東京湾の激闘と、女帝の新たな手札
統が奥多摩の山中で剣神と死闘を繰り広げていたのと同じ頃。
東京湾の沖合は、まるで世界の終わりを思わせるような大シケに見舞われていた。
「グルルルォォォォォッ!!」
海面を割り、天を突くほどの巨体を現したのは、ギリシャ神話における巨大な海竜だった。
その一鳴きで巨大な津波が発生し、東京の湾岸地帯を飲み込もうと迫り来る。
「させませんよ。……絶華・氷壁ッ!」
だが、津波が街に届くより早く。
紅のチャイナドレスを翻した翠蓮が、海面上を滑るように駆け抜け、手にした青龍偃月刀を一閃させた。
中国の武神『二郎真君』の【6】の権能と、中国拳法の気を融合させた斬撃が、迫り来る数十メートルの津波を一瞬にして凍結・粉砕する。
「紅刃さん、雅さん! 街への被害は私が防ぎます! あなたたちはあの巨体の『足止め』を!」
「了解です、女帝様!」
「任せな! アタシの炎で、海ごとあのトカゲを茹で上がらせてやるよ!」
翠蓮の指示に合わせ、紅刃が空へ飛び上がり、最大火力のプロミネンス(紅炎)を海竜の頭上から降り注がせる。同時に、雅が神速の抜刀術で海竜の硬い鱗の隙間を的確に斬り刻んでいく。
「ギャァァァァァァッ!!」
紅刃と雅の波状攻撃に、海竜が苦悶の咆哮を上げる。
巨体がバランスを崩し、海面に隙を見せたその一瞬を、歴戦の王である翠蓮が見逃すはずがなかった。
「……沈みなさい」
翠蓮は足元の海水を蹴り上げて遥か上空へと跳躍すると、青龍偃月刀にありったけの『神威』を収束させた。
「——二郎真君・神槍墜ッ!!」
空から隕石のように振り下ろされた斬撃が、海竜の脳天から急所である核までを真っ二つに両断する。
「ゴ、ル……ァ……ッ」
巨大な海竜は海を赤く染めながら光の粒子となって消滅し、東京湾の海面は嘘のように静けさを取り戻した。
ピタリ、と時間が停止し、翠蓮の意識は『精神世界』へと引き上げられる。
『……お見事です、女帝。神を討伐したあなたに、権能の簒奪を許可します』
システムの女神の声が響く中、翠蓮は優雅に扇子を広げた。
「ええ。さっさと振らせていただきますよ。極東の可愛い弟が、心配ですからね」
翠蓮がサイコロを蹴り上げる。
出た目は——【4】。
『結果は【4の目】。……ケルト神話の海神が持つ、海水を自在に操り、水流の盾を形成する権能』
「……【4】ですか。まあ、悪くない手札ですね。防御に厚みが出ます」
翠蓮は冷静に結果を受け入れた。彼女の持つ【6】の武神の権能は攻撃に特化しすぎているため、水流による流動的な防御手段は、今後のアーサー戦において貴重なサポート札となるはずだ。
「さあ、急いでホームに戻りましょう。すばる君の無事を確認しなくては」




