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神殺しのダイス・マキア ~最弱ギャンブラー、命をチップに傲慢な理を物理で粉砕する~  作者: kiro


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極東のポーカーフェイスと、恋の全賭け(オールイン)



西東京アジトのダイニング。


神を殺した時よりも、遥かに重苦しい沈黙がテーブルを支配していた。


「……で? いつまで睨み合ってんだ、お前ら」

トランプを切る乾いた音だけが響く。


俺の目の前には、腕を組んで殺気を放つセリア、正座で目を閉じる雅、貧乏揺すりが止まらない紅刃。そして、一人だけ余裕の笑みを浮かべて紅茶を啜る翠蓮が座っていた。


「睨み合っても仕方ないでしょ。……昨日のアレ、どう落とし前つけてくれるのよ、統」


セリアがジロリと俺を睨む。昨日の夕暮れ、翠蓮に頬にキスされた現場をバッチリ目撃されてから、このアジトの空気はずっとコレだ。


「すばる様。極東の風紀を正すためにも、次は私がすばる様と健全な市中見回り(デート)に赴くべきかと」


「ふざけんな! アタシが先だ! ほっぺたじゃ足りねえ、アタシは……もっとすげーとこにベットしてやる!」


紅刃が顔を真っ赤にして立ち上がる。


三人の視線がバチバチと交差し、ただの口喧嘩なのにダイニングの空気が物理的に軋み始めた。グラスの水が震え、電球がチカチカと点滅する。


(……こいつら、マジで加減を知らねえ)


俺は深くため息をつき、シャッフルしていたトランプをテーブルの中央にドンッと置いた。


「わかった、わかったよ。……お前らの言い分はよくわかった」


俺は立ち上がり、ディーラーのように滑らかな手つきで、四人の前にそれぞれチップの山を滑らせた。


「ここは俺の開いたカジノ(極東)だ。特等席(俺の隣)が欲しけりゃ、テーブルのルールに従え」

「……勝負で決めろって言うのね?」


「そうだ。テキサスホールデム・ポーカー。一番チップを稼いだ奴の言うことを、一日だけ何でも聞いてやる」


その言葉が出た瞬間。


四人の瞳から、一切の甘さが消え去った。


***


「——コール」


セリアが静かにチップを押し出す。


白銀の盾の騎士らしく、そのポーカーフェイスは完璧だ。手札の強弱が全く読めない。絶対防御は伊達じゃない。


「……レイズ」


雅が、鋭い視線でセリアを見据えてチップを積む。


刀を構える時と同じ、研ぎ澄まされた集中力。相手の呼吸や筋肉のわずかな動きから、手札の「気配」を読もうとしている。


「チッ……上等だ。アタシは全賭け(オールイン)だァッ!!」


紅刃が、手元のチップを乱暴にテーブルの中央へ押し出した。


ブラフもクソもない。ただ純粋な火力と度胸で盤面を制圧しようとする、特攻隊長らしいプレイング。


「あらあら。紅刃ちゃん、そんなに熱くなると足元をすくわれますよ? ……私もオールインで」


翠蓮が艶然と微笑み、紅刃の全賭けに乗った。

場に積まれたチップの山。ディーラーである俺は、静かにテーブルの中央へ最後のカード(リバー)を開いた。


「ショーダウン」


俺の合図で、四人のカードが開かれる。


「……ワンペア」


セリアが悔しそうに唇を噛む。手堅すぎた。


「……ツーペアです」


雅もわずかに目を伏せる。相手の気配を深読みしすぎた結果だ。


残るは、紅刃と翠蓮。


「ハッ! アタシはスリーカードだ! 悪いが、明日の統はアタシがもらうぜ!!」


紅刃がバンッとテーブルを叩き、勝ち誇ったように笑う。


勝負あったか。俺がチップを紅刃に寄せようとした、その時。


「……ふふっ。甘いですね、紅刃ちゃん」


翠蓮が、ゆっくりと自分の手札を指で弾いた。

開かれたカードは、同じマークが五枚。


「フラッシュ。……勝負あり、ですね」


「な、にぃぃぃぃぃッ!?」


紅刃が絶叫し、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。


「嘘よ……また翠蓮さんが抜け駆け!?」


「くっ……私の心眼が通じないとは……!」


騒然となるテーブル。

翠蓮は、俺の方を見て、悪戯っぽくウィンクをした。


その妖艶な微笑みは、昨日の路地裏で見せた乙女の顔とは違う、完全に『武神』の顔だった。


***


「……で? 何が望みだ、勝者サマ」


片付けを終えた俺が尋ねると、翠蓮は俺の首に腕を回してきた。


周囲には、敗北のショックで真っ白に燃え尽きている三人娘が倒れている。


「そうですねぇ……。昨日のお礼の『続き』でも、してもらおうかしら」


「……調子に乗るなよ」


俺は苦笑し、翠蓮の額を軽く指で弾いた。


「あいたっ。……すばる君、女の子に乱暴はダメですよ?」


「イカサマ師の目は誤魔化せねえよ。テメェ、最後に俺が配ったカードのデッキの底、闘気を使ってわずかにズラしただろ」


俺の言葉に、翠蓮は「あら」と目を丸くした後、クスクスと笑い声を上げた。


「バレていましたか。でも、イカサマを見抜けなかった他の子たちの負けですよ?」


「……まあな」


俺は肩をすくめた。


誰が勝とうが、どうせ俺の特等席は一つしかない。


「明日はお前の好きにしろ。ただし、路地裏のショートカットは禁止だ」


「ふふっ。わかりました。……覚悟しておいてくださいね、すばる君」


平和なアジトに、騒がしくも甘い時間が流れていく。


神殺しのゲームが終わっても、俺の盤面テーブルは相変わらず、退屈とは無縁らしい。

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