表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/49

029.急転


 リンドバーグ邸を一人で徘徊する私は、さっきの事を思い出してぶつぶつとぼやいていた。


「はぁ〜……もう、信じられない……」


 信じられない。頑固なセイラも、その腹いせに家出みたいな事をした私も。

 多分今ごろ、セイラは困っているはずだ。何せ、主に逃げられたのだから。私の目論見は無事成功したと言える。


「これじゃ正真正銘の四歳児だよ……」


 と、とぼとぼと歩いていた私は、


「いっ、いえっ、私は……」

「別にいいでしょ〜?」


 ふとそんな会話を聞いた。

 声の方向を見ると、そこにいたのは二人の女性。


 一人は 少し癖のあるローズピンクの髪と、金の瞳を持つ、二十代中盤くらいの女性だ。何より特徴的なのが、頭に生えた動物のような耳。獣人だろう。

 もう一人は、少女という言葉が似つかわしい、十歳くらいの子供だ。猫背気味で、栗色の髪を銀の髪留めでまとめている。なんだか見覚えがある。


 私は彼女達が気になって、声をかける。


「なんの話?」

「ひゃいっ……」


 肩を跳ねさせたのは、栗色の髪の少女だった。そんなに驚かせただろうか。それとも、私の目の色が原因だろうか。


「今ね〜、マーシェちゃんのお部屋に行きたいって言ってたの〜」


 そう答えたのは、ローズピンクの髪の女性。少女とは対照的に、余裕のある態度だ。


 しかしその内容はあまり笑えない。


「マーシェちゃんって、この子の事?」

「そうよ〜?」

「ナンパ?」

「違うわよ〜? マーシェちゃんも可愛いけど、わたしはやっぱり、かっこいい男の人と結婚したいわ〜。優しくって〜、顔が綺麗で〜、背が高くて〜、安心感があって〜」

「あ、もういいです」


 具体例を挙げだす女性を、私は制する。

 というか、肝心のマーシェはこの間にどこかに消えたし。


「あ〜、マーシェちゃんどこかに行っちゃった〜。……まあいいわ〜、後で探しましょう。そうだ、あなたのお部屋はどこかしら〜?」

「はい??」

「折角だから、あなたのお部屋に連れて行ってほしいの〜」

「教えないよ? 個人情報!」

「それなら、わたしの個人情報も教えるわね〜。わたしの名前はオーラ、職業は薬師兼冒険者で〜……」

「私は教えないから!」


 * * *


 結局連れてきてしまった。


 自分の部屋の戸の前で、私は遠い目をしていた。

 あんな子供っぽい理由で飛び出したのにとんぼ返りなんて、恥ずかしいにもほどがある。


 私がとんぼ返りした原因である女性ーーオーラは「あら〜。ここがそうなのね〜」と呑気に呟きながら、ドアをノックし、

 ……ドアを、ノック!?


「申し訳ありません。今アリアさんは……」

「あら〜? それってもしかして、わたしが連れてる子じゃない〜?」

「はい!?」


 オーラが言った途端、扉がばっと開く。

 そして、藍色の瞳と目が合った。


「……」

「……」

「「……」」


 とんでもなく気まずさを感じていると、オーラが「じゃあ、さようなら〜」と言って去っていく。何がしたかったんだこの人。


「……ええと、おかえりなさいアリアさん」

「……た、ただいま……?」


 こうして、私の初めての家出(?)は幕を閉じた。


 * * *


「一瞬、アリアさんが人質になったかと思いました」


 部屋に入り、セイラがオーラと話した時の心境を語る。

 私は、まだ気まずさを感じていた。


 だって、謎の理由で部屋を飛び出して、一時間どころか5分もしないうちに戻ってきたって、恥ずかしすぎる。黒歴史確定だ。


「オーラさんの話は聞いていたので、今にして思えばありえない事でしたけど」

「……オーラって、そんなに凄い人なの?」


 居た堪れなさを心の隅に押しやり、質問をする。

 セイラが話を聞くほどの有名人なのだろうか。


「確か、冒険者っていう、魔物退治の専門家の中でも最強である事の証……"彩虹"の位を持っているとか」

「へぇ。よく分からないけど、自己申告通り凄いんだね、まだ精神年齢は私と同じくらいだろうに」

「……実は、オーラさんの実年齢は結構高いという噂もあります」

「何歳くらい?」

「それは、私の口からはちょっと……」


 セイラが口ごもる。

 ……三十くらいだろうか?


「というか、オーラの話っていつの間に聞いてたの?」


 私は疑問を抱き、セイラに問う。

 セイラは基本的に私と一緒に行動しているが、私はセイラがオーラの話をしているのを見た事がない。


「ああ、昔一度、マディに聞いた事があったんです」

「マディ?」

「私の母ですよ。ここに来た時、私達を出迎えた人」

「……ああ! あれ、セイラのお母さんだったの!」


 栗色の髪の女性を思い出し、ぽんと手を打つ。

 セイラとはあまり似ていなかったので、親族だとは思わなかった。

 いや、セイラは不義の子だったから……んんん、この思考はよそう。


「お母さんの事、呼び捨ててるんだね」


 考えの方向を変えるため、思いついた事を話す。


「そうですね。私は……」


 セイラが返事をしかけた、その時。


 どたどたどたっ。


 荒々しい足音が廊下から響いた。


 私とセイラは顔を見合わせる。

 ここは貴族邸だ。こんなに品のない足音を立てる人物がいるはずがないのに。


「すみません、少し見てきます」


 セイラがそう言って立ち上がる。のと、同時だった。


「ーー失礼します!」


 激しいドアのノックと共に、先程の女性ーーマディの声が響いたのは。


 * * *


「マディ!?」


 セイラが驚いたように彼女の名前を呼ぶ。

 さっきの話からすると、マディは一介の侍女ではなく、貴族だ。


 それが、あんな足音を立てる?


「どうしたんですか!?」


 セイラが叫ぶと、マディもドア越しに叫び返す。


「一旦部屋に入らせてくださいっ!!」


 マディのただならぬ様子に、セイラは私を見る。

 私は頷いた。


「いいよ、入れて」

「……分かりました」


 セイラはドアを開ける。マディが中に入ってきて、開口一番、早口でまくしたてた。


「アリアリーシェ様、ただいまこの屋敷は魔獣に包囲されています。大変恐縮なのですが、私がお呼びするまで部屋でお待ちいただけますでしょうか」

「…………え?」


 あまりにも急すぎる言葉に、頭がついていかなかった。

 ほうい? それって、あの包囲?


「包囲、って。どういう事ですか、マディ!」

「そのままの意味です。幸いな事に、今この屋敷にはグールドナー様……彩虹の冒険者様がいらっしゃいますので、彼女に頼ればアリアリーシェ様方に危険が及ぶ可能性は低いと思われます」

「それでも、一人じゃ……」

「話を聞いていましたか? グールドナー様だけでなく、近衛騎士団の方々にも来ていただいております。一人ではありません」


 目の前で繰り広げられる、セイラとマディの親子喧嘩。


 私はそれを聞き流しながら、窓に歩み寄ってカーテンをそっと開けた。


 そこにあったのは、無数の赤い光。違う、光じゃない。太陽の光を反射して煌めく、赤い瞳だ。

 そしてその瞳の持ち主は、全部獣ーー魔獣、だ。


 赤い瞳は、魔物の特徴。

 私と同じ色の目が、この屋敷をじぃっと見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