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暗闇を照らす明かり

「思ったよりも広い上に、生物も多そうだ。ここで素直に突入というのは相手からは俺たちが見えて、俺たちから相手が見えないという非常に不利な状態になる」

「ですね。この広い空間を照らせれば……」


 元来た坑道の横穴へ引っ込んだ俺たちは話し合っていた。

 勿論、蠢く生物がこの横穴に入り込んでくるかもしれない、そんな危機感から俺は右手に高周波ブレードを握りながら。


 先ほどから続いていた、足音による地響きは何事もなかったかのように小さくなっている。


 だが、それはそこにいたはずの何かがどこか遠くに消えていったのとは別だ。


 息遣い。


 俺とエイダは当然、呼吸をしているわけだから、存在するのは分かる。だが、それ以外にも、別の生物の息遣いが聞こえる。


 いくら静かであろうと、少数の生物の呼吸音であれば、聞こえなかったであろう。

 それが聞こえているということは、おそらく、まだ多くの生物が近くに潜んでいる。


「ああ、そうだな。はっきりと何がいるか分からないが、万が一戦闘になったら光があるのとないのとじゃ戦いにくさに天と地ほどの差がある」

「ここも鉱夫さんの働く場所の一つだったんですよね、たぶん。だったら、元々ここで働いていた鉱夫さんはどうやってこんな暗い場所で作業をしていたんでしょう。道中は、ランタンがあったから分かりますけど」


 道中にランタンがあったのなら、こんな広い場所にランタンがない理由がない。


「確かに、妙だ」

「こんな広すぎる空間、特にこんな真っ暗じゃ作業なんて出来たものじゃないでしょう」


「ああ、そうだ。だとすると、何かあるのか? それとも、専属の魔法使いでも引き連れて、魔法で作業時間中ずっと照らしていたのか?」


 俺たちは、魔力の無駄になるからと選ばなかった方法。


 古いやり方と新しいやり方。

 松明という人間が生まれ、火と接触した時から始まる太古の方法と魔法という人間の新たなる力に気付き、始まった方法。


「どうなんでしょう。けど、専属の魔法使いを連れてくるぐらいなら、そもそも道中にランタンなどを配置しなくてもいい気がします」


「確かにそうだな。だとすると、あの広い空間の真ん中にもいくつかランタンとか、火をともせる場所を用意しているはずだ。だが、松明を投げてみて、見えた範囲にはそんな物が全くなかった」


 何かいるかもしれない、そういう思いで松明を投げたとき、ずっと松明が照らす範囲を見ていた。


 だが、なかった。


 それに、何かがおかしい。

 照明がないことだけではなく、他にも何かが引っかかる感覚がする。


「あとあるとすれば、天井? それとも、他の壁?」

「どうだろう。だが、確実に言えることは、その照明を何とかするのが手っ取り早い攻略になるだろうということぐらいか」


 何なんだよ。何がおかしいんだよ。

 心の中で、自分自身の感じる違和感に対する葛藤が始まりを迎えた、その時。


「そう……ですね。今気づいたんですけど、もっとおかしいことがあります」


 エイダが突然、そんなことを言った。

 だが、それは俺の葛藤を解決するような答えを持つかもしれないモノで。


「おかしい? 何が?」


 だから、先ほどまでにないほどに、すぐ言葉を返す。


「何かがいるのは分かりました。そして、こちらの存在に、その何かは気づいていてもおかしくないはずです」

「……追ってこないのはおかしいな」


 言われてみれば、そうだ。

 なんで気づかなかったんだよ。


 頭の中にあった靄が晴れていくのを、俺ははっきりと感じた。

 まるで、雲に青空を隠されたその場所に一筋の光が差し込み、そこから徐々に明るくしていくかのように。


「そう。気づかれているはずですよね」

「ああ、こっちはこっちで投げた松明とは別の松明を持っているんだ。投げた松明に対して、あれだけ反応を示したということは、光に反応できる感覚器官は持っていると考えるべきだし」


「じゃあ、なんで、こっちに来ないんでしょう。光に弱いとか?」


 エイダは冴えている、そう思った。

 俺の思考が回っていない、回りきれていないところを的確にカバーしてくれている。


 旅についてきてくれて、良かった。

 性格も良く、思考も鋭い、そんな彼女を。


「それだ。最初に松明を投げてからの足音と今現在の足音を比べると、明らかに今現在生じている足音の方が小さい」


「松明という突然の光に照らされて、最初は驚いて逃げた。だが、今は松明からの光をそこまでの脅威と思わないような距離に離れた、もしくは、その光に慣れたんだと思う」


「うーん、でも……」


 渋る彼女。

 まだ何か考慮すべき点があるのだろう。

 いや、だろうというより、考慮すべき点があること自体、俺にも分かっている。


 だが、ここで悩み続けてもわからない点と言うものはある。


「推測は出来る。なら、それを実証すればいいだけの話さ」


 そう、あとは俺の出番だ。

 そんなことを思いながら、俺はにやりと笑った。


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