040.異世界王女生活の始まり
Queen's Stabbing:王妃刺殺事件
summoning of the otherworldlyers:異世界人召喚
* Two weeks after Queen's Stabbing *
「そういえば、知っておるかや?」
「なにを?」
「この前、リンドバーグ邸から絨毯型の魔道具が見つかったじゃろう。あれの研究が、王研で進められるらしい」
「王研……王立研究所、だっけ? そこで、異世界人召喚の魔道具の研究?」
「ああ。異世界人は強い力を持つという伝承があるからの。あの魔道具が本当に異世界人を喚び出す類のものならば、魔獣の活動が活発になっている今、役に立つかもしれぬ」
「でも、それって関係ない人を巻き込むんでしょ?」
「ふ、優しい子じゃの。じゃが、必要ならばそうする。それが王族じゃ」
「……納得、出来ない」
* Three weeks after Queen's Stabbing *
「よろ……しく、お願いします、アリアリーシェ、様」
「よろしくね、アージェ」
「アージェ……」
「……やっぱり、慣れないかな?」
「い、いえ、全然! これ……から、アリアリーシェ様、の、ために……一生懸命、働きます!」
「あんまり、気負っちゃ駄目だよ?」
「はい! ……あの、アリアリーシェ、様。ニアム様……の、事……」
「アージェなら気付いてるかもしれないけど、私もセイラと同じ、転生者なんだよ」
「……」
「私、これでも中身は大人なの。だから平気」
「そう、ですか……」
* A month after Queen's Stabbing *
「冒険者登録をしたいの?」
「うん、えっと……」
「受付嬢のブレアよぉ。あなたの名前は……フウカちゃん? ああ、"以毒制魔"オーラちゃんが話してた子ね」
「オーラが?」
「ええ。私も冒険者関係の職に就いてやって長いけれど、オーラちゃんがそんな話をするのは初めてで、驚いたわぁ」
「そう、なんだ」
「そうそう。冒険者登録には、試験を突破する必要があるわ。まあ、彩虹の冒険者が認めた人なら大丈夫だと思うけれど」
「試験……」
「そんなに難しくはないけど、頑張りなさいね」
* Five weeks after Queen's Stabbing *
「聞いたわよ〜。彩虹の冒険者の試験を突破して、"金城鉄壁"フウカになったんでしょ〜? おめでとう〜」
「……なんでオーラが王都に?」
「わたし、定住とかしないもの〜」
「は、はぁ」
「そういえば〜、こないだの襲撃の件なんだけどね〜」
「……なに?」
「あそこにいた魔族が、精神を操る系統の権能を持ってたらしいのよ〜」
「権能って、何だっけ?」
「人間で言う加護の事よ〜。常識よ、フウカちゃん〜」
「そう」
「王妃の刺殺も、もしかしたらその権能のせいで起きたのかもね〜」
「……私がその魔族を殺してたら、王妃様は死ななかったのかな」
「さぁ〜。もう起きた事だし、話しても仕方ないわよ〜。あ、それともう一つ〜」
「……なに? もう帰りたいんだけど」
「すぐ終わるわ〜。リンドバーグ邸の近くにあった林の中にね、魔獣の養育場みたいなのがあったの〜。出てくる魔獣がやけに多かったのは、そのせいよ〜」
「なにそれ……? リンドバーグ家は、それに気付かなかったの?」
「多分、そういう事ね〜。管理不行届で、リンドバーグ家は没落していくんじゃないかしら〜。この前、娘への虐待も判明したっていうし〜。最近、当主の様子がおかしいって噂も聞くもの〜」
「そうだね」
「マーシェちゃんも、虐待されてたなんて……気付けなかったのが不甲斐ないわ〜」
* Seven weeks after Queen's Stabbing *
「あ、ギャレット」
「おや、アリアリーシェ殿下。こんなところで、どうなさいましたか?」
「なんとなく散策してただけだよ。勉強、少し疲れちゃって」
「そうですか」
「……」
「……」
「……父様の様子はどう? ギャレットは、何回か面会してるんでしょ?」
「ええ、まあ。……カルロスは、変わりなくですね。医者曰く、体には異変の一つもないそうで。原因は不明との事です」
「そっか……。ギャレット、ちゃんと寝てる? クマ酷いよ」
「はは……。国王不在のうちにと、権力を得ようとする者達が多くおりますからね。宰相である私がその対処に動かなければ、本当に王権交代が起こってしまいます」
「そう」
「幸い、カーティス殿下も成長なさって、権力に群がるハエ共を散らすのに協力していただいておりますので、少しはマシですよ」
「……貴族の前でハエとか言っちゃ駄目だよ?」
「おっと、これは失礼いたしました」
「疲れてるっぽいね。少しは寝た方がいいと思うな。私も勉強して、手伝えるようになるから!」
「それは、楽しみですね」
