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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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極東の査問会議と、白銀の第一ベット



ドンッ!!!


西東京アジトのダイニング。


早朝から、分厚い木のテーブルが真っ二つに割れんばかりの勢いで叩かれた。


「納得いかないわ!! なんで翠蓮さんだけ、二日連続で統とデートしてんのよ!!」


仁王立ちするセリアが、白銀の髪を逆立てて俺を睨み下ろしている。


その両脇では、雅が刀の鯉口をカチャカチャと鳴らし、紅刃が大剣を肩に担いでガン飛ばしをしてきた。完全に極東の査問会議だ。


「……朝からうるせえな」


俺は欠伸を噛み殺し、淹れたてのコーヒーに口をつける。


向かいの席では、渦中の武神・翠蓮が優雅にトーストを齧っていた。


「すばる様。いくらなんでも不公平です。この極東カジノにおいて、ディーラー(すばる様)の偏愛は盤面の崩壊を招きます」


「そうよ! 一昨日はカフェと路地裏! 昨日は映画館と観覧車! アタシたちを差し置いて連チャンなんて、イカサマにも程があんぞ!」


詰め寄る三人娘に対し、俺はコーヒーカップを置いて短く息を吐いた。


「オイ。イカサマ師のテーブルに文句つけんのは筋違いだぜ。あの二日間は、全く別の『賭け』の結果だ」


「……?」


セリアが眉をひそめる。


「一昨日の初デートは、南米の死地(アペイロン戦)で俺の命を拾った『前払い』の取り立てだ。あの時、翠蓮が一番に権利を主張した。ギャンブルは先にベットした者が主導権を握る。だろ?」


俺の言葉に、三人がウッと言葉に詰まる。


確かにあの祝宴の席で、翠蓮はいち早く俺に密着し、デートの権利を宣言していた。


「で、昨日の二回目のデートは、お前らが持ちかけた『ポーカー勝負』の正当な勝利報酬だ。……つまり、翠蓮は別のゲームで二回連続で勝ったから、二日連続で俺の隣(特等席)に座った。それだけの話だ」


「あら、すばる君。私の完璧なプレイングを代弁してくれて嬉しいわ」


翠蓮が艶然と微笑み、コーヒーを啜る。


「……っ、でも! ポーカーは翠蓮さんが闘気でデッキをズラすイカサマをしたじゃない!」


紅刃が食ってかかるが、俺は肩をすくめた。


「俺のテーブルじゃ、見抜けなかったイカサマは『正当な手札』だ。テメェらがコールするタイミングを逃しただけだろうが」


ぐぬぬ、と三人が同時に唸り声を上げる。


南米の死地での功績と、ポーカーでの勝利。二つの異なるゲームの報酬が重なったからこその「二日連続デート」。論理ロジックで反論できなくなった彼女たちは、悔しそうに唇を噛んだ。


「……ふふっ。というわけですから、今日からのデート権は、皆さんに平等にチャンスがありますよ?」


翠蓮が、余裕たっぷりの勝者の顔で三人を煽る。


「言わせておけば……ッ!!」


セリアがバンッ、と再びテーブルを叩いた。

そのまま厨房へと駆け込み、数分後、凄まじい熱気と共に戻ってくる。


「——なら、今ここで新しいチップを積むわ!!」

ドンッ!


俺の目の前に置かれたのは、完璧な焼き加減の厚切りベーコンエッグ、湯気を立てるミネストローネ、そしてふっくらと焼き上がったパンケーキの山だった。


「……おい、セリア。なんだこれ」

「私の全賭け(オールイン)よ!!」


セリアは顔を真っ赤にしながら、俺の目の前でエプロンをきつく結び直した。


「胃袋を掴むのは女の基本でしょ!? あんたが死にかけてボロボロだった時も、私がずっと流動食を作って看病してあげたじゃない! 今日は私が、あんたの一日を買い取るわ!!」


白銀の盾の騎士による、物理的かつ家庭的な強行突破。


そのあまりに真っ直ぐな好意のベットに、雅と紅刃が「しまった」という顔をした。


「……ふむ。なるほど」


俺はフォークを手に取り、ベーコンエッグを一口囓った。


絶妙な塩加減と、半熟の黄身の甘みが口の中に広がる。戦場ばかり歩いてきた俺の身体に染み渡る、文句のつけようがない美味さだ。


「……悪くねえ手札だ。コールしてやるよ」

「ほんと!?」


セリアの顔がパッと輝く。


「す、すばる様! 私もすぐにお茶を……!」

「アタシも肉焼く! 冷凍庫の肉全部焼くから待ってろ!!」


「遅えよ、お前ら。今日の特等席は、セリアのベットで決まりだ」


俺がそう告げると、セリアは「よっしゃぁぁぁッ!!」とガッツポーズを決め、翠蓮に向かってドヤ顔を向けた。


翠蓮は「やれやれ」といった様子で微笑んでいる。


「で、セリア。どこに行きたいんだ?」


俺がパンケーキを切り分けながら尋ねると、セリアは少しだけモジモジと指を絡ませ、上目遣いで俺を見た。


「……買い物。あんたの服、私が全部コーディネートしてあげる。……そんで、その、クレープとか、食べ歩きしたい」


「……随分と可愛らしい要求だな」


「う、うるさいわね! 何か文句あるの!?」

顔を真っ赤にして怒鳴るセリアを見て、俺は思わず吹き出した。


「いや。いいぜ、付き合ってやる」


アペイロンを倒し、神々の理が消え去った世界。


俺の周りの盤面は、血の匂いから甘い匂いへと完全にすり替わっていた。

「じゃあ、食ったら行くか。俺の第一の騎士サマ」


「……うんっ!」


極東のイカサマ師の休日は、まだまだ賑やかに続いていく。


今日は、白銀の騎士にエスコートされる番らしい。


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