010.転生者
セイラが頬を膨らます。
「も、もう! なんで笑うんですか!」
「あ、や、ごめんごめん……おかしくってつい」
「酷いです!」
私が笑いを抑えようとしても抑えきれず、押し殺したような笑い声が部屋を満たす。
セイラも抗議をするも、それが逆に私の笑いを誘う悪循環。
最初こそ怒っていたセイラも、だんだんおかしくなってきたのか笑い出す。
「ぷっ……あはは、もう、ほんとに酷いです……っ」
「ご、ごめんってば……くっ、くくくっ……」
「それってどういう笑い声……」
「侍従長? どうされました?」
「「!!??」」
私達が笑い合っていると、私の侍女の一人が部屋の扉を開け、入ってくる。
セイラは素早く笑顔を消し、すまし顔を作る。
「いえ、何もないですけど」
「ぅあー」
完璧なポーカーフェイスで小首を傾げるセイラに、私も援護射撃。援護出来ているのかは不明だが。
「そうですか? さっき、侍従長以外の人の声もしたような……」
「気のせいではないですか?」
「そうでしょうか?」
「そうですよ。もう、気味の悪い事言わないでください」
「なら良いのですけど……」
侍女は、不思議そうに部屋を去った。
「……」
「……」
「……危なかったね」
「……ですね」
どうにか窮地を乗り越え、私達は息をついた。
そして、仕切り直してセイラに問うた。
「で、セイラも転生者ってどういう事?」
「ああ、それですね……そのまんま、私も転生者って事です」
「まんますぎる。私は魔族を倒すために転生させられたんだけど、セイラも? ……ごくん」
「へ? そんな事言われたんですか?」
私はてっきり肯定されると思っていたので、返ってきたのが疑問だった事に驚きを覚える。
「違うの?」
「全然違いますよ? 私は実験台だって言われました」
「実験台……? 神様に言われたの? それを?」
「はい」
あまりに非人道的な単語に思わず問い返すも、首肯される。
私はあの神様にそんなイメージは持ってなかったのだが。
「念の為聞くけど、アルテミスだったよね? ……ぺろり」
「そうですよ。アポロンではなかったです」
「アポロン……? 誰?」
「あ、分からない方でしたか? でしたら聞き流してください」
「はぁ」
突然知らない固有名詞が出てきて戸惑う。
だが、アルテミスが人を実験台にした? 本当はそんな人間……人間じゃないかもだけど、そんな存在だったの?
困惑する私に、セイラが補足した。
「あの、実験台と言っても、私は納得した上でしたよ? 報酬だってもらったし、失敗してもそんなにデメリットはなかったので」
「……そうなの?」
「はい。なので、神様に悪印象は持たないでください」
なるほど、そういう事か。
私の中の神様像が崩れずに済んで安堵する。
そして、ようやく一つの疑問が湧き上がった。
「実験台って、何の?」
実験台なら、実験の目的があるはずだ。
流石にセイラも知らないかと思ったが、普通に答えが返ってくる。
「正確には、練習台兼実験台でしたっけ? 本命の人を転生させる練習と、どんな感じで転生させるかの実験だって言ってました」
「……」
それを聞いて、二年前の記憶が蘇る。
確かあの時。神界で、私が「転生させるのは出来るんだ」と思った時。
『技術さえあれば可能です』
神アルテミスは、そう答えていた。
技術が必要。なら、その技術はどうやって磨く?
決まっている。練習して、試しまくるしかない。
「……なるほど、なぁ」
二年越しの種明かしに、私は納得するしかない。
「もしかして、本命の人ってアリアリーシェ様なんでしょうか?」
「そう、かもね。魔族討伐を頼まれたのは、私だけだし。むしゃむしゃ」
「にしても、なんでアリアリーシェ様?」
「昔は英雄だったからとか言ってたけど。ま、神の思し召しとしか言えない」
「言えてますね」
何故私だったのかなんて、そうとしか言いようがない。
なら、考えるだけ無駄。
頭を振って、話している最中に思いついた疑問を聞く事にする。
「で、セイラが受け取った報酬って何なの?」
「え、聞きますか?」
「嫌なら言わなくて良いよ?」
「別に嫌じゃないので、言いますね。それは」
「うん」
セイラは三秒くらい焦らして、もったいぶって。
「それは……」
「……焦らしすぎじゃない?」
「……ごめんなさい、改めて考えると、もったいぶる事でもなかったなと思って、気恥ずかしくなって」
「そっかー。で、何なの? あーん」
呆れ半分に問い直す。
セイラは咳払いをして答えた。
「私の子供が健康に過ごせるように、と」
「!?」
「え?」
私は本日何度目かの衝撃で、さっきあーんしたおかゆもどきを吹き出しかける。なんとか堪えたが。
しかし気管に入り、むせてしまう。
「げほっ、げほっ!」
「わ、わ……大丈夫ですか!?」
「大丈夫……けほっ」
セイラが背中をさすってくれる。
なんとか落ち着いて、深呼吸。
「セイラ」
「なんでしょうか?」
質問をするための、心の準備を整えて、聞く。
「セイラって、子供がいたの?」
私の勇気を振り絞った質問に。
「いましたよ?」
セイラはあっさりと、頷いた。




