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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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砕け散る五百年の理と、降臨する原初の炎



「全部乗せ(オールイン)だ……ッ!! 砕け散れェェェェッ!!」


音速を超えた俺の右拳が、アーサーの真正面に展開されたアテナの絶対防壁に突き刺さる。


激突の瞬間、質量をゼロから『無限大』へと極限反転させたパラドックス(矛盾)が、五百年間決して破られることのなかった神のことわりと真正面から衝突した。


メキィィィィィィンッ!!!!

「ガ、ァァァァァァァッ!!」


俺の右腕が、内側から爆発するような悲鳴を上げる。


だが、千切れない。セリアが己の魔力のすべてを注ぎ込み、俺の腕の表面数ミリを限界まで圧縮して固定している『白銀の固定具ギプス』が、自らの光を散らしながら、凄まじい反動を外側から押さえ込んでいる。


「……あり得んッ! 貴様のような矮小な魔力しか持たぬ最弱のクズが、我の理の城塞を……ッ!」


アーサーの蒼い瞳が、初めて明確な『恐怖と焦燥』に見開かれた。


レオンと翠蓮という二柱の猛攻によって、アーサーの意識と防壁の出力は一瞬だけ完全に前線から逸れていた。


その針の穴のような綻びに叩き込まれた、無限大の質量。


階位【3】であるヘルメスの風による相殺も、階位【4】であるデメテルの魔力供給も、この瞬間的な極大破壊には処理が追いつかない。


パキィィィィンッ……!!


ガラスが砕け散るような、甲高い音が太平洋の孤島に響き渡った。


絶対防壁——、アテナの黄金の盾が、蜘蛛の巣状にヒビ割れ、ついに粉々に砕け散ったのだ。


「——これで、すっきりしたぜ。金ピカ野郎」

防壁を貫通した俺の右拳が、そのままアーサーの顔面を真正面から打ち据える。


「ゴ、ハァァァァァァッ……!?」


五百年の覇王の顔が醜く歪み、その巨体がボールのように吹き飛ばされた。


沸騰する海面を何度も水切りするように跳ね、数百メートル先の溶岩の岩壁にズドォォォォンッ! と凄まじい音を立てて激突し、深くめり込む。


「やった……! 統、やりましたよ……ッ!」


魔力を使い果たし、膝をついたセリアが荒い息を吐きながら叫ぶ。


俺の右腕を覆っていた白銀のギプスも粉々に砕け散り、俺は腕をだらりと下げたまま、全身を襲う疲労と痛みに耐えてその場に立ち尽くした。


「……ハハッ。最高だぜ、坊主! やっぱりお前は、最高のイカサマ師だ!」


レオンが白銀のクレイモアを肩に担ぎ、翠蓮も荒い息を整えながら青龍偃月刀を下ろす。紅刃と雅も、ようやく安堵の表情を浮かべた。


ついに、ヤツの完璧な防壁をブチ破った。


だが——俺の背筋には、かつてないほどの『冷たい悪寒』が走っていた。


「……許さん」

土煙の向こう側から、地獄の底から響くような、低くドス黒い声が這い出してきた。


岩壁を砕き、立ち上がったアーサーの姿に、極東の全員が息を呑む。


「……よくも。よくも我の顔に、底辺の泥を塗ってくれたな。極東の羽虫どもがァァァァッ!!」


顔面の半分を陥没させ、おびただしい血を流しながらも。アーサーは【4】の豊穣神・デメテルの理でゴキボキと骨を強制的に再生させながら、夜叉のような形相で俺たちを睨みつけていた。


安全圏から盤面を弄んでいた冷酷なディーラーの面影はない。そこにあるのは、五百年のプライドを粉々に砕かれた、純粋な『怒りと殺意』だけだった。


「防壁などもう要らん……! 貴様らは、この島ごと、いや、この太平洋ごと消し炭に変えてくれる!!」


アーサーの背後で、——アポロンの黄金の光背が限界を超えて膨張し、頭上の黒雲からゼウスの青白い雷霆が『一本の極太の光柱』となってアーサーの右手に収束していく。


「マズいですよ! あれは……島を跡形もなく消し飛ばす気です!」


翠蓮が血相を変え、再び前に出ようとする。


「姉ちゃん、下がりな! あの規模の神威、お前のそのボロボロの魂じゃ相殺しきれねえ!」


レオンが翠蓮を庇い、白銀のクレイモアを両手で構え直した。だが、万物を両断する彼の権能であっても、空間そのものを焼き尽くすほどの質量兵器をすべて斬り落とせるかは分からない。


