわからないが、一時期中二病って呼ばれていた時期もあったから、苦笑いしかできないが。
「集いし、火球よ。目の前にて進み、広がりて、わが道を照らせ」
だが、これは何も中二病に目覚めたわけではない。
魔法を行使する方法には、頭の中で想像しそれを現実にするというもの、言葉を発してそれを魔法とするもの、陣を描き、そこから発動するものなどと様々な種類のものがある。
根底にあるのはイメージだが、それを補助する形で様々な発動方法があるのだ。
魔法は不可能を可能にする。
けれど、不可能を、ただ可能にするという理想の力ではない。
それは、当然、物理法則といった世界の決まりを捻じ曲げて、不可能を可能にしている。
ゆえに、そのような物理法則を捻じ曲げるときには、世界は魔法というものに反発するかのように負荷を与える。
その負荷に耐えられるようにするために、人間が消費しているのが魔力なわけである。
つまりは、魔力がなくとも、魔法は使える。
しかし、魔力がない人間が魔法を使って、生きている保証はない。
そう、ここが重要となり、魔法の発動方法には、それぞれの特徴がある。
想像するという方法は、何も下準備なしで咄嗟に発動できるうえに、相手にどのような魔法を使うか悟らせることがない。さらに言うなら、俺がドラゴンと戦った時に銃にかけたような自分独自の魔法を作り出すことが出来る。
だが、それだけ頭の中で処理しなければいけないのだから、高度なセンスや力量が必要となる。
つまり、発動速度が最速でオリジナルの魔法を使えるなど、一番魔法としては理想的であるものの、一番魔力の消費が激しい。
陣を描くという方法は、世界の一つの物質として”魔法”の陣を定着させ、その後に魔法を発動することで、魔法そのものを世界になじませているわけだから、一番魔力消費は少ない。
だが、その陣は複雑なものが多く、一番魔法の形成に時間がかかる。
そして、身体強化や火や風の魔法などと基本的な魔法は体系化されているので、使えるものの、自分独自の魔法は自分が陣を作らなければならず難易度が非常に高くなる。
言葉にするという方法は、二つの中間と呼べる方法。
通常、魔法を使うのであれば、この方法をとることが多いとされる。
俺はあんまり好かないから、使ってこなかったが。
特徴としては、独自の魔法であろうと、ある程度効果を言葉になおせばいいのだから、魔法として使いにくいわけではない。さらに言うなら、イメージするだけと比べれば、劣るものの、発動速度が遅すぎて使いづらいというわけでもない。
ちなみに、使用する魔力の量は、魔法陣を用いる方法を1とすれば、詠唱が5で、イメージのみが9である。
まぁ、夜に安全地帯を確保するために前使った魔法など特徴や使用する魔力量などがこの通例に当てはまらない例外も存在するが、一般的に魔法の特徴はそんな感じとなっている。
俺は一番理想的とされる想像による魔法の行使が出来る。
だが、様子見の段階で、それほどまでの魔力を使うわけにはいかない。ドラゴンのような戦闘時、短期決戦を望む場合はそれを迷うこともなく使うが。
そんな俺の思惑のもと、俺の目の前に生じた複数の火球はまるで空を舞う鳥のように力強く飛び立っていく。
目の前の開けた空間、それを全て照らせるように。
そして、俺は見る。
開けた空間の全貌を。
開けた空間は非常に広かった。奥行にして、だいたい五百メートル。形状としてはドーム状になっており、天井までの高さは二百メートルはありそうだ。
結局、その空間内にランタンとかを置いていない所を見るに、専属の魔法使いを連れてきて作業してきたようだ。
それが効率的なのかは、はっきりとは言えないが。
そんな広い空間を蠢く数多の生命。
十数匹の小さな魔物。熱く燃え盛る炎のような煌めく紅の色をした皮膚を持つトカゲ。
襟巻のようなものを備え付けたそれは、俺たちが目的としているサラマンダー。
そして、その多くの群れの真ん中にいるのは、一匹の鳥。
暗闇に紛れてしまえば、すぐに見失ってしまいそうなほどの黒に覆われた鳥。大きさにして、三メートル近くあるそれを覆うようにして何か禍々しいオーラのようなものが見える。
鶏のような姿。
頭にある鶏冠は鋭く尖り、黒光りし、刃物か何かのように映る。
そして、地面につけられた足は普通の鶏とは違い、非常に筋肉質なもので、ハイゴブリンに負けずと劣らぬ力を出しそうである。
かの魔物は、石化ブレスを放って、生物を石化させるという特殊な力を持つ。
だが、石化ブレスを吐く前には大きく息を吸い込む必要があり、その際に石化ブレスという特殊な息を吐くことによる体内器官の変化によるものか、大きな音がする。
ゴロゴロと石でも転がしたかのような独特な音。
だから、それにさえ、気を付けていればいいだろう。
そう、確かに、そんなコカトリスのはずだ。
だが、普通のコカトリスではない。
普通のコカトリスは、見た目の色に関しては本当に鶏なのだ。
だから、鶏は巨大化したらああなるだろうと思えるのがコカトリスなのだ。
しかし、これは皮膚の色からして明らかに違う。体の造形からして、コカトリスなのだということは分かるが。
「黒化してる……」
突然、エイダが呟いた。
俺の知らないこと、その答えをエイダは知っているようだった。
「黒化って……」
俺がその正体について聞こうとした、その時。
「ギャォォォォォ―」
コカトリスの咆哮が耳をつんざいた。
開戦の幕開け。
コカトリスは明らかにこちらをにらんでいた。つまりはそういうことなのだろう。正直、エイダに黒化というのが何なのか聞きたいところではある。
だが、そんな余裕はない。
魔物の群れ。
それが大きな地響きを行しながら、移動し始めていたから。




