三人の従者
別館。
中に入ると、そこに存在した空間は異彩だった。
様々な光が飛び交っている。
毒々しい紫色をした一本の直線的な光。あたりに徐々に広がっていくクリアブルーの光。ドラゴンのモノと負けずと劣らない紅蓮の炎。
それらは全て魔法だと分かる。
中には命を奪いうるような攻撃の魔法が含まれているのも分かる。
だが、俺は綺麗だと思った。
こんな呑気で平和ボケした感想で、大丈夫なのかと疑われそうだが、俺はただそう思った。
言うなら、花火とでもいったところだろうか。
その光景に、俺はおろか、この世界に元々住んでいるエイダですら、魅入られていた。
「アイリス、グレイ、リーナ。私の後ろに続いている二人は、昨日話した通り私の客人であり、取引相手だ。彼らを手伝いなさい」
だが、老紳士だけは違った。
何にも驚いていないかのような口調で、言葉を紡ぎだしていくその様は、彼がこの世界で長年生きた魔法使いである証拠なのだろう。
彼が声をかけた途端、先ほどまで見えていた光は、まるでろうそくの火に息を吹きつけたかのように、パッと消えた。
そして、それと同時に奥の方から三人の人間が現れる。
それに気づいて、俺は改めて部屋を見回す。
魔法が輝いていただけではないその異彩な部屋。
天井はだいたい十メートルほどあり、百メートル四方の広さはあろうかという部屋。
窓は様々なところにあるものの、開けるために必要なはずの足場がない。
代わりにとでも言わんばかりに、多種多様な本が置かれた本棚や、金属や木材といったような様々な素材が詰めてある箱が置かれている。
どうやら、この別館はこの一部屋のみしかないようだ。
これだけの広さなのだから、当然と言えば、当然なのだが、正直驚くばかりである。
俺はこの館に初めて来た。
と言うか、俺がアルバートの屋敷の中で入ったことがあるのは、昨日取引をした本館ぐらいである。
βテストのときも。
「おはようございます。旦那様」
そして、奥から歩いてきた三人は、一拍も遅れることなく声を揃えてそう言葉を口にする。
一人は、燕尾服を着た青年。
混じり気のない白に少し黒を混ぜたことによって出来上がるあっさりとした灰色。そんな色をした短髪で、細身の彼はニッコリこちらを見ている。
そして、他にいるのは、メイド服と呼ぶのがふさわしいであろう服を着た二人。
どちらも、年齢は二十歳前後といったところ。
一人はウェーブのかかった黒い髪を自分の胸のところまで垂らし、前髪は目の部分にかかることなく、顔の流れに合わせて切りそろえられている。
そんな彼女は、女性にしては長身の、だいたい百七十センチはあろうかと言う身長。
どこかお姉さんとか姉御という言葉が似合いそうな雰囲気を醸し出している。
そして、もう一人は、雲一つない青空を想起させるような青色で、ボーイッシュな髪型をしている。
失礼だろうが、彼女は体つきもどこか男に似たようなところがあり、胸による凹凸も小さく収まっている。
「僕はグレイと申します。よろしくお願いします」
「私はアイリスと申します。よろしくお願いします」
「私はリーナです。よろしくお願いします」
順に、灰色の髪をした青年、セミロングの黒髪の女性、青色のショートヘアの女性である。
「私は、一条蒼真です。よろしくお願いします」
「私はエイダです。よろしくお願いします」
礼儀正しく言われたので、俺とエイダ、共に同様の礼儀正しい、言い換えるなら、堅苦しい自己紹介を交わす。
「彼らが私たちを手伝ってくれるのですか?」
「ああ、そうだよ。面白そうでもあるから、手伝えるなら、私自身が手伝いたかったのだが、そこまで時間の余裕がないのでね」
「でしたら、一つよろしいでしょうか」
「なんだね?」
「話がしやすいように、堅苦しい言葉づかいを私たちの前ではやめていただきたいのです。おそらく、様々な連携が必要になるでしょうし、そちらの方が作業効率が上がるかと思いまして」
「ふむ、良いだろう」
そして、老紳士は三人の方を振り向いて、
「聞いていただろう。二人の前では堅苦しい言葉づかいはやめなさい。その上で、彼らに協力をするんだ」
そう言い放つ。
「分かりました」
そして、またも同時に、三人の声が響き渡ったのだった。




