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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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覇王の招待状と、全賭けの決意



——西東京市、御堂家の地下医療室。


「……すぅ、すぅ……」


静かな寝息を立てる翠蓮の寝顔を見下ろしながら、俺は血の乾いた自分の両手を固く握りしめた。


アーサーが放った『太陽神・アポロン』の絶対的な熱の理。


その余波によって体内の神話が暴走しかけた翠蓮は、俺の『ウロボロス』による決死の魔力譲渡によって、なんとか概念の崩壊を免れ、深い眠りについている。


だが、無傷とは言えなかった。


艶やかだった彼女の美しい黒髪の毛先は、内側から沸騰した熱の代償によってチリチリと焼け焦げ、残酷なほどに真っ白に変色してしまっていたのだ。


「……統。手を、拭きましょう」


傍らに立っていたセリアが、温かいおしぼりで俺の血まみれの手をそっと包み込んでくれた。 


彼女の指先も、微かに震えている。


「……悪いな、セリア。せっかくお前が美味い飯を作ってくれたのに、最悪な空気になっちまった」


「謝らないでください。統は、ご自分の腕の骨を砕きながら翠蓮さんの魂を繋ぎ止めたんです。……誰のせいかなど、分かりきっています」


セリアの翡翠の瞳には、かつてないほどの冷たく鋭い怒りの炎が宿っていた。


医療室の入り口では、レオンが壁に背を預けたまま、無言で白銀のクレイモアの柄を撫でている。紅刃と雅も、押し黙ったまま武器の手入れを続けていた。


俺の家族クランは、誰も心が折れてなどいない。

ただ、理不尽にこの温かい食卓を燃やそうとした『天空の傲慢』に対する、純粋な殺意だけを静かに研ぎ澄ませているのだ。


その時だった。


『……統! 緊急事態です!』


司令室のメインコンソールを監視していたイヴの声が、地下全体にけたたましく響き渡った。


『極東の防衛結界が、外部からの強大な神格の波長によって強制的にハッキングされています! これは、王同士の魔力共鳴を利用した……直接の『通信』です!』


「通信だと……?」


俺が顔を上げた瞬間、医療室の空中に浮かび上がっていたホログラムモニターの映像が乱れ、ノイズと共に『一人の男』の姿が投影された。


豪奢な漆黒の外套。


絶対的な支配者の証である、威厳に満ちた金糸の髪。

そして、他者の痛みなど一切理解しない、深海のように冷酷で傲慢な蒼い瞳。


『——聞こえているか。世界の片隅で泥をすする、ネズミ共』


「……アーサーッ!!」


紅刃が激昂し、手にした大剣に紅蓮の炎を纏わせる。俺は手でそれを制し、モニター越しの覇王を氷のように冷たい視線で睨み返した。


「ずいぶんと悪趣味な嫌がらせだな。……夜中に人の家の屋根を太陽で炙っておいて、今度はテレビ電話かよ。五百歳にもなって、随分と暇なこった」


俺が皮肉を吐き捨てると、アーサーはモニター越しに薄く嗤った。


『吠えるな、極東のイレギュラー。我にとって、貴様らが生きようが死のうが、もはやどうでもいい些事だ』


アーサーの背後には、彼が簒奪した神々——アテナの盾、ゼウスの雷、そして新たなるアポロンの太陽の光背が、神々しく、そして悍ましく輝いていた。


『我の盤面は完成した。この絶対的な理をもって、我は近く、神殺しの闘争を管理する【女神】そのものをこの手で引きずり下ろし、星の理をすべて我の手に収める』

「……この星を、自分のオモチャにするつもりか」


「下らねえ。やっぱりテメェの剣は、ヘドロみたいに濁りきってやがる」


レオンが、忌々しそうに床に唾を吐き捨てる。


アーサーはレオンの言葉に微かに目を細めた後、無慈悲な宣告を口にした。


『だが、新しい神の座に就く前に……盤面に散らばる不愉快なゴミを、一度綺麗に掃除しておきたくてな』


アーサーが指を鳴らすと、モニターに一枚の地図が映し出された。


それは、太平洋のど真ん中に浮かぶ、絶海の無人島だった。


『三日後。太平洋の中心に位置するこの島へ来い、極東の王。……貴様らの持つ泥臭い手札のすべてを賭けて、我という絶対の神話に挑むことを許してやろう』


「わざわざ殺し合いの舞台を用意してくれたってわけか。……もし、行かねえって言ったら?」


俺が問うと、アーサーの蒼い瞳が、極寒の殺意を帯びて細められた。


『その時は、我が太陽神アポロンの理を、貴様らの頭上に直接降ろす。……貴様らが這いつくばって守ろうとしているその小さな島国を、端から端まで、すべてガラス張りの灰燼かいじんに変えてやろう』


「……ッ、この外道が!」


雅が妖刀の柄を強く握りしめる。

自分から赴いて皆殺しにされるか。

それとも、逃げ隠れて極東の地ごと太陽の熱で焼き尽くされるか。

それは交渉でもなんでもない、ただの『死の脅迫レイズ』だった。


『良い返事を期待しているぞ、極東の狂人ども』


その言葉を最後に、通信はプツリと途絶え、地下室には重苦しい沈黙だけが残された。


「……」


俺は、静かにモニターから目を逸らし、自分の右腕を見下ろした。


超再生で塞がったとはいえ、まだ芯に鈍い痛みが残っている。だが、そんなことはもうどうでもよかった。


「統。……どうしますか」


セリアが、不安と覚悟の入り混じった声で俺の背中に問いかける。


俺は、ゆっくりと振り返り、仲間たちの顔を一つ一つ見渡した。


不安に揺れる者など、ただの一人もいなかった。レオンは不敵に笑い、紅刃と雅は武器の柄を強く握り締め、セリアは俺の言葉を真っ直ぐに待っている。


そしてベッドには、俺たちのために魂をすり減らした、大切な義姉が眠っている。


「……決まってんだろ」


俺は、口角を獰猛に吊り上げ、最高に泥臭いギャンブラーの笑みを浮かべた。


「あの金ピカの成金野郎は、大きな勘違いをしてやがる。俺たちは、怯えて泥をすするネズミなんかじゃねえ。……相手が五百年のバケモノだろうが、神様だろうが関係ない。俺のテーブルを燃やそうとした泥棒には、相応の落とし前を払わせる」


俺は、司令室のスピーカーに向かって声を張り上げた。

「イヴ! 太平洋の無人島までの移動手段と、あのバカげた太陽の熱を防ぐための特注の耐熱防護服を手配しろ! 三日後、極東のクランは総力戦で島に乗り込む!」


『……了解しました、統。八咫烏の全リソースを投入し、決戦の準備を進めます』


俺は自分の右手の拳を、左の手のひらに強く打ち付けた。


「行くぞ、お前ら。……あのバカげた安全圏から神の理を弄ぶ狂王の玉座に、俺たちの命と魂……持ちうるすべてのチップを『全賭け(オールイン)』してやる」


世界を理不尽な光で焼き尽くそうとする覇王アーサー。

その絶対的な暴力に抗うため、極東のイカサマ師と仲間たちは、生還の保証など一切ない太平洋の死地へと赴く覚悟を決めたのだった。

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