013.銀髪碧眼の一族
赤い瞳が、魔物の特徴。
それを聞いて、何故セイラが躊躇ったのかが分かった。
それと。
「もしかして、"鮮血王女"って嫌がられてるのは」
「……多分、魔物と同じ色の目っていうのも理由だと思います」
ああ、そうか。
おかしいとは思っていた。
両親と違う目の色に生まれる事例だって、それなりにあるはずだ。
なのになんで私だけがそうまで叩かれるのか、不思議には感じていた。
でも、人間の敵である魔物と同じ目の色、というのも理由の一部だったら、理屈にはかなう。
「多分、アリアリーシェ様の目の色が黄色や緑だったら、こんなに排斥されないはずでした。もちろん、ユーガット皇族から銀髪碧眼以外が生まれるなんて前代未聞なので、注目は集まったでしょうけど」
「……ユーガット皇族って何?」
私は初めて聞く単語に、目を瞬く。
正確には昔、どこかで聞いていたかもしれないが、昔は言葉も分かってなかったしとっくに記憶から消えている。なので初めて聞くのと同じだ。
「ユーガット皇族ですか? 隣国の一番偉い一族ですよ」
「? なんで隣国が今の話に関わってくるの?」
「ご存じないですか? ニアム様のお名前は、ニアム・ユーガット・ナウロン。ユーガット皇族家の生まれです」
「え? ……えぇぇぇえぇ!?」
こんなに驚くのも、今日で何度目だろうか。私がこれまで、この世界にどれだけ詳しくなかったかが分かる。
「母様って皇女様だったの!?」
「そうですよ。二国の親善のために嫁いでこられたんです」
「てことは、キースさんはその国での恋人……?」
「……私は政治的問題に関わりたくないので、それは聞かなかった事にしますね。おほん。で、その一族なんですが、銀髪碧眼の美人しか生まれない事で有名なんです」
「そんな事ある? 銀髪碧眼の美人以外を隠してるだけとかの方が、まだ信憑性があるんだけど」
「怖い事言わないでください。それに真実です。証拠もあるそうですよ?」
「えぇー。銀髪碧眼の人としか結婚してないとかでもなく?」
「違います」
なんだろう。流石異世界、としか言えない。
元の世界じゃそんな事ありえないのに。
「天使族の血が混じっているかららしいです」
「天使族? 何それ?」
天使、は分かる。族、も、まあ分かる。
でも天使と族を足すと、途端に分からなくなる。
「天使の種族、としか受け取れないよ? その言葉」
「その認識で合ってますよ」
「合ってるの!?」
なんだ天使の種族って。天使ってあれでしょ? 半裸で金髪で羽が生えててトランペット持ってて、結婚式の写真とかで周りをふよふよ飛んでるやつでしょ?
その種族?
「????」
「ファンタジーものを読んだ事がないと、カルチャーショックがあるんでしょうね。まあ、異世界ですから」
「強引!」
「まあまあ。で、その天使族の血が強力すぎて、子孫の容姿までその天使……アルと同じになるって話です」
「アル……?」
アルって、
「もしかして、アルテミスの事? アルテミスが天使って嘘をついて下界におりたとか?」
だとしたら、説明がつく。
母様の容姿は、アルテミスとそっくりだった。それがアルテミスと血縁関係だったからという理由があるなら。
それにアルテミス自身も、下界に降りるのは不可能じゃないって言ってたし。
しかし、その予想はセイラに否定される。
「いえ。アルテミス直属の天使族だと、文献には載っています」
「そっか。ますます天使族について分からなくなってくるね」
直属とは。天使って神様の使者じゃないの? 直属じゃない天使がいるの?