「……終わりだ、羽虫ども。我の前に、ひれ伏して消えろォォォッ!!」


アーサーが、収束させた太陽と雷霆のすべてを、極東のクランに向けて解き放とうと腕を振り下ろした。


その、瞬間だった。


——ピタリ、と。


アーサーの放つ黄金の熱と、青白い雷の威圧感が、世界から『消失』した。


「……あ?」


アーサーが、振り下ろした腕を止めて、呆然と空を見上げた。


俺たちも、呼吸を忘れて上空を仰ぎ見た。


頭上を覆っていたゼウスの黒雲が、まるで『燃える紙切れ』のようにチリチリと焼失していく。アーサーの放つアポロンの黄金の光背すらも、上空から降り注ぐ『さらに巨大で、濃密な光』によって、かき消されていく。


空が、物理的に割れた。


次元の裂け目から顔を出したのは、燃え盛る巨大な『くれない』。


単なる炎ではない。神の理や、魔力といった次元の力ですらない。


それは、人間が神話を紡ぐよりも遥か昔、星が生まれた瞬間に存在した、最も古く、最も純粋な『概念』の顕現。


【炎の原初神】。


「な、なんだ……あれは……」


レオンが、白銀のクレイモアを取り落としそうになりながら、愕然と呟く。三十年間、ただ強いヤツを求めてきた狂鬼の剣士が、初めて明確な『絶望と畏怖』に震えていた。


「バカな……! 我は三つの最高位を統べる覇王だぞ! アポロンの太陽を凌駕する炎など、この星に存在してたまるかァァァッ!」


アーサーが、天空から降り注ぐ紅の光に向かって、己のすべてを懸けたゼウスの雷霆を上空へと放った。


五百年の王の、最大最強の一撃。

だが。


『——■■■■■』


空が、鳴った。

言語ではない。星そのものの吐息のような、圧倒的な存在の波動。


原初の炎が、アーサーの雷霆に触れた瞬間。ゼウスの雷は、弾かれることも、相殺されることもなく、ただ『燃料』として紅蓮の炎に飲み込まれ、燃え尽きた。


「な……ッ!?」


アーサーが、絶望に顔を歪める。


「神格が、燃えている……?」


翠蓮が、震える声で呟いた。


アーサーが五百年間かけて簒奪し、組み上げてきた『ゼウスの雷』や『アポロンの太陽』という盤面のことわりそのものが、原初の炎の前ではただの『まき』として燃やされているのだ。


ズゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!


原初の紅い炎が、太い柱となってアーサーの巨体を頭上から真っ直ぐに飲み込んだ。


「アァァァァァァァァッ!! アテナッ! 防げ、防げェェェッ!! デメテル、我を再生しろォォォォッ!!」


アーサーは炎の中で絶叫し、己の持つすべての手札を狂ったように展開した。


だが、無意味だった。

再展開しようとしたアテナの【6】は、防御という概念ごと燃やし尽くされる。


ヘルメスの【3】の風は、炎を吹き飛ばすどころか延焼を助けるだけの酸素に成り下がる。


デメテルの【4】の超再生は、肉体が再生するよりも遥かに速い速度で、細胞の設計図ごと灰にされていく。


「い、嫌だ……! 我は、五百年の王だぞ……! この星の、支配者に……神に、なる男だぞォォォォォッ!!」


安全圏から他者の命を弄んできた覇王は、最後に神の威厳の欠片もなく、ただの死を恐れる一人の人間として、無様に、そして悲惨な絶叫を上げ続けた。


そして、数秒後。


炎が吹き抜けた後には、何も残っていなかった。


五百年を生きた覇王アーサー。三つの最高位【6】と、二つの下位権能をその身に宿した、世界最強のバケモノ。


彼が立っていたガラスの地表には、ただ一握りの『黒い灰』だけが、太平洋の熱風に吹かれてパラパラと散っていった。


「……嘘、だろ」


俺は、震える足でその場に座り込んだ。


俺たちが血反吐を吐き、魂を削り、すべてを全賭けして、ようやくその防壁を砕くことしかできなかった相手。


それが、突如として空から現れた得体の知れない炎によって、虫ケラのように、あまりにもあっさりと焼却されてしまったのだ。


『……統! 逃げてください、直ちにその空域から離脱を!!』


イヴの悲痛な叫びが、通信機から響く。


『あれは……【原初の神】です!!』

空が、真っ赤に燃え盛っている。


海はすでに蒸発を始め、露出した海底の岩盤が赤熱していた。


ただそこに存在するだけで世界を焼き尽くす古代の自然現象。


かつて中東の地で、友である氷王・レヴィのすべてを焼き尽くした因縁の炎の姿を、極東の狂ったイカサマ師と仲間たちは、ただ呆然と見上げるしかなかったのだった。

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