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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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灼熱の絶島と、五百年の絶対防壁



ゴォォォォォォォォォッ!!


八咫烏の輸送機から空中に身を躍らせた瞬間、全身の毛穴という毛穴が、暴力的なまでの『熱の壁』に叩きつけられた。


八咫烏特製の冷却魔術が編み込まれた耐熱コートを着ていなければ、空中で血液が沸騰し、一瞬で干からびていただろう。


眼下に広がる絶海の無人島は、すでに元の自然の姿を留めていなかった。


覇王アーサーが放つ【太陽神・アポロン】の圧倒的な神格により、島を囲む海水は白濁して沸騰し、海岸線の砂浜は超高温で溶け出し、ギラギラと反射する『ガラスの地表』へと変貌している。


「……息を、吸うのも痛えな」


ドスッ、と。ガラス化した大地にブーツをめり込ませて着地した俺は、肺を満たす灼熱の空気に顔をしかめた。


隣に降り立ったセリアも、白銀の刀を構えながら苦しげに息を吐く。


紅刃と雅は熱気を睨みつけ、レオンは分厚いブーツの底が焦げる匂いにも頓着せず、ただ純粋な歓喜の笑みを浮かべて白銀のクレイモアを肩に担いだ。


そして翠蓮は、白く焦げた髪の毛先を熱風に揺らしながら、静かに青龍偃月刀を構え、一切の隙のない武神の構えをとる。


「……よく来たな、極東のネズミ共」


島の中心。


天を焦がすような黄金の光芒の中心点に、その男は立っていた。


豪奢な漆黒の外套に、金糸の髪。


ただそこに立っているだけで、大気が彼の存在を恐れて震え、空間の『ことわり』が歪んでいくのが分かる。


【覇王・アーサー】


彼を取り囲むように、目に見えるほどの濃厚な神威が幾重にも渦巻いていた。


アポロンの黄金の光背、アテナの不可視の絶対防壁、ゼウスの青白い紫電。そしてそれらを己の肉体に無理やり繋ぎ止めるデメテルの豊穣と、ヘルメスの風。


強大な神格を、一切の苦痛も代償もなく己の血肉としている、五百年のバケモノ。


「わざわざ殺し合いの舞台を用意してくれたことには礼を言うぜ、泥棒野郎」


俺は、熱気で歪む視界の先、数十メートル離れたアーサーを真っ直ぐに睨みつけた。


「だが、テメェの驕りもここまでだ。俺の食卓テーブルを荒らした落とし前は、その金ピカの首で払ってもらう」


「……底辺のイカサマ師が、我の盤面で何をほざく」


アーサーは、深海のように冷たい蒼い瞳で俺たちを見下した。


「貴様らが何を企もうと、この絶対的な理の城塞の前では、ただ焼かれて消えるだけの塵に過ぎん。……せいぜい、無様に足掻いて我の暇を潰してみせろ」


「……言ってろ」


俺は低く呟き、右腕に【1の目】の魔力を静かに練り上げた。 


交渉も、長々とした口上も必要ない。

俺たちの命を懸けたチップは、すでにこの灼熱のテーブルに置かれているのだ。


「行くぞ……。ヤツの完璧な理に、泥を塗れ!!」


俺の号令と同時。


極東の陣営が、一糸乱れぬ完璧な連携でアーサーへと殺到した。


「先陣、もらうぜェェェッ!!」


最も速く動いたのは、レオンだった。


純粋な闘争心のみで引き当てた【6】の神威を爆発させ、ガラスの大地を粉砕しながら跳躍する。大上段から振り下ろされる白銀のクレイモアの、純度百パーセントの物理破壊の一撃。


「遅い。そして、軽い」


アーサーが微かに冷笑した瞬間。彼を覆う空間に、アテナの『絶対防壁』が黄金の六角形の盾となって顕現した。


ガァァァァァァァンッ!!


レオンの渾身の斬撃が弾かれ、凄まじい衝撃波が周囲のガラスを吹き飛ばす。


「ハハッ! 硬えな! だが、これでどうだ!」


レオンは弾かれた反動を利用して空中で身を捻り、防壁に剣を押し付けたまま強引に削りにかかる。


そのレオンの巨体の陰から、神速の抜刀術が閃いた。


「——『絶華・紫電』ッ!」


雅が、レオンの攻撃の余波で生じた防壁の極小の歪みを見逃さず、音を置き去りにする刺突を放つ。


さらに上空から、紅刃が太陽の熱すらも喰らい尽くすような巨大な紅蓮の炎を纏い、急降下してきた。


「金ピカ野郎! アタシの炎で丸焦げになりなァッ!」


斬撃、刺突、そして爆炎。


極東の最高火力が、アーサーの絶対防壁の一点に集中する。


「……愚かな」


アーサーは、防壁の内側で退屈そうに息を吐いた。


バチィィィィィィンッ!!


極東の連撃が直撃した瞬間、アテナの防壁がその衝撃を完全に吸収し、同時に【ヘルメスの風】の理が発動した。


レオンの剣の重さも、雅の刃の鋭さも、紅刃の炎の熱量も。すべてが『無害な風』へと変換され、アーサーの背後へと凄まじい突風となって排気エキゾーストされていく。


「なっ……アタシの炎が、風に……!?」


紅刃が驚愕に目を見開く。 


「……まだですッ!!」


突風の吹き荒れる中。


白く焦げた髪を振り乱し、翠蓮がアーサーの懐へと滑り込んでいた。


『龍神』と『旱魃神』の相反する理は封印し、純粋な【二郎真君(武神)】の極致たる体術と青龍偃月刀の連撃。


流れるような演武が、風に変換される前の防壁の『発生源』そのものを穿とうと、アーサーの喉元へ刃を突き立てる。 


「……小娘が」


アーサーの瞳が、初めて微かな苛立ちに細められた。


彼は防壁を張ったまま、右手に【ゼウスの雷霆】を顕現させ、翠蓮の偃月刀を直接払い除けようと腕を振るった。


神の雷と、武神の刃が激突する——そのコンマ一秒の隙。


絶対防壁の内側からアーサー自身が攻撃に転じたことで、ほんのわずか、針の穴ほどの『理の綻び』が生じた。


「——待ってたぜ、その一瞬をよォッ!」

俺は、セリアの展開した白銀の魔力障壁の陰から弾丸のように飛び出し、アーサーの顔面の真正面へと肉薄していた。



(……反発力のベクトルは極小。質量ゼロの慣性で一気に潜り込む!)


地下での血みどろの特訓の成果。


俺は自身の体を【1の目】で質量ゼロにし、【2の目】の反発力で音速の域まで加速。アーサーが翠蓮に気を取られ、防壁に微かな隙間が生まれたその絶対の死角へと入り込んだ。


「……ッ、極東のイレギュラー!」


アーサーの蒼い瞳が、初めて驚愕に見開かれる。


俺の右拳が、アーサーの鼻先に到達する。

その直前、俺は質量を『ゼロ』から『無限大』へと極限反転させた。


「【超音速質量弾オールイン・バレット】ッ!! ブチ抜けェェェェェッ!!」


右腕の筋肉が断裂し、骨が軋む音を無視して、俺は持ちうるすべてのチップ(命)を乗せたイカサマの右ストレートを、覇王の顔面へと叩き込んだ。


ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!


島全体を揺るがす轟音と、黄金と白銀の魔力が入り混じった凄まじい爆発が、灼熱の絶島を包み込んだのだった。

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