024.二つ目の
その後、何故かベッドの上にぽつんと落ちていた服を着た私は、セイラと話していた。
「え、何今の? 本当に何?」
「いや、私に聞かれても。アリアさん何かしました?」
「特には……ベッドで動くのだるいから、ワープでもしないかなって思って、あ」
はっとする。と同時に、セイラも気付いたようだ。
「え、まさか、それが理由ですか?」
「いやでも、流石に……だけど、それくらいしか思い付かないよ」
「でも、願っただけでしょう?」
「そうだよ。……まさか」
「?」
首を傾げるセイラに、昔の記憶を掘り起こして説明する。
「私、転生する時に、神様が一つ願いを叶えるって言われたの」
「あ、私も言われました。報酬として、って」
「それで、私は願い事が思い付かなかったから、転生した後で叶えるって答えたの」
「それは……」
セイラも、私が言わんとする事を察したのか、渋面を作った。
「……つまり、その願いが今発動したって事ですか?」
「そうとしか、考えられないかなって」
「いくらなんでも、それはありえないのでは……よし、確かめてみましょう」
「確かめる?」
「もう一回、念じてみてください。転移したいって。それで転移出来なかったら、アリアさんの説が正しいって事になります。神様が叶える願いは、一つだけなんでしょう?」
「ああ、なるほど」
確かに、神様は一つしか叶えないと言っていた。二回目がないなら、もうこれ以上転移は出来ないはずだ。
「分かった。じゃあ、やってみる」
私はそう言って、目を閉じる。
そして転移しろと念じる。
すぐに、セイラが「あっ」と言った。
「成功です」
「ほんと?」
目を開け、周りを見回す。さっきとは景色が違った。あとスースーする。
下を見ると、やはり素っ裸になっていた。
「……」
セイラが無言で差し出す服をありがたく受け取り、素早く着る。
「貴重な一回を無駄にしてなかったのは嬉しいけど、何なの、これ? 突然新しい力に目覚めた?」
「何でしょう。考えられるのは、加護でしょうか?」
「加護? 私の加護は、血を操るやつじゃなかったっけ?」
発現した直後から、全く使っていない役立たずの加護。下手に体内の血を動かすと、死にかねないから。かと言ってわざと出血させるのもごめんだし。
最低でもあと五年は待たないと、使い道はないだろう。
「いえ、そうなんですが」
セイラが説明する。
「大抵の場合、一人が持つ加護は一つです。ただ、稀に複数の加護が発現する事があるそうで」
「へえ。つまり、私にも加護が二つ現れたって事?」
「っていうのが、自然な考え方かなと」
「なるほど。でもやっぱり使えないっていうか、デメリットが大きすぎるね」
さっきから服が脱げるのは、どう考えても加護のせいだろう。多分、転移させられるのは私だけで、服とかは駄目って事だ。
転移するたびに素っ裸になるって、衣服の文化が定着しているこの世界じゃ全く役に立たないでしょ。
移動時間を省けるのは、とんでもないメリットなのになぁ。
しかしセイラは首を振る。
「そうでもないかもしれませんよ。光を遮る結界を作って、体の周りに張り巡らせれば欠点は解消できます」
「ああ、確かに。……真っ黒の服になるけど」
「それは、諦めるしかないですね」
個人的には、黒っぽい服はもっと成長してから着たい。暗い系はいつでも着れるけど、ピンクとかは幼い時しか着れないから。
閑話休題。王族の服は華美という文化が根付いているので、黒一色の服はちょっと問題がある気もするけど、まあいいか。どうせ赤い目に生まれた時点で、大体の問題は矮小なものだろう。
「だけど、転移してすぐに結界を張るって、出来るかな?」
「先に結界を張ってから転移するのは?」
「名案」
という訳で、一回試してみる。
失敗した。
「うーん。結界も移動はせず、服とまとめて置き去りになるんだね」
「ですね。初心に戻って、転移してから張ってみるとどうなるでしょうか」
「やってみる」
一秒かかった。
「一秒でも、全裸で公衆の面前に出るのは問題があるよね?」
「公然わいせつ罪で訴えられますね」
「あるんだ、公然わいせつ罪。……なんで父様は捕まらないの?」
「王ですから」
「専制政治っ」
三権分立が出来ていない。最悪だ。
いや、それはどうでもいい。どうでもよくはないが、今は関係ない。問題は、これだと結界で裸を隠すという案が使えない事だ。
早すぎると結界はその場に取り残され、遅すぎると一瞬とはいえ裸体を見られる。どちらにしろ痴女認定は不可避。
やっぱり、上手く使うのは諦めるしかないのか。
「なんで私しか移動させられないの、これ。どうやって、私とそれ以外を区別してるの……」
せっかくの便利能力を役立てられないもどかしさに、私は八つ当たり気味にぼやく。すると、セイラが「もしかしたら」と声をあげた。
「魔力が関係しているのかもしれません」
「魔力、ね」
「基本、魔力は生物の体に宿りますが、それ以外には存在しません。あと、その中でも個体差があります。なので、"魔力の満ちているところ"だけを転移させる能力だという事なら、辻褄が合うかと」
「……なるほど」
「今の説明で分かりました?」
「うん、なんとなくは」
つまり、こういう事だろう。
この加護は、加護の主の魔力が満ちている部分にしか使えない。
しかし服には私の魔力は宿っていない。
だから転移について来れず、私は加護を使うたびに裸になる。
「それなら確かに筋が通る。やっぱり魔力って概念には慣れないけど」
「もしアリアさんが魔法を使えられたら、否が応でも慣れますよ。それに、これは朗報かもしれません」
「なんで?」
「服を魔力に満たせば、転移すると脱げる問題も解決すると思うんです」
「えっ」
私はセイラを凝視する。
それってつまり、
「服に魔力を満たすなんて真似が出来るって事?」
「一応は。持っている魔力量が少ないと難しいでしょうけど」
それは嬉しい誤算。そもそも転移の加護の存在自体が誤算だったんだけど。
顔がほころぶのを感じる。
「よし、試しにやってみるね!」
「はい! ……って魔力で染める方法分かります?」
「あ。……教えて」
「知りませんよ? メイドの業務の範疇じゃないですし」
「えぇー」
仕方ないのでフィーリングでやってみた。
ほぼ失敗した。
「染めるの自体は出来たのにね。まさか、染まる面積がここまで狭いなんて思わなかったよ」
「これだと急所すら隠れそうにないですね。材質によってはもっとよく染まるかもしれないので、試してみますか?」
「夏休みの自由研究かな? まあやるけど」
私とセイラがそんな会話をしていたところで。
「おい、アリアリーシェ。ちょっといいか?」
ノックの音と共に、兄様の声が聞こえてきた。




