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014.四歳の誕生日


 それは、私が四歳の誕生日を迎える日の事だった。


「「アリアリーシェ!」」


 カーティス兄様がドアをばん! と開け、フィオレンサ姉様が勢いよく私のいる部屋に飛び込んでくる。

 完全に取り残された形になったカーティス兄様だが、いつも通りの事なので全く気にしていない。カーティス兄様が甘いのも理由の一端ではあるが。


 二人とも、お披露目会の時よりもずっと成長した。


 九歳を迎えたカーティス兄様は、はっとするような美幼年に成長している。順調に女泣かせへの道を歩いていた。


 今年九歳になるフィオレンサ姉様もまた、なかなかお目にかかれない美幼女だった。白い肌が目に眩しい。普段から外で遊びまくってるのに何故そこまで白いのか、謎だ。


「二人とも、六日振りだね」


 私は床に座って二人に挨拶する。ちなみに椅子には座らない。身長が低くて一人では座れないからだ。


 こうしてカーティス兄様とフィオレンサ姉様が私を訪問する時、セイラーー私の友人は、大抵壁際で待機している。直立不動で、身じろぎ一つせずに。どういう体幹をしているのだろうか。


「そうだな。久しぶり」

「だな!」


 カーティス兄様の言葉に、フィオレンサ姉様が同意する。いうて一週間も経っていないのだが、子供の一週間と中身二十六歳の一週間を一緒にしてはいけないだろう。


 そう思いながら、上品に座るカーティス兄様と胡座(あぐら)をかくフィオレンサ姉様を見守る。


「……おい、フィオレンサ」

「なんだ兄上」

「女としてどうなんだそれは」

「何を今さら……」


 フィオレンサ姉様は大人振った仕草で、やれやれとばかりに首を振る。


「兄上も勉強した方がいいぞ? 世の中にはな、可能なことと不可能なことがあるんだ。エリックが言ってた」

「そうだな。お前は上品な座り方も出来るやつだって、信じてる」

「兄上。いったい何年、しんしょくを共にしてきたと思っている?」

「寝食は別だっただろ」

「それなのに、未だワタシのことを理解してないのか?」

「何を偉そうに!」


 カーティス兄様がぷぅっと頬を膨らませる。うーん、可愛い。


 だがいつまでも見守っている訳にはいかないので、二人に声をかける。


「カーティス兄様、フィオレンサ姉様。今日は何しに来たの?」


 ……ま、何しに来たかなんて、すでに想像出来てるので、我ながら白々しいとは思うけど。


「あ、そうだった。兄上、せーので出すぞ」

「わかった」


 二人は立ち上がって、それぞれの侍従が運んできた鞄を、ごそごそ漁る。

 そしてとことこ私の前に戻ってきて、


「「せーの」さんはい!」


 カーティス兄様が小さな包みを出して、少し遅れてフィオレンサ姉様が重そうな小箱を出す。

 カーティス兄様がフィオレンサ姉様を睨んだ。


「今、せーので出すって言ったじゃないか!」

「え? ……兄上が合わせてくれないから」

「俺のせいにするな!」


 カーティス兄様はフィオレンサ姉様にデコピン。あまり痛そうではなかったが、フィオレンサ姉様は涙目になる。

 そろそろ止めようと声を出しーーかけたところに、新たな人物が部屋に入ってくる。


「兄妹喧嘩かや? 二人とも懲りぬの」


 私は驚きに見張った目で、その人を見つめる。

 その視線を受け、彼女ーー私の義理の母にしてナウロン王国の第三王妃、シエンナ・グランデンバルグ・ナウロンは、紫の目を細めて、愉快そうに笑った。


 * * *


「シエンナ義母上えぇっ!!」


 フィオレンサ姉様が涙目のまま、シエンナ義母様の胸元に飛び込む。ちなみに小箱は落下した。

 シエンナ義母様は、フィオレンサ姉様をあやし、「おお、どうした?」と聞く。


「さっき兄上が暴力振るった!」

「間違ってないけど人聞き悪いな!」


 カーティス兄様の抗議も聞こえないのか、シエンナ義母様に涙ながらに訴えるフィオレンサ姉様。


「てぃーんめっく・ればいおすんだ!」

「ドメスティック・バイオレンスな!」


 冴え渡るカーティス兄様のツッコミ。ていうか、よくドメスティック・バイオレンスだって分かったな。


「微笑ましいの。じゃが、フィオレンサ。小箱が落ちておるが、それは良いのかえ?」

「ふぇ? ……あっ」


 フィオレンサ姉様がはたと気付き、慌てて小箱を拾い上げる。

 がたんと小箱が鳴るが、箱は無事だった。


「よかった……。アリアリーシェの誕生日プレゼント、こわれてなくて」

「もうちょい大切にしろよ……」


 疲れたようにカーティス兄様が嘆く。うーん、可愛想(かわいそう)


