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技術者

「さて、始めようか。一つ質問なんだが、いいか?」

「なにかしら?」


 アイリスという女性が質問に答えようと返事を返す。


「ここにある資材は自由に使ってもいい物か?」

「ええ、そうよ。自由に使ってもらって構わないと旦那様から言われているわ」


「なら、とりあえず、材料を集めようと思うんだけど、取ってきてもらっていいか?」

「分かった。何をどれぐらい取ってきてほしいのか言ってくれれば、取りに行くわ」


 その返事が得られてから、俺は頭の中で、再度整理する。

 どれくらい、そして、どんなものが必要なのかを。


「まずは、鉄。棒形状のモノが好ましいな」

「棒形状のものはどれぐらいの長さで、どれぐらいの太さのものがいい?」


「そうだな。とりあえず直径二センチ程度のものと三センチ程度のもの、そして、四センチ程度のモノの三つで、長さは短すぎなければ別にどうでもいい。どうせ、自分たちで加工するから」

「分かった。グレイよろしく」


「OK。では、行かせてもらうよ」


 そう言って、彼は跳ぶ。

 地面を蹴り飛ばして、一気に部屋の奥の方へと向かって。

 その様は、跳ぶというよりは飛ぶという方が近かったかもしれない。空気を蹴り飛ばして、彼は空中でも方向転換を成している。


 彼の足元から放出される、植物の新芽の持つような明るい緑に似た光。

 それは魔法が発動したことを示す残滓。


「上手いな。あれだけの魔法は、ただ単に知識があるだけでも、魔法の心得があるだけでもいけないはずだし」


 俺は思わずそう呟いた。

 彼が行っているのは疑似的な飛行である。


 遠目で見ただけでは、魔法の詳細は大まかにしか予想できないものの、それはすごいものだということだけは確信を持てる。


 魔法によって発生している光の量もほんの少しということから、最小限の魔力を使って魔法を発動しているということは窺える。


 そうして、彼が向かったのは積み重なった箱の集まり。

 そこには隙間から所々、金属の棒などが見え隠れしていた。


「見ただけで分かるのね」


 そこにリーナが話に入ってくる。


「ああ、俺もそこそこ魔法を嗜んでいるから、見たら分かるさ」

「そう。なら、さっきの紫色の魔法が何か分かってる?」


「まぁ、大まかな予想なら立てられているが、言った方がいいか?」

「あっているか、聞いてみたい」


「紫色の一筋の光、あれは致死性の高い毒の魔法の一種だな。おそらく、あれに体の一部が貫通でもされたら、体内に毒が送り込まれると言ったところだろう。そして、おそらくは金属や大理石などと言ったような物に対してはほぼ無害じゃないか?」


 その顔に、俺の目の前にいた二人の顔が一瞬で変化した。

 今自分が見ている目の前の相手が嘘か何かのように、疑うかのごとく。


「驚いた。確かにそう。でも、見ただけでどのような魔法か見抜くなんて、嗜んでいるというレベルでは出来ない。特に、あれはアイリスのオリジナルだし」

「やっぱり、オリジナルか。見たことないからそうかと思ったけど」


「旦那様があなたに興味を持つ理由、分かった気がする」

「そうね。半信半疑でもあったけど、私も確信したわ。あなたが普通の人ではないってこと」


 その言葉は胸に刺さる。

 普通の人ではない…か。


 確かにそうだとは知っている。分かっている。俺はこの世界の住人ではない。この世界とは別の世界から来た一人の人間だ。


 だからこそ、そうだと自分自身理解していても、言葉にされると心に来るものがある。


「まぁ、旅を続けているうちに、そんなふうになっただけさ」


 俺は言い放つ。

 堂々とした態度を崩すことなく。


「あと、魔力を通す線材も頼む。長さは割と長めで、だいたい二十メートルほどは欲しい」

「いつかあなたには話を色々聞きたいわ。興味深いし。さて、じゃあ、リーナ、魔線をお願い。あと何か必要な物は?」


 魔力を流す線という意味で、魔線か、なるほど。

 やはり、この世界にはそういうものがあったか。


「非常に薄い膜。振動しやすいものを数枚。最低二枚以上、大きさは問わないけど、小さすぎるモノじゃなければいい。その他は順々にお願いしていくから、取ってきてほしい。量が必要な物はあるから、一気に言うのもまずいと思う」


「ええ、そうしてもらえると助かる。じゃあ、私もとりあえず取ってくるから、待ってて」


 そう言って、俺とエイダは二人取り残される。

 他の三人は誰もがこの場所を良く知る者たち、俺たち二人のような何も知らない者が下手に動くべきではないだろう。


「蒼真、楽しそうですね」


 ふいに、隣にいたエイダにそう囁かれる。


「まぁ、そうだな。やっぱり、これは楽しい」


 技術者。

 宮本正邦の失踪から一時期離れてはいたものの、どうあろうと、やはり、俺はこれが好きみたいだ。


 いつしか、宮本正邦という人物と同じように、切っても切れないような関係になっていたようだ。


 生涯続けていきたいとすら思える。

 わくわくする。


 責任といったリスクがあるのは分かってはいながらも、こう思える自分に俺は苦笑いを浮かべた。


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