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老いた魔法使い 兼 商人

 鉄の門。


 でかでかと構える無機質な門。そして、その近くには、昨日と同じように、一人の戦士が無言で立っている。


 俺とエイダはそんな門がある目の前に来ていた。

 時刻は十時になろうかという頃合いである。


 ちなみに、昨日の朝のような出来事は起こらなかった。

 まぁ、ベッドも違うわけだから、当然っちゃ当然なわけだが。


「来たか、君たち」


 その門が開かれる。

 巨大な鉄の門。それは開くのにとても大きな力を必要とする。


 よくよく見てみれば、内側から一つの扉に対して、一人ずつ大男が門を開いているのが分かる。


 響き渡る金属がこすれる甲高い音。

 それは、俺の意識を切り替えさせる。


「今日からよろしくお願いします」

「よろしくお願いいたします」


 俺とエイダは老紳士の姿を視界に収めると、すぐに一礼をした。


「フォッフォッ。いいぞ、そんな礼節など。私は、君たちの実力を見たい。ただ、それだけだ」


 ぞわりとした。

 それは恐怖によるものではない。


 威圧感。

 老紳士は、まさに獲物を見定めんとする目で、試すかのような言葉で、俺たちにプレッシャーをかける。


 そう、彼はこういう者だった。

 どこか、宮本正邦に似ている。


 新しい物、面白そうな物、技術、それらに対する心の持ちよう。

 それに対して行うことが出来る支援はする。ただ、それの真価に対しての見定めは、厳しい。


「楽しみにしていてください」


 俺はそんな軽口をたたいてみせる。


 プレッシャーに負ける、そんなことでは進めない。宮本正邦の背中を追う中で、幾度となく、乗り越えて来たじゃないか。


「うむ。楽しみにさせてもらうよ」


 そう言って、老紳士は顔色一つ変えることもなく、俺に背を向ける。


「ついてきなさい。工房まで案内しよう」


 彼は一人歩いていく。


 その足取りに、老化の影は見えない。彼は商人であると同時に、この街でも随一と言われている魔法使いなのだ。


 護衛として戦士が数人、この屋敷にいるが、その誰であろうと、老紳士を打ち負かすことはできない。


 護衛役が護衛対象より弱いというのは少々まずい気もするが、それだけ老紳士が強大な力を持っているのである。


 現に、俺との取引の際、会議室には俺とエイダという見知らぬ二人を招いていたにもかかわらず、彼一人しかいなかった。


 とはいっても、護衛が意味をなさないというわけでもない。


 老紳士自身強いと言っても、そこそこの実力者が彼を複数人で襲い掛かった場合は、少々手間がかかる。


 同時に数人を相手取るというのはそれ相応の実力差がなければ不可能だ。


 もし、その実力差が用意出来なかったとき、その時は、護衛である戦士たちも意味を成すというわけである。


 あくまで、一対複数から一対一といったような組み合わせにすることで。


 そのような理由から、俺は護衛の任務に一カ月も就いていたのだから、それについては確かである。


 正面に見える屋敷の方には進まず、彼は鉄門から見て右側へと進んでいく。


 彼が進む先、そこにあったのは別館だ。

 別館と言っても、屋敷に比べて華やかさに欠けるなどということはない。


 美しい彫刻を施した壁。

 そのそばに添えられた花々。


 白の大理石の壁と赤の華、それらが上手く強調し合い、互いを引き立てあう。


 その別館の白い大理石の扉の前で、老紳士は一度立ち止まる。


 そして、彼は右手を突き出し、その扉に触れる。

 触れたかと思ったら、彼は流れるような滑らかな手つきで、幾何学的な模様を描いていく。


 魔方陣か。


 老紳士が触れた箇所に淡いグリーンの輝きが灯される。


 魔法。


 それにおいて重要なのはイメージだというのは変わらないが、発動方法には様々なものがある。


 呪文を唱えるもの、魔方陣を描くものなどといった具合に。


「これで、いいだろう」


 そう言って、老紳士は指をすっと払い、魔方陣を完成させる。


 その証拠に、魔方陣が一気に輝きを増した。その輝きはあまりの眩しさに、一瞬目を閉じたほどである。


 速い。

 描かれた模様は、複雑怪奇なもの。だが、全体として見てみれば、どこか整った美しさを感じさせるもの。


 今目の前で行われたのは、俺の元いた世界で言うなら、A4レポート用紙一枚を余すことなく、書き記したようなものである。


「すごい…」


 エイダがそう感じるのも無理もない話。

 昔に見たときもそうだが、アルバートには驚かされる。


「この工房を材質から強化した。どこまでの実験を行うのかは分からないが、これでこの工房が壊れることはないだろう。では、入ろうか」


 アルバートはその手で扉を開いて、別館の中に入っていく。

 俺たちはさも当然のごとく行われた巧みな業に驚きながらも、後に続いていったのだった。


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