 そんな二人に、私は問いかけた。


「誕生日プレゼントだったんだ?」

「ん? そうだ」

「そういえば、教えてなかったな」


 カーティス兄様とフィオレンサ姉様が頷く。


 ……まあ、分かってたけども。

 この日に二人が来るのなら、その目的は一つしかないだろう。


 ただ、一つ分からない事がある。


「じゃ、シエンナ義母様はなんでここに?」


 そう。シエンナ義母様は、普段は後宮で過ごしており、私の部屋を訪れた事など一度もなかったのだ。

 おかげでシエンナ義母様の人物像も判然としない。珍しい一人称と喋り方の美人、といった感じだ。


 私の疑問に、シエンナ義母様はふっと笑う。


「わっちがここに来るのが、そんなにおかしいかや?」

「それは……そう」

「正直な子じゃの。ま、揶揄(からか)っただけじゃ。それでわっちが来たのは、二人と同じ理由じゃ」

「同じって、つまり」

「誕生日プレゼントを渡してやろうかとな」


 その言葉に、驚く。

 立場的にも第三王妃が第一王妃の娘に誕プレをあげるなんてそうそうないだろうし、それに彼女が赤い瞳を忌避しない事にも驚いた。


「わっちが渡すのは、物ではないがな」

「じゃ、なんで来るって事前に言わなかったの?」

「それは、カーティスとフィオレンサに言われたからじゃ。折角だからサプライズでわっちとそなたを会わせようと」

「アリアリーシェがびっくりするって思ったからな」


 フィオレンサ姉様が小箱を抱いてそう言う。

 そりゃまあ、驚いたけども。

 けども、急に人が訪問してくるって事は、つまり。


「それより、二人はさっさと渡さなくていいのかや?」


 シエンナ義母様がカーティス兄様とフィオレンサ姉様に促す。そこではっとしたような顔をする二人。


「あ、そうだった。はい、どうぞ」

「俺のも」

「ありがと、フィオレンサ姉様、カーティス兄様」


 第一印象通りに重量感のある小箱と、逆に軽い、小さな包みを受け取る。


「ほら、開けてくれ!」


 フィオレンサ姉様がきらきらと目を輝かせる。


「……」


 私は二人のプレゼントを見比べて、フィオレンサ姉様には悪いがカーティス兄様のものから開ける事にした。


「!? なんで兄上のから!?」

「や、その……」


 フィオレンサ姉様の分は、尖りすぎてて処理に時間がかかりそうだし。なんとなくだけど。

 とは言えないし、


「やっぱ本命は後からかなーと」


 言ってから、これだとカーティス兄様に失礼かと青くなった。が、カーティス兄様も私の本音は見抜いているらしく、アイコンタクトを送ってくる。

 ……ってアイコンタクトは読み取れないよ?


 私がそう思った途端、カーティス兄様がショックを受けたような顔をする。

 え、思念を感じ取ってる? ……まさかね。


 私が自分の空想に笑っている隣で、フィオレンサ姉様は嬉しそうにカーティス兄様を煽っていた。


「やった! ワタシのが本命だ! やーい、兄上のぜんざー。てぃーんめっく・ればいおすんのむくいだー。……ってあれ、何ショックを受けてるんだ?」


 ぜんざ……前座、かな? さっきのデコピン、まだ根に持ってたんだね。


 ちなみにカーティス兄様は、衝撃が抜けきらぬ顔のまま、


「ドメスティック・バイオレンスだっ」


 としっかりツッコんでいた。

 しかしシエンナ義母様がかき回す。


「ふむ? それを言うなら、ティーンメック・バイオレンスじゃないのかや?」

「えっ? そ、そんなはず……違うよな、アリアリーシェ?」

「……」


 カーティス兄様の純粋な視線と、シエンナ義母様(確信犯)の愉しそうな視線が突き刺さる。

 うん、ここはカーティス兄様の味方をしてあげるべき。

 でも、


「違うでしょ。ドメスティック・レバイオスンだよ」


 ごめんねカーティス兄様! ほら、シエンナ義母様とは仲良くしといた方がいいから! 薄情な私を許して!


 私は心の底から謝る。嘘じゃないよ? ほんとに、心底から悪いって思ってるってば。


 と、心の中の言い訳が終わったところで、カーティス兄様のプレゼントを開封する。


 そして、中から出てきたのは、


「……万年筆?」


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