最古の王と、飛来する紅き流星
「我は、他の有象無象の王とは次元が違う」
男が指を鳴らすと、俺の拳を防いでいた『光の盾』が実体を持ち、美しい黄金の装甲へと変化した。
「ギリシャ神話における最高峰の女神。絶対防壁を司る【アテナ】の『アイギスの盾』。……そしてもう一つが、全知全能の雷帝【ゼウス】の『ケラウノス(雷霆)』だ」
男の右手に、空間を焼き焦がすほどの『裁きの雷』が顕現する。
「な……【6】の階位である、最高位の神格の権能を……『二つ』同時に使ってるだと!?」
俺は絶望的な光景に戦慄した。最高位の神を二柱も同時に解放すれば、どんな不老不死の肉体だろうと反動で一瞬で自壊するはずだ。
「貴様は疑問に思っているな。なぜ我の肉体が崩壊しないのかと」
男は、アテナの盾で俺の拳を弾き返し、ゼウスの雷を空高く掲げた。
「我は【4】の階位である豊穣神【デメテル】の権能で、失われる魔力を常に『超再生』し続けている。さらに【3】の階位である風神【ヘルメス】の権能で、肉体にかかる物理的な負荷(反動)をすべて風へと逃がしているのだ」
防御も、攻撃も、魔力回復も、反動の相殺も。
目の前の男は、複数の神の権能をパズルのように完璧に組み合わせ、自身の弱点を一つ残らず『完封』していた。
「これが五百年という時間。王の頂点に立つ者の、絶対的な支配の形だ。……消えろ、極東のイレギュラー」
ズドォォォォォォォンッ!!!!
「ガ、ァァァァァァァッ!!」
男の放ったゼウスの雷霆が、俺の肉体を真正面から撃ち抜いた。
細胞レベルでの破壊。俺の体は黒焦げになりながら、玉座の間の瓦礫の奥深くまで吹き飛ばされた。
「統ッ!!」
「この、バケモノがァァァッ!!」
セリアが白銀の雷光を放ち、紅刃が最大火力のプロミネンスを叩き込み、雅が神速の抜刀で男の首を狙う。
だが。
「……五月蝿いハエどもだ」
男がアテナの絶対防壁を展開しただけで、三人の渾身の攻撃はすべて光の粒子となって霧散し、逆に強烈な衝撃波となって彼女たちを壁際まで吹き飛ばした。
「きゃあぁぁぁッ!?」
誰も届かない。イカサマのブラフも、仲間の連携も、途方もない時間をかけて組み上げられた「完璧な権能」の前では、文字通り赤子扱いだった。
「……ここまでか」
瓦礫の中で、俺は視界が真っ赤な血に染まっていくのを感じていた。
体は一ミリも動かない。完全に魔力は底を突き、呼吸すらも止まりかけている。
カツン、カツンと。
男がゆっくりと歩み寄り、俺の首を刎ねるためにゼウスの雷霆の剣を振り上げた。
「……実に無様だ。極東のちっぽけなテーブルごと、永遠に消し飛べ」
男の刃が、無慈悲に振り下ろされた。
——俺の日常が、完全に終わる。そう覚悟した、その瞬間だった。
ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!!
突如として、カルパティア山脈の夜空を切り裂くような、凄まじい『ソニックブーム(衝撃波)』が玉座の間の天井を粉砕した。
「……何?」
男がわずかに雷霆の剣を止めた、その隙を縫うように。
上空数千メートルから、パラシュートすらつけずに『一本の紅い流星』が、玉座の間に真っ直ぐに墜落してきた。
メキメキメキィィッッッ!!!!!!
流星は、男の目の前の石畳をクレーターのようにへこませながら着地し、凄まじい『気(魔力)』の波動を放って男を数メートル後退させた。
土煙が晴れる。
そこに立っていたのは、艶やかな紅のチャイナドレスの裾をはためかせ、両手に『龍の彫刻が施された青龍偃月刀』を構えた、世界最強の武闘派の王。
「……すばる君。遅くなってごめんなさい」
「……す、いれん……」
俺の掠れた声に、彼女は一度だけ優しく微笑みかけ、すぐに目の前の男へと鋭い殺気を向けた。
「イヴから、通信で一部始終は聞いていました。……中国軍の最新鋭ステルス音速機を強引に飛ばさせて、空から直接飛び降りてきましたよ」
翠蓮の全身から、かつて俺との特訓で見せたものとは次元の違う、本気の『【6】の神威』が陽炎のように立ち昇る。
「私の不在を狙って、私の愛する弟と、その家族に手を出した落とし前……。高くつきますよ、古き王」
極東のピンチに駆けつけた怒りの女帝が、絶対的な支配者との間に立ちはだかった。




