025.お誘い
「カーティス兄様? うん、入っーーっちゃ駄目」
「えっ」
カーティス兄様の動揺する声が聞こえるが、駄目なものは駄目だ。
私、服を着るのが面倒になって今は全裸なんだから。
「ちょっと待ってて」
私はセイラから再び服を受け取り、着る。
……それにしても、扉越しにカーティス兄様と話すなんて新鮮。
なぜかと考え、すぐに気づく。
普段はセイラが取り次ぎをする。こうして直接来るのは初めてなんだ。
手早く服を身につけ、「いいよー」と許可を出す。
カーティス兄様は部屋に入ってきて、まず眉をひそめた。
「おい、まだ荷物の整理が終わってないのか」
「あっ」
私は声をあげる。
さっきまで私と転移について検証していたので、整理する暇もなかったのだ。
カーティス兄様の青い瞳が、咎めるようにセイラを見る。
「何してる、侍女長」
「……カーティス兄様、ひどくない?」
王太子だからか、かなり偉そうなカーティス兄様を、むっとして睨む。
カーティス兄様は少し狼狽える仕草を見せるが、すぐ平静を取り戻す。
「だって、職務怠慢だろ」
「む……」
事実ではあるので、何も言えない。
セイラは給金を受け取って私のメイドとして生きている。なので、お金分の仕事はしないといけない。
ただ、
「別に、後ですればいいでしょ? 私が許すんだから」
それもまた事実。
主人である私が許せば、問題はない。
カーティス兄様は一瞬口を開けるが、すぐに迷ったように閉じる。
そして、
「……まあ、それもそうだな」
と言って、話を仕切り直すように首を振る。
「まあ、それはいいんだ。アリアリーシェ、この後の予定空いてたよな?」
「この後?」
一応、空いてはいる。
ただ、材質による魔力の染まり度の違いを検証しようとしてたんだけどな。
だけとそれはナウロン王国でも出来るし、わざわざユーガット帝国でやる意味はないか? 正直、早めに調べたいけども。
悩む私に、セイラが屈んで耳打ちをした。
「アリアさん、声を出さずに聞いてください。二重の加護の事は、まだ誰にも言わないように」
「……っ」
え、と言いかけたのをなんとかこらえる。セイラが事前に忠告してなかったら、危なかっただろう。
でも、二重の加護の事は誰にも言うな、って……なんで?
「? 侍従長、何を伝えたんだ?」
「失礼しました。僭越ながら、アリアさんに今日の予定をお伝えしたんです。多分知らないだろうと思って」
「なんで耳打ちした?」
「高貴な方々の会話に割って入るのは御法度ですから」
「そうか」
二人の会話が終わり、「それで」と兄様が私を見る。
「予定はなかったか?」
「……うん、なかった」
疑念を振り払い、頷く。
セイラが何故ああ言ったのかは分からないままだけど、少なくとも何の意味もない事を言う訳がない。それくらいには彼女の事を信用している。
だから、今は素直に言う事を聞いておこう。
「何かお誘いしてくれるの?」
「ああ。この国の第三皇子が、技術見学に誘ってきたんだ。せっかくだし行かないか?」
「技術見学?」
「ユーガット帝国の新技術を見せてくれるそうだ」
へぇ、楽しそう。新技術と銘打ったからには、凄いものが見れそうだ。
「行きたい!」
「わかった。ごはんを食べてすぐ、帝城の正門付近に集合らしい」
「……てことは、帝城の外で技術見学するの?」
「ああ。外でも大丈夫か?」
「どこでも大丈夫だよ、行こ」
私が頷くと、カーティス兄様は嬉しそうに笑う。
「じゃあ決まりだな。さっき貰ったイヤリング、忘れずに持ってこい」
「……イヤリング? 認識阻害の? なんで?」
「実は、技術見学はお忍びでするんだ」
「……あー、この髪色じゃ目立つから、イヤリング使って偽装しようって事だね」
「そうだ。……じゃあ、また後でな」
別れを告げて、カーティス兄様は私にあてがわれた部屋から出ていく。
それを見送ってから、セイラに視線を向けた。
「で、さっきのどういう事?」
「二重の加護について誰にも言うなって言った事ですか? 単純に、二重の加護って縁起が悪く思われているんですよ」
「え、縁起が悪い……? なんで?」
「理由は知りません。ただ、そういうものなんです」
「せっかく、便利そうな加護だったのに……」
「どうせ今転移の加護を教えたところで、使うたびに全裸になってたら便利も何もないでしょう? まともに使えるようになってから伝えればいいと思います」
それはそうか。
……にしても、縁起悪いって……。
「なんかもう、本当に納得出来ない。何でそう、どうしようもない事で決めてかかるかな」
「ほんっとうに、そうですよね。見た目とかで決めないでほしいです」
「だよね!!」
その後しばらく、私とセイラの愚痴大会は続いた。




