008.迷考察
セイラ・バファイ・リンドバーグ。
濃紺の髪を金色の髪留めを使って纏めている、十六歳の少女。
容姿は、王族の美形に慣れるとあまり感じられないが、かなりの美少女と言っていい。藍色の瞳、高い鼻、健康的に色付いた唇が全て整っているのだ。
そして何より目を惹くのが……いや、ごめんね? 本当に気持ち悪いと思う。でも言わせて。
バストが理想的。
まさしく、私のなりたいバストそのままだ。
……転生して以来、こんな事ばっかり言ってる気がする。母様もセイラも、胸が大きいのが悪いんだ。
* * *
そして始まった、セイラとの生活。はっきり言って同居だ。
私を直接お世話する侍女は、セイラ以外にいない。掃除や料理をする人はいるが、その人達は必ず私に近づかないのだ。
やっぱり赤い目のせいか、と気分が悪くなる。人を見た目で判断するなって話だ。さっき巨乳云々語ってた私が言えた義理じゃないけど。
そうだ。私の容姿なのだが、最近ついに判明した。というのも、前の母様との部屋には鏡がなかったのだが、私の区画には鏡がたくさんついているのだ。
まあ大体は母様や兄様とそっくり。瞳の色以外は。
母様や兄様は綺麗な青い瞳だが、私は赤。それも、血のような鮮やかな赤だった。鮮血王女というネーミングも、的外れではないだろう。それを蔑称に使うのは不快に感じても。
気になるのは、これが誰から遺伝したのか、だ。
父様の瞳は萌葱色、母様は青。親からではない。
まず、母様が浮気した可能性。しかしだいぶ低いだろう。
なにせ、散々キースさんとの子供が欲しかったと零していた母様だ。浮気するとしたら相手はキースさん以外にはありえない。だが、もしそうだったらあんな愚痴を言う事はない。
次に、先祖返り説。だがこの線も薄いと思う。
仮にそうだとしたら、この二年の間に一回くらいはそういった話を耳にしてもいいはずだ。だが、私は聞いた覚えがない。
他には……うーん。もういっそ、みかん箱に入っていたか崖の下で拾われた可能性の方が高いかもしれない。
せめてこの世界についてもっと詳しくなれればと願うが、二歳児という身分ではなかなか難しい。他の人に聞く訳にもいかないし、本を読む訳にもいかない。そもそも字を覚えてないし。
こういう時はほんと、二歳である事を悔しく思う。
もし私に自我があってもおかしくない年齢なら、色んな事が出来た。赤目だって嗤う人達を、思い切り怒鳴りつけてやる事も。人によっては何もしなくていい赤ちゃんライフを羨むかもしれないが、全く楽しくない。
何も出来ないのだ。
本を読むのも人と話すのも、料理する事も出来ない。理不尽を怒る事も出来ない。
普通に暇すぎるし、それに周りの人に申し訳なく思ってしまう。
兄様や姉様は頻繁に私の元を訪れ、いろんな話をしてくれるのだが、私には相槌も打てない。そのたびに罪悪感が生まれる。
もちろん、転生した事実を暴露する事はできる。けど会話する二歳児なんて、そんなのもはや都市伝説。学校の七不思議に載りかねない。
だから言えないし、言わない。
私だって、"鮮血王女"の上に"話す二歳児"の別称を重ねたくはないし。
話を戻して。
私が赤目な理由は、どれだけ考察しても分からなかった。今はもう異世界だからと考えている。間違えた。考えを放棄している。
なにせ染めてもいない、天然ものの濃紺の髪が普通に存在する世界だ。何の脈絡もなく赤い瞳が生まれてもおかしくない、はず。しがない元理科教師の卵には分からない、凄いメカニズムが働いているに違いない。
そうだ、話をもう一段階戻して、セイラについて。
彼女はかなり凄腕の侍女だと思う。『優秀と呼び声高いリンドバーグ家の長女』との評価に偽りなしだ。
凄腕の侍女って何だって話だが、家事技能がとにかく高いのだ。家事歴十一年+ブランク二年の私よりも遥かに上だろう。
その上で私のお世話までしているので、もう他の侍女いらないんじゃないかと考えてしまう。……世話されてる立場の私が言うなって話だけど。
まあそんな感じで、セイラは優秀な侍女だ。
今だって、セイラにごはんを食べさせてもらいながら考察している。




