魔法というもの
この世界には魔法がある。
と言っても、全ての人が等しく魔法を使えるわけではない。
魔法は不可能を可能にするものの、技術と同じように、才能も求められる。
技術は人に便利な物を与える。
コンピュータなんかがいい例だろう。
あれは、人々に検索機能だとかレポート作成用の機能だとか様々な機能を与えて、人々の日々の生活をサポートをする。
だが、典型的なものではなく、特殊なものをするときはどうだろうか。
非常に多くの演算をさせて、シミュレーションをするときはどうだろうか。
そういうソフトがあればいいが、なければ、自分で作るしかない。だが、人によっては効率の良いプログラムを作って、処理を五分で完了するプログラムを作る人もいれば、効率が悪いプログラムしか作れず、結果三十分も処理にかかってしまうプログラムを作る人もいる。
これはプログラミングという技術の一例だが、他にも色々ある。
これと同じこと、それが魔法でも言える。
典型的に人々がよく使うような魔法、例えば、火を起こすような魔法や身体強化だとかはテンプレートとして存在している。
だから、ほぼ誰もが、その魔法を使うことができて、その恩恵を受けることが出来る。
だが、その典型に当てはまらない魔法。
たとえば、俺がドラゴンと戦う時に使ったような銃弾に対して加速の魔法をかけて、撃ち出すといったような魔法。
それは誰しもが使えるわけではない。
魔法を使うために必要とされる魔力、そして、魔法を編み出す才能。
それらが必要となる。
プレイヤーはその才能の部分をレベルを上げるという行為で補っているが、この世界に元々住んでいる人々の多くは独学で極めている。
それゆえに、俺の周りにいる者たちは全て優秀な魔法使いということになる。
アルバートはβテスト時代から知る熟練の魔法使い。
エイダは俺の右腕を驚くほど速く修復した、回復系の魔法使い。
そして、この場にいる三人は、先ほどの俺自身見たこともない魔法、すなわち、彼ら自身の手で編み出した魔法を使っているわけだから、どの分野かは、はっきり分からないものの、熟練の魔法使いだろう。
「では、私は少しばかりこの場を離れさせてもらうよ。少々、この後商談を取り付ける予定が入ってしまってね。それと、一つよろしいかな、君たち」
「なんですか、アルバート様」
「今回の開発。私はとても興味があってね。出来れば、その開発についてレポートを作成することを許可してほしい。勿論、私とこの三人の閲覧しか許可しないし、私が責任を持って、その情報を守る」
俺はアルバートの瞳を見つめる。
その瞳にあったのは、子供と似た純粋な知識欲。面白そうなものを知りたい、まだ見ぬ物の完成を見届けたいという思い。
「いいですよ。ただし、必ず、その情報は守り抜いてください」
ただの貴族や商人だったら、俺はその許可を出さなかっただろう。
ただの魔法使いだったら、俺は許可を出さなかっただろう。
だが、目の前にいるのは、俺がβテスト時代にお世話になった老紳士で、魔法を熟知した魔法使い。
彼が守ると言っている以上、それは信用できる言葉だ。
「うむ、このアルバートの名において、誓わせてもらう。ありがとう」
その老紳士は、俺に向かって、頭を下げる。
それは彼なりの最大の感謝の表れ。そして、その言葉に嘘はないという意味を持つ行動。
彼は名の知れた商人であり、熟練の魔法使い、そんな彼がここまで深々と頭を下げるというのは滅多にあることではない。
「いえ、いいですよ。私たちはあくまでアルバート様に資金援助をしていただいているのですから」
「では、そろそろ私は行かねばならない。アイリス、これから毎日、彼らの開発についてレポートにまとめて、夜十一時までに提出を頼むよ」
「はい、分かりました。旦那様」
そうして、彼は去っていく。
また一つ新たな商談を取り付けに。
だが、そんな彼の去り際に見えた口惜しそうな表情は見間違いだろうか。
もし、見間違いではないのだとしたら、それほどまでに彼がこの開発に興味を示しているということになる。
あの老紳士が、他の商談に割く時間を惜しいと思うほどに、期待しているということになる。
それは嬉しい。
嬉しいのだが、成功させなければならないという責任感を俺に強めさせる。
しかし、それは俺にとって心地よかった。
久方ぶりの開発。
それは俺にとっても楽しみであり、その責任こそが技術者で何かを作るという意識を高めるのにちょうど良かったから。




