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021.地雷

アリアリーシェのキャラが変わってしまいました(?)


「ね。私、そういうのは良くないと思うんだ」


 私は、掴みやすい位置にあったパーシヴァルの胸倉を掴んで、にこやかに言った。

 イザベラに首根っこをつままれ、私に胸倉を握られたパーシヴァルは、勇敢に吠える。


「は? オレはじじついっただけだろーが。ひんにゅうは悪だって、へーかがいってた」

「あの糞親父」


 後で父様の髪の毛を三本抜こうと決意する。

 だが例え父様の入れ知恵だったとしても、許されないものは許されない。私は手にぎりぎりと力を込めた。


「へー。偉い人に言われたから、言う通りに? 弱い意志だねー。ていうか器ちっちゃ」

「オレはちいさくねーよ!」


 突然、むっとしたようにパーシヴァルが叫ぶ。私はそれを見て、にやりと笑った。


「あれ、もしかして地雷だった? でも、地雷ある人って面倒くさく思われて距離取られやすいから、気をつけなよ? まだ四歳だし、分からないのも仕方ないかもだけど」

「っ、オレは六さいだ! だまれひんにゅう!」

「圧死と窒息死どっちがいい?」

「ーーお二方!」


 私たちがお話をしていると、イザベラがぱんと手を叩いた。手を放されたパーシヴァルがたたらを踏む。


「お二人が感情抜きに会話も出来ないような猿だというのは承知の上ですけれど、あまり喧嘩はなさいませんよう。やかましくってよ」

「……」

「でもこいつが!」


 何ともいえない心持ちで黙り込む私とは対照的に、パーシヴァルが不平を言う。

 そんなパーシヴァルを、イザベラは退屈そうに眺めつつ、言った。


「そこまで白黒つけたいのでしたらーー」


 * * *


「これより、アリアリーシェ・ディ・ナウロンとパーシヴァル・デューリュ・グランデンバルグによる決闘を開始する!」


 審判役をしているどこぞの貴族の声が響き渡る。

 それに呼応して、盛り上がる会場。タイミングよく雲が晴れ、中庭に陽光が降り注ぐ。


 私とパーシヴァルは、観客の輪の中心で、剣を握って相対していた。ちなみに剣はスポンジ製。……スポンジって石油由来じゃないの? この世界にあるんだ?


 これは、イザベラの発案によるものだ。

 私はさっきのやりとりを思い出す。


『そこまで白黒つけたいのでしたら、決闘をしてはいかが?』

『決闘?』

『ええ。お互いが剣を握り、敗者は勝者の言う事を一つ聞く。今回は……互いの謝罪を賭ける事になりましてよ。クロフォード侯爵領ではよく取られる手段ですわ』


 こうして、私達は決闘をする流れになった。


 スポンジ製の剣といえど、中には芯のようなものが通っており、当たればそこそこ痛そうだ。


 それでも、負けられない。

 女のプライドにかけて。


「両者、準備はいいか!」

「パーシヴァル・デューリュ・グランデンバルグ。いいです」

「アリアリーシェ・ディ・ナウロン、同じく」


 ーー絶対、撤回させる。


「それでは! はじめぇーー!」


 * * *


 いくら精神年齢に差があれど、性差と年齢差は(くつがえ)しがたく。

 私はパーシヴァルの頭の悪い力攻めに、敗北したのだった。


 * * *


「屈辱……っ! あの糞ガキ、いつか絶対に成敗する……っ」

「アリアさんが糞ガキとか言うの、初めて見ました」


 セイラが苦笑いする気配を感じる。


 決着がついた後、私はパーシヴァルに断腸の思いで謝罪した。その十倍は罵っておいた。涙目になっていたので、大人げなかったかもしれない。

 いい気味だなんてちょっとしか思わなかった。


 決闘が終わると、多くの貴族達が帰っていった。私もその流れに乗って中庭から出ていき、今に至る。


 お披露目会が始まってから時間が経ちすぎて、雲が少しずつ晴れてきていた。若干だが、陽の光が差している。


 ちなみに目的地は、私の部屋ではない。そもそも室内でもない。

 私が雪辱を果たすために必要な人物がいる場所だ。


「あ、見えてきましたよ。あそこが騎士団の訓練場です」


 セイラの視線の先にあるのは、フェンスで囲まれた、広い空き地のようなところだった。ちらほらと騎士の礼服を着た人がいる。


 私はフェンスの内側に入り、ここにいるはずのフィオレンサ姉様を探す。

 騎士団から教えを受けているフィオレンサ姉様。彼女なら、私にも剣の使い方を指導してくれるのではないかと考え、わざわざここまで来たのだ。

 剣術のレベルがある程度上がれば、パーシヴァルに再戦を申し込むつもりで。


 特徴的な赤銅色のポニーテールは、簡単に見つかった。ちょうど訓練中なのか、一人の大男と剣を交えている。


「あ、フィオーー」


 言いかけて、口をつぐむ。

 フィオレンサ姉様の表情が真剣すぎて、呼びかけるのも(はばか)られたのだ。


「えい! てい! やあーー!」

「剣筋が甘い! その程度ではそこらの赤ん坊にも負けますぞ!」


 汗を流しながらも、一心不乱に剣を振るうフィオレンサ姉様は、私が声をかけた事にも気付いていない。

 その姿は、私がこれまで見たどれとも、少しずつ違った。


「……」


 私はしばらく、陽光が反射するその剣の動きを目で追う。


 フィオレンサ姉様に、剣を指南してほしい。そして貧乳を撤回させたい。そのために、お披露目会が終わった後にここまで直行してきた。

 だけど、フィオレンサ姉様はそんな目的などなく、ただ夢を叶えるために、本気で剣に向き合っていて。


 だから私は、きびすを返した。


「アリアさん? いいんですか?」


 フィオレンサ姉様に背を向けた私に、セイラが問いかけてくる。


 よくはない。一刻も早く、女の尊厳を回復したい。

 でも、あんなの邪魔出来ないだろう。


 仮にも妹だ。姉の将来の夢は、応援したい。ううん、ひたむきに剣に打ち込むあの姿を見たら、妹じゃなくたって応援したくなるだろう。


 騎士団とは逆方向に歩きながら苦笑する。後ろからセイラがついてくるのが、足音で分かった。


「あんなに必死そうだと、わがままのために手を煩わせるのは、ちょっとね。仕方ないし自力でどうにかするよ。この前のフィオレンサ姉様の誕プレを使えばなんとかなるでしょ」

「誕プレって、短剣……ああ、本の事ですか」

「そうそう。『一ヶ月で学ぶ! 剣術基礎〜最強の剣豪になるために〜』ね」

「よく覚えてますね」


 私はセイラと駄弁りながら、自分の部屋へと足を進めた。


 スポンジには、海綿動物を使った天然ものもあります(←生成AIによるにわか知識)

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