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012.はじめてのけっかい


「じゃあ、結界の力を使うよ?」

「はい、いつでもどうぞ」

「私も初めて使うから、失敗しても怒らないでね」

「大丈夫ですよ。暴走しても爆発しても、破壊しても粉砕しても、怒ったりはしないです。侍女ですから」

「粉砕……?」


 セイラの恐ろしい言葉が気にかかりつつ、私は人生初の結界の力とやらを使おうとしていた。

 ちなみに現在地は殺風景な部屋。さっき食事してたところではない。ここも一応、私の部屋らしい。

 王族凄い。


「アリアリーシェ様? 滅亡したってご飯抜きにはしないので、遠慮なくやっていいですよ?」

「ご飯抜きはただの虐待! あと滅亡って何? わざと言ってる?」

「まあ、主をリラックスさせるのも侍女の仕事かなと」

「そう……。もういいや。やります!」


 狙い通りなのが悔しいが、気が抜ける。


 その悔しさも燃料に宣言し、心の中でせーのと言って。


「やー!」


 とりあえず叫び、「出ろ出ろ出ろ!」と声に出さずに唱えた。


 しかし、


「……」

「……」

「「……」」


 出ない。


「……アリアリーシェ様、特に何もないですよ」

「……見れば分かる」


 拍子抜けしたようなセイラと、気まずい私。この空気をどうしよう。


「……えぇっと、やり方が悪かったんじゃないですか? 何か特別な呪文がいるとか」

「そうだとしたら教えてくれなかった神様が不親切すぎる……」

「だったら、イメージの問題とか?」

「イメージ?」


 首を傾げる私にセイラが説明する。


「この世界には、魔法がしっかり存在するんですけど」

「………………異世界だねー。そんなのあるんだ」

「はい。で、その魔法っていうのは、イメージも大事なんですよね」

「ふんふん。だから、結界の力にもイメージが大事だと?」

「そうです」

「なるほど。でも、イメージって……あ」

「?」


 話している最中に、ふと昔の会話が思い起こされる。


『これは、結界の力……全てを遮る力。それを使って、世界と魔物の繋がりを絶ってください』


 ()()()()()()

 『遮る』。

 結界が、そうい力だとしたら。


「もう一回やってみる」

「へ? ……って、え!?」


 突然、辺りが真っ暗になり、セイラの驚く声が暗闇に響く。


「アリアリーシェ様、これは!?」

「光を遮ったの」

「光をって……あ、眩しっ」


 結界を消すと、光が戻る。

 窓から差し込む日の光が、セイラを照らした。

 しばらく目を瞑って悶えていたセイラだが、だんだん光に慣れ、ゆっくりと藍色の目を開く。


「え、成功したって事ですか?」

「そう、かな」

「よく分からないけど、よかったです!」

「えへへ。ありがと」


 セイラには悪い事をしてしまったかも。事前に光を遮るって伝えておけばよかった。


「ま、後の祭りだね」

「?」

「こっちの話。結界って、何かを遮る力みたい」

「そうなんですか? それはまた……イメージを裏切りますね。私はもっとこう……別の感じを想像してました」


 私もだ。セイラの言葉がなければ、ずっと使えないままだったかもしれない。


「ありがとう、セイラ」

「??? どういたしまして?」


 急にお礼にセイラが面食らっているが、気にしない。彼女のおかげで結界を使えるようになったのだ。


「にしても結界ですか。見たことも聞いたこともないですね」

「あー、やっぱり珍しいんだ、これ。……他の人には、せめてもう少し成長するまでバラさない方がいいかな? 魔女狩りとか遭いそう」

「ちょっと分かりませんね。アリアさんのお好きにどうぞ」

「うん」


 じゃあ、魔物退治に動くまでは言わないでおこう。


 でも、遮る力でどうやって魔物を倒せと? ……いや、倒さなくてもいいのかな?


 思い返すと、アルテミスは「世界を救え」とは言っていたが「魔物を倒せ」とは言っていなかった気がする。

 例えば、魔物と人間の間に結界で壁を作れば万事解決になるのだろうか。


「ていうか、魔物ってそもそも何なの?」

「魔物、ですか?」


 私は魔物について、「世界を危険にする存在」以上の知識を持たない。

 セイラが詳しいのか不明だったが、私よりかは理解していたらしく、説明をしてくれる。


「魔物は……そうですね、人に害をなす存在です。形は様々ですけど」

「そうなんだ」

「基本的には、実在する動物と同じ形です。その中でも人と同じ形をしているものを、特に魔族と呼びます」

「動物だと?」

「魔獣ですね」

「へー」


 細かいんだなぁ、と変に感心する。

 セイラは説明を続けた。


「そもそも魔物の生まれ方は解明されてません。遥か昔にアルテミスの力が緩んだのが原因という説が有力ですが」

「力が、緩む?」

「私も詳しい事は知りませんし、あくまで一説です。それに、それが正しいとしても神話の時代の話ですよ」


 まあそれはそうだ。私は、あまり話の腰を折らないようにしよう、と心に決める。


「で、そんな感じで魔物については分からない事が多いんです。ただ、人間に害のある存在というのは確かです。これまでも何度か人類が滅亡しかけましたし」

「まさか、さっきセイラが滅亡って言ってたのは……」

「関係ないです、単なるブラックジョークです。で……」


 さっきの今で早速話の腰を折ってしまう。舌の根も乾かぬうちに、とはこういう事だろうか。

 私がくだらない事を考える間にも、説明が続けられる。


「記録にある中で一度だけ、魔物を統率する"魔王"と呼ばれる存在が生まれた事もあります」

「魔王?」

「創作物では鉄板ですね。その時も創作物のごとく、"勇者の加護"を持った男性が魔王を討ち取ったそうですが。まあいずれどこかで習うので、今はそんなに詳しく知ってなくても問題はないです」


 私は創作物を見た事はあまりないので、セイラの言う事が正しいのかは知らないが、なんとなく内容は分かった。

 そして思ったのは。


「ちゃんとこの世界の人でも、魔物に対抗出来てるじゃない。私っている?」


 自分の存在意義への疑いである。


 セイラが「こら」と私の額にデコピンの振りをする。

 あくまで振りだ。立場的には私が主なので。


「そんな事言ったらダメですよ。神様への不敬ですし、必要ない人なんていません」

「分かった分かった。こらなんて、初めて聞いたかも」

「茶化さないでください」

「了解。ちなみに、魔物について他に話はないの?」


 雑に応じてから質問すると、セイラが苦虫を噛み潰したような顔をする。

 流石に対応が悪すぎたかと反省。


「ごめん。セイラが言ってる事は、ちゃんと聞いてるから」

「あ、いえ、そうじゃなくって」

「え?」


 てっきり私の態度のせいだと思っていたので、違うと言われて意外に感じた。


「じゃあ、なんでそんな顔するの?」

「いや、それは……」


 セイラは少し程躊躇(ためら)った後に、ため息をつくように言った。


「魔物には、もう一つ特徴があるんです」

「さっきの質問の続き?」

「はい。その特徴は」

「うん」


 私をーー私の赤い瞳を見ながら、


「赤い瞳、です」


 と。


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