020.二回目のお披露目会
「アリアリーシェ・ディ・ナウロン。血操の加護を授かりました」
私は貴族達の視線を浴びながら、声を張り上げる。
私の血を操る加護は、"血操の加護"という名称がついているらしい。つい昨日知った。
どんな加護にも、効果によって名前が決められているそうで、こちらの世界には加護辞典なるものもあるとか。
と、そんな風に役体もない事にあれこれ思いを巡らせているのは、貴族達の視線の圧が凄すぎるからだ。
もうね、凄い。
"これが鮮血王女か"みたいな感情がびしばし伝わってくる。というか、実際聞こえてくる。
口に出さないくらいの分別は持ってほしい、という私の思いは、間違ってないだろう。
最後まで強烈な視線を浴びたまま、私は壇を降りた。
* * *
赤ちゃんの紹介、加護が発現した子達の紹介が終わり、ここからは自由時間だ。
前回のお披露目会では、母様に連れられてさっさと帰ってしまったが、今回は少しここにいようと思う。
なお、私以外の王族は、ルーシー義母様以外は帰っている。私にそばにはセイラがいるけど。
「うーん、何しようかな」
独り言ち、辺りを見回す。談笑している貴族ばかりだ。
しかしその中に一箇所だけ、子供達が集まっている場所を見つけた。
……あそこに行ってみようかな?
私はそこに近づき、集団の輪に声をかける。
「あの……」
しかし。
「うわっ」
「せんけつおーじょだ!」
「逃げろー!」
と露骨な反応で三メートル近く距離を取られた。ほぼ全員だ。
「……」
いや、私にも傷つく事はあるんだけど?
これが子供故の残酷さか。
私は仕方なく、距離を取らなかった数少ない子に視線を向ける。これで怯えられたら、ダメージが倍増するところだったが、幸いその子達は何の反応もしなかった。
恐る恐る、その子達に更に近づく。距離が残り一メートルになった時、一人の男の子が口を開いた。
「おい」
「ぅひゃいっ」
……って、私がびくついてどうする。
平静を取り戻し、改めて返事をした。
「何?」
そして、その男の子をじっくり観察する。
四歳くらいだろうか。ぱっちりとした丸い瞳は緑色で、幼さとは関係なく可愛らしい顔立ちだ。ワックスをかけたのかツヤツヤの髪は、派手な赤色で……
……あれ、この色、どこかで見た事がある気が。
私が記憶を辿る前に、その男の子が私に問う。
「おまえがせんけつおーじょか?」
「……一応、そう呼ばれてるけど」
鮮血王女という呼び名への複雑さと、意外と口調の悪いこの子に対する複雑さで、返答がやや遅れる。
だが、あちらは気にしなかったようだ。
「オレはパーシヴァル・デューリュ・グランデンバルグ。ひれふせ」
「……ああ! シエンナ義母様の!」
ぽんと手を打つ。謎が解けてすっきりだ。
グランデンバルグは、この国でも歴史の古い公爵家だ。その権力は、王家に次ぐとか次がないとか。
シエンナ義母様が生まれたところでもある。シエンナ義母様はグランデンバルグ現当主の妹だったはずなので、当主の息子であるこの子はシエンナ義母様の甥っ子にあたるのか。
私が赤い髪を見て納得していると、パーシヴァルがやや苛立ったように言う。
「ひれふせ、っていっただろ」
「あ、ごめん。そうだっ……ひれふせ?」
聞き間違いかと思い、パーシヴァルを見ると、頷かれた。
……ひれふせ違い? ひれ、ふせ……鰭布施? 鰭のお布施って何。
「ふん、ばかにはわからないか。ひれふせっていうのは、あたまを地面にこす……すこりつけて? あやまることだ」
「謝るって何を」
「それは……」
パーシヴァルが何か言いかけた、その時。
「ああ、もうパル様!? 何をしてらっしゃるの!?」
新たに女の子の声が響いた。
声がした方向を見ると、そこにいたのは十五歳前後の勝ち気そうな美少女。橙色の髪はいわゆる縦ロールに編まれており、猫を思わせる切れ長の目は、髪色とは対照的な青。全体的に発育がいいのか身長は高い。更に、大きい。
何が、とはもはや言うまい。こんな事を考えるのも、転生してから三度目である。
でも、あの大きさ。セイラも母様もとっくに越してるんじゃない? 当然、前世の私とは比べるのもおこがましいほど。
その少女を見て、パーシヴァルが呻く。
「げ、イザベラ……」
「げ、とはなんですの、パル様。それで、こんな乳臭いところに来た弁明は?」
「そりゃ、えっと……せんけつおーじょをいじめに……」
「鮮血王女?」
そこでようやく、イザベラと呼ばれた少女の青の瞳の焦点が私に合う。彼女は、「あら、いましたのね」と呟いて、私に深々と礼をした。
「これは失礼。わたくしはイザベラ・マーファイ・クロフォード。パル様……パーシヴァル様の婚約者にして、クロフォード侯爵家の長女ですわ」
「あ、えっと」
こういう時、どんな返事をしたらいいのか分からずにおたおたしてしまう。
すぐに返事をしなければと思いつき、慌てて口を開いた。
「分かった。よろしくね、イザベラ」
「ええ」
堂々と頷くイザベラ。その顔に広がるのは、余裕そうな笑みだ。
やっぱり、いかに前世の経験値があろうとも、こういった貴族的な仕草には慣れない。ザ・貴族といった感じのイザベラが羨ましい。
「あ、イザベラ」
「なんですの、パル様。……そういえば、何故ここに来たのかをまだ聞いていませんでしたわね」
「だから、せんけつおーじょをいじめに」
「ふーん?」
イザベラがすっと目を細める。
そして、
「頭が沸いていらっしゃるのかしら? あなた様はグランデンバルグ公爵家の跡取り。それがこんな甘ったれた子供に時間をかけると? 寝言は寝ても言わないでくださいな。不愉快でしてよ。その赤い髪、毟って差し上げましょうか?」
舌鋒鋭くまくしたてた。
途中、私にも流れ弾が飛んできた気がしたが、何よりダメージが大きかったのはパーシヴァルだ。
「そ、そんなこといわなくてもいいだろっ」
「はあ? 口答えの許可なんて、与えていなくってよ。さあ、帰ってお勉学に励んでくださいませ」
「いやだ! こいつをいじめたい!」
「人を指差さないでほしいな」
こちらに向けられた人差し指をぺしりと叩いて払う。可愛くない四歳児だ。
その途端、パーシヴァルの顔が赤くなった。
「あ、てめっ! オレのからだにさわったな!」
「……パーソナルスペース広かったりする? だとしたら謝るよ」
「ぱー……?」
「行きますわよ」
「あー!」
イザベラに首根っこを掴んで引きずられ、パーシヴァルが無念そうに声をあげる。
最後っ屁のように私に暴言を吐いてきた。
「ばーか! あーほ! かーす! ゴーミ! しーね!」
「死ねとか言わない」
あと、私死んだ事あるし。
パーシヴァルは、私の反応の薄さに悔しそうにしているが、しょせん子供の癇癪だ。まともに取り合う方が馬鹿らし、
「ひーんにゅー!」
……はぁ?