* Two months after Queen's Stabbing *
「……あ」
「神様に頼んで、父様を目覚めさせればいいだけじゃない」
「私、馬鹿すぎ……」
「そうと決まれば。神様、お願いします」
「父様をーー」
『奇跡は、自分のために、使いなさい』
「……」
「……無視すればいいんだよ」
「無視しちゃえば、いいのに」
「なのに……」
「……」
「私、本当に、馬鹿……」
「……どうせ今父様を起こしたって、また襲われて植物人間になるだけだよ」
「だから、やらない方がいい」
「やらない方が、いいんだ」
* Six month after Queen's Stabbing *
「……久しぶりだね、アリアリーシェちゃん」
「……お久しぶりです」
「やだなぁ、敬語なんてやめてよ。僕にはタメ口で大丈夫だから」
「……ん、分かった、キース」
「……」
「……ごめんなさい、その……」
「ニアムちゃんが死んだ事?」
「!」
「アリアリーシェちゃんが謝る事はないよ。一番辛いの、アリアリーシェちゃんでしょう?」
「……それでも、キースが辛くないって事はないでしょ?」
「っ」
「……」
「……。大人の、気遣いは……素直に、受け取っておくべきだよ」
「キース……」
「っ、うー……っ。君にこんな事言うのっ、変だと思うけど……」
「……うん」
「ニアムちゃんの事、好きだったよ……」
* Two years after Queen's Stabbing *
「えい! やー!」
「元気だね、ヘイスティングス」
「元気すぎて困りますわ」
「あはは……。でもお姉ちゃんとしては、元気な方が嬉しいよ」
「うー! しゅぱーん!」
「何の真似してるの?」
「この前、わたくしの故郷である虎獣王国に行ったのですわ」
「里帰り……そっか、もう加護は発現してたもんね」
「ええ。それでその最中に、魔獣の群れに襲われましたの。その時に助けていただいた、"金城鉄壁"の真似だと思いますわ」
「……へ、へー。そうなんだー。こんな動き、してたっけ……おほん、してたの?」
「うん! かっこよかった!」
「ふーん?」
「僕もいつか、あんなふうになりたいな」
「……悪い気は、しないかな」
* Five years after Queen's Stabbing *
「フィオレンサ姉様、近衛騎士隊長の叙任おめでとう!」
「ふふ。ありがと、アリアリーシェ」
「父様からの叙任じゃなかったのは、残念だったかもしれないけど……」
「そんな事ないぞ。宰相にしてもらうのも楽しかった。そもそも誰に叙任されようと、やる事は変わらないしな」
「姉様らしい。あ、そうだ、これお祝いのプレゼント」
「わ、嬉しい! 開けていいか?」
「いいけど、開けながら聞くのはやめよう?」
「これ……髪飾りか?」
「うん。姉様って飾りっ気もないし、いいかなって」
「つ、使うかな……」
「……まあ、特別な時だけでも付けてくれたら嬉しいな」
「うん!」
「ちなみにカーティス兄様には何か貰ったの?」
「うん。髪飾りを」
「き、気が合うね……。プレゼントを渡される時、兄様にはなんて言われた?」
「いや、直接渡されてないから、特に何もないぞ」
「え? 意外……。忙しいのかな?」
「……まあ、そうなんじゃないか?」
* Six years after Queen's Stabbing *
「アリア姉様……魔獣って、なんでいるの……?」
「クリスティーナ? なんで、こんな夜中に?」
「だって、最近、魔獣がいっぱい出るんでしょ……? ねむれなくって……。なんでかみさまは、魔獣をけしてくれないのかな……」
「……神様にも、事情があるんだよ。大人の人間がなんとかしてくれるから、クリスティーナは心配しないで寝なさい」
「でも、その大人の人たちも、死んじゃってるんでしょ……?」
「……ほら、"金城鉄壁"って知ってるでしょ? あの人とかが、きっとなんとかしてくれるよ」
「そうなの……?」
「うん。なんとかしてくれる。……なんとか、しなきゃ」
「……?」
「……クリスティーナはもう寝なさい」
「ん……。わかった……」
* Seven years after Queen's Stabbing *
「アリア姉様!」
「アリスローゼ。どうしたの?」
「見て見て! 今日、家庭教師にほめてもらったの!」
「それ……ザーシェニヴァ語のテスト? まだ七歳なのに、やるんだ」
「ちがうもん、もう七さいだよ!」
「ごめんごめん、そうだね。もう七歳だ。感慨深いなぁ」
「?」
「なんでも。せっかくだし、それを兄様に見せてきたら?」
「ヘイス兄様には見せたよ! あっそって言われた」
「反抗期め……。じゃあ、カーティス兄様は?」
「カーティス兄様? うーん……おいはらわれないかな?」
「カーティス兄様は、そんな事しないよ」