「まあ異世界ですから」
「便利な言葉……」
魔法の言葉をかけるセイラ。
私もいつか慣れるのだろうか。早く慣れたいような、慣れるのが怖いような。
「ちなみに、隣国……ユーガット帝国の初代皇帝は、さっき話した"勇者の加護"を持つ人なんですよ? その人が天使アルと結婚して、今のユーガット皇族に繋がるんです」
「へー。なんていうか……歴史だね」
感想を纏めるのが面倒になり、思いついた言葉で締めくくった。これ以上カルチャーギャップを知ると、驚きで何も言えなくなりそうだ。
「ていうか本筋から外れましたね。そんな感じで、アリアリーシェ様は本来ならありえない上に不吉な色の瞳だったから、バカにされているんだと思います」
「でもセイラは、そんな事しなかったんだ?」
「え? ええ、まあ」
セイラはしばし迷ってから、首を縦に動かす。
そして小さく付け加えた。
「生まれ持ったものは、どうにもならないですから」
「……ん、そうだよね。そう考えてくれる人がいてよかった」
「むしろこっちの方が当たり前ですよ」
「……うん」
そうだ。目の色なんかで差別しないのが、当たり前だ。
私がそう認識しなおした途端ーー目に涙が滲んだ。
「あ、アリアリーシェ様?」
「や、ご、ごめっ……!」
慌てて目尻の涙を手で拭く。
セイラに、早口で言う。
「その、私の目の色でそう言ってくれる身内以外の人って、今までいなかったから……これが理不尽だって思う私の感性が間違ってるんじゃないかって、怖くて……っ」
ああ、そうだ。
これまで私を庇ってくれたのは、父である父様やまだまだ子供の兄様と姉様しかいなかった。
貴族達の、赤い瞳を嫌悪する感覚の方が正しくて、私の怒りは間違いなんじゃないかって、そう思う時もあった。
不安だったんだ。私は筋違いな怒りを感じてるんじゃないかって。
「だからセイラにそう言われて、嬉しかったの……」
「アリアリーシェ様……」
その独白を聞いて、セイラは。
私の両脇をかかえ、ふわりと持ち上げた。
「ひゃっ!? せ、セイラ!?」
「アリアリーシェ様」
高い高いをしている状態で、セイラは私と目を合わせる。
「私は、見た目なんてくだらないもので判断しません。絶対に」
「……うん、知ってるよ」
「もしこれから、自分が間違ってるんじゃないかって心配になったら、私にそう言ってください。何回だって、否定しますから」
「……うん」
頷く。
それを確認して、セイラは私を床に下ろした。
「友達が理不尽を受け入れる様子なんて、見たくもないです」
「……友達?」
一瞬何を言われたのか分からず、固まる。
友達って、あの友達? 漢字違いじゃなく?
「え、なんでそこで驚くんですか?」
「いやだってほら、私達って話して一日目だし」
「友情は時間じゃないでしょう?」
「お互いの精神年齢とか」
「私は肉体も精神も若いです」
「そもそも私、見た目二歳だし」
「見た目なんてくだらないもので判断しません!」
思い付く反論を全て論破され、私はぐうの音も出ない。
セイラは真剣に私を見る。
「むしろそんな厳しい前提があっても、こんなに会話が弾んだんですよ? 友人じゃなかったら何なんですか」
「……親しい人?」
「それが友人です! ……というか」
そこまで勢いよく言い切って、ふと声を落とし瞳を揺らす。
「アリアリーシェ様にとって、私は友達じゃないですか?」
……ああもう。
それ、イエスって言えない質問じゃん。
だけど私にも言い分はある。
「そんな事はないけど、でも」
「でも?」
「友達なら、様付けしないし……」
友達に様付けされたくない。逆説的に、様付けする人は友達じゃない。
うん、なんだか自分でも何を言ってるのか分からなくなる。
しかしセイラは、ぱっと表情を華やがせた。
「つまり、様付けをやめればいいんですね?」
「まあ、そう……かな?」
「じゃあ、アリアリーシェさんと」
「ちょっと待て」
思わずツッコんでしまう。
天然なのか、セイラはまじろいた。
「なんですか?」
「いや、そこはちゃん付けになるんじゃないの? さん付けなの?」
「ちゃん付けって、した事ないです」
「そっか。呼び捨ては?」
「……家族しか」
「うーん……」
家族にしかした事がないものを強制させるのもよくないし。
かと言ってさん付けは……あ、そうだ!
「愛称呼びは?」
「愛称、ですか?」
「うん。私がアリアリーシェだから……アリアさん、とか。それならさん付けでも友達っぽいし」
「アリアさん……」
セイラは何度か、口の中で「アリアさん」と呟く。
そして頷いた。
「はい、分かりました、アリアさん!」
** * **
今思い返すと、私達が仲良くなるスピードはかなり速かったなぁ。
セイラの会話上手さと、私にとってはこの世界で初めての会話だったせいで興奮していたおかげだろうか。
私が、私の人生で初めて喋った相手がセイラ〔アウル〕で、本当によかったと思う。
例えあの事件の発端が、ある意味ではセイラだったとしても。