「じゃあ、行ってみようかな……。カーティス兄様とはあんまり話さないから、どきどきする!」
「……そう、なんだ?」
* Eight years after Queen's Stabbing *
「ただいまアウル! 疲れた!」
「お疲れ様です、アリアさん。ドレス、脱ぎましょうか」
「お茶会とか面倒くさい……イザベラがいなかったら途中で帰ってたよ……」
「成果はありましたか?」
「ん、まあね。国家転覆を狙う人達に釘を刺しただけだけど」
「それでも、結果があったならよかったです」
「あはは、ありがとアウル」
「今日はゆっくりお休みください」
「……でも、明日も貴族との面会があるんでしょ?」
「……」
「目を逸らすのやめてよアウル! あー、王女って面倒くさい! さっさと目覚めろ父様ー!」
* Nine years after Queen's Stabbing *
「おー、すげぇクマだな。笑える」
「…………誰だっけ?」
「パーシヴァル・デューリュ・グランデンバルグ! てめー二週間前に会ったやつの顔忘れんのか? アホだな!」
「君みたいな放蕩息子とは違って、私には覚える事がたくさんあるんだよ。こんなくだらない顔なんて覚えてられないし」
「黙れ鮮血王女が」
「はぁ。どこぞのグランデンバルグ公爵家が、やたら権力に執着しててさ。昨日は当主に面会して、夜遅くまで牽制してたの。おかげで寝不足」
「おーおー、御苦労な事で。クマの消し方、教えてやろうか? 対価は貰うけどな」
「なんでそんなの知って……あーやっぱ答えなくていい。黙ってて」
「昔陛下に教えて貰ったんだよ。はっする? しすぎた時のためにって」
「父様、何教えてんの……。あと、ハッスルの発音が怪しいけど、意味分かってる?」
「分かってるに決まってんだろ」
「じゃあ何?」
「……こんな女と話すとか、時間の無駄だな。オレ、帰るわ」
「あっそ。じゃあねチビ」
「……っ! 決闘だ!」
「今? はぁ、本当に思いやりが出来ないね」
* Ten years after Queen's Stabbing *
「あ、イザベラ! 久しぶり!」
「アリアリーシェ殿下。こんなところで護衛も付けずうろちょろと、何のおつもりで?」
「いやー、気晴らしというか。ちょっと、嫌な事があって」
「嫌な事……。そういえば昨日、魔物の被害者が千を超えましたわね」
「……さすがイザベラ」
「アリアリーシェ殿下が分かりやすいせいでしてよ」
「やっぱ、冒険者だけで防ぐのには、無理があるよね……」
「その冒険者にも、犠牲が大きいと聞きましてよ」
「……"金城鉄壁"でも、防ぎ切れない、よね……?」
「? どんな返答を期待しているのか存じ上げませんけれど、無理がありますわ。例え不眠不休で働かせたって、一人じゃ限界がありましてよ」
「…………うん。そうだよね。分かってる」
* Two days before the summoning of the otherworldlyers *
「アリアリーシェ」
「……あれ、兄様? なんか久々だね。どうしたの?」
「昨日、魔物による犠牲者が五千を突破した。聞いてるだろ?」
「……うん」
「このまま手をこまねいていたら、人類は魔族に敗北する。それも分かるな?」
「分かってる」
「だから……」
「異世界人を召喚しようって?」
「……ああ。昔リンドバーグ邸で見つかった魔道具、もうほとんど解析が出来ているらしい。あれを発見したのはお前だろ? 念の為、意見を聞いておきたい」
「私は正直、やりたくない。そんな誘拐みたいな真似……でも」
「……」
「このままじゃいけないのも、分かるから……一日、時間ちょうだい。考えさせて」
「……分かった。だが、五千だ。お前が悩む一日の間に、五千の命が消えている」
「……知ってるっ」
「そうか」
「……」
「……昔、ユーガットで貨車の見学をした時に、暴走馬車の話をした事を覚えてるか?」
「あったね、そんな事」
「それと同じだ。世界を救うために、少数を犠牲にする。……五人を助けるために、一人を生贄に捧げる」
「……もし私が……」
「悪い、聞こえなかった」
「……なんでもない。明日、結論を出すよ」
「ああ。……悪いな」
* Eight hours before the summoning of the
otherworldlyers *
「……もし私があの時、私の心情なんて気にしてなかったら、母様は今も……」
「魔族を殺す事を躊躇わなければ」
「そうすれば、まだ……」
「……」
** * **
そして、走馬灯が終わる。
これにて第一章完結です。次話からは、かねてより活動報告で触れていた、ニアムの過去編のスピンオフに入ります。全八話構成。ぜひお読みください。
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